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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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似た者同士

カリンを抱えて一階に戻るとハヴェルン勢がサーッと顔色を変えた。王都から来たウルリヒ兵も気まずそうな顔をしている。


「ガウス殿、ハプトマン様は大丈夫ですか?」


魔法陣の中からグリンデが問いかける。


「ああ、グリンデ殿心配ないですよ。えーっと、すみませんカリンの部屋はどちらを使えば?」


「私が案内しよう。誰か二人程下のヴィグリーと交代してやってくれ。」


すぐ後ろから上がってきたヤルナ将軍が先に立つ。その後ろをカリンを抱えたルディが付いて行った。


その後ろ姿を見て王都から来た一群は一様にホッとした顔をする。


「今回はあまりお転婆しなかったようだな。」


「エンケル将軍、聞かれたら殺されかねませんよ・・・将軍が名指しで連れてきたんでしょう。」


「そりゃ、あれだけ動けるんだ実戦に出したくもなるだろう。それに、ほれなんだ穢れ!それもアレのお陰で落ちたんだろう?」


「だーから、あんまり簡単に言わないでくださいって!ガウス魔法師本気で怒りますよ。」


「もったいないのぉ。あれだけの才がありながら一侍女の身分とは。軍に入れば佐官クラスにすぐ上がって来れように、まぁ優し過ぎるから向いてはないがな。」


「もー、わかってるんじゃないですか。しかし、何故ハプトマン嬢をこの様な危険な実戦に?」


「・・・王太子殿下が役に立つから二人セットで連れて行けと言われてな。」


ハヴェルン勢はそこでガックリ肩を落とした。絶対面白半分で連れて来てるこの人達・・・。そこへ階下から駆け足でヴィグリー少尉が上がって来た。


「あ、お疲れ様です皆さん。あと少しで剣の方も仕上がりますので、あと魔法師殿方は残りの翼竜も放していただけますか?窮屈だと思うので。じゃ!ちょっと将軍とこ行ってきます。」


爽やかに片手を上げて将軍らが消えた方へ走って行く。


「彼も切れ者の様だが、なぜ少尉なのかな?」


エンケルの呟きにウルリヒ兵が答えた。


「なんでも出世すると将軍の側を離れる日が来るからと何度も昇進を拒んでいるんですよ。」


「彼は将軍の幼馴染でして、昔っから危なっかしいので端で見てないと心配らしいですよ。」


「じゃあ、ルディとカリンの様なものか。」


「我々はまだガウス魔法師殿とハプトマン嬢をよく知りませんが、まあ似た雰囲気がありますね。」


ハヴェルンとウルリヒの兵士らが好き放題言っている頃、


「おい、魔法師。その娘大丈夫なのか?」


どうやら部屋の前に着いたらしい、ドアの前で振り返り将軍が問いかける。


「ええ、今までのなかではマシな方です。この子自身も穢れが付いていましたから浄化出来ましたし。」


華奢に見えるが泉からずっとカリンを抱いてきたルディはにっこりと笑う。ヴィグリー少尉がドアの鍵を開け中へ通す、


「ガウス魔法師、マシな方ってどういうことです?」


中に入るとカーテンを開けながらヴィグリー少尉が聞いてくる。小さな部屋だが部屋中に厳重な結界を張り巡らされている。初めからカリンの為に用意したのだろう、自分達の部屋は実に男臭い作りだがこの部屋は急ごしらえで女性仕様に作り変えられている。ベッドのシーツも真新しい。とりあえずルディはカリンをそこへ寝かせた。


「この子、よく無茶するんですよ。その度に今みたいにダウンして僕と力の交流をするんですけど・・・」


カリンの顔にかかった髪の毛を整えながらもう一度耳を近づけ呼吸を聞く。そして驚いたような安心したような表情で布団をかけてやると将軍たちを振り返った。


「今回はよく眠っているようです、疲労もなさそうだ。お陰で交流の手間が省けました。で、ところでこの部屋は何なんですか?」


まるで、何かを閉じ込めておく様な結界を施された部屋について、静かに微笑みながらも威圧感のある声でルディが砦の主に問いかけた。


「えらく僕らと扱いに差があるんですけど。」


「その娘を閉じ込めるために特別に用意した。ヴァンヴィヴリアから護る為にな。」


「すいません、報告が遅れて。カリンちゃんは何か特別らしいいから向こうの王子にも話が聞こえてるらしいんですよ。今回の狙いはカリンちゃんの力を手に入れこの砦潰しを本格的にやるつもりらしいんすよ。あ、これ偵察に出てた翼竜が仕入れた情報で俺らはてっきり無力なお嬢さんだと思っていたので厳重な結界を施したりしたんすけどね。」


「ハプトマンの名が付く人間はこの世界にその娘一人しかおらん。あちらの王子も力が欲しくて躍起になってるようだからな。」


「あ〜、でもこの部屋に閉じ込めるのは無理っすかね?大人しくしてるような感じの子じゃないし。」


「狙いはカリンでもあるのですね・・・」


顎に手をやりルディが考え込む。実戦には出したくないのは本音だ。しかし、大人しくこの部屋に隠れてくれるとも思えないし、この程度の結界で護り通せるとも思えない。


「ん・・・」


「あ、起きたかな。カリン、大丈夫かい?」


「あれ?どこですかここ。」


「砦の方々が君の為に用意してくれた部屋だよ。」


「砦・・・あ!将軍は⁉︎」


ガバッと勢いよく起き上がると目の前に将軍が居た。


「この度は禊に付き合わせて悪かった。具合はどうだ?」


「はい、大丈夫です。」


「そうか・・・長い間、滝に打たれていたからどうなるかと思ったが案外丈夫に出来てるな。」


ルディが懐から短刀を出し手渡す。


「今回はお手柄だよカリン。」


反対の手で頭を撫でてやると、カリンは目を丸くして驚いた。


「え、あ、お、怒らないんですか?」


「怒るどころか褒めてあげるよ。君のお陰で剣も将軍と君の穢れも落ちた。泉も浄化されこの砦自体の結界も強化されている。元はと言えば君が小鬼族と上手く話をつけたお陰だよ。」


それを聞いてパアッと顔を輝かせて微笑った。すっかり二人の世界が出来ているのを見ながらヴィグリーが呟いた。


「アレっすね、俺こんな光景昔よく見てましたわ。」


「・・・私は多分この娘よりは大人しかったぞ。」


自分の過去を思い出し、ため息をつきながら将軍が声をかける。


「で、魔法師どうする?ハプトマンをこの部屋に匿うか連れて行くか。」


その言葉にカリンが振り返る。


「私はルディ様にお仕えする侍女であり近侍です。戦場にはもちろん行きます、それが女神ハプトマンからの神託でもあります。」


それを聞いて将軍も頷いた。


「確かにイニャス王子から聞いた通りのじゃじゃ馬らしい。では、じきに始まる戦では頼んだぞ。」


「はい!」


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