兄弟の仲
アルベリヒ殿下が人払いしたからには何か重要な話があるのだろうと思いながらもお茶を飲む。その前にあれを確認しておかなければ・・・。
「あの、殿下。私の職務内容欄が未定になっていたのですが、何かの手違いですよね?」
「それ、間違いじゃないですよ。」
隣からオブリーが言う。
「私も未だに未定ですから・・・・・・。」
「いやちょっと待て、俺の腹を満たしてから話すから。な?そんな不審な目で見てくれるなよ。」
お互い何も言わないが一抹の不安があった。特にオブリーは既に魔法省勤務が決まりその準備もできていたはず。それを直前でいきなり王太子付きの職場に変更だ、もし気まぐれでやられてたらたまらない。口の中のものを咀嚼し終えてお茶を飲むと話が始まった。
「俺はな信頼できる味方が少ないんだよ。だから、お前達2人を引き抜いた。」
今まで王太子は病弱でずっと離宮で暮らしていると世間では思われていた。先の王妃つまり王太子の母親は病弱でアルベリヒを産んでしばらくして亡くなった。小さい頃のアルベリヒは確かに虚弱だったらしい、それは周りの過保護も影響しての事だが心配した国王が空気と環境のいい離宮へ暫く住まわせることになったのだ。
そのうちに、王宮内では世継ぎが一人ではもしやの時にと側室や新しい王妃を望む貴族らの声が大きくなってた。要は、自分たちの縁を王家にという身勝手なものが多かったらしいがそれでも国王は先の王妃を大切に思っておりまた、貴族たちの大半の思惑も解っていた為なかなか首を縦に振らなかった。
しかしある時、大陸の中でも一番の小国であるバケシュの側室の産んだ姫君を娶ることになる。ハヴェルンとバケシュ公国は元をたどれば縁があり、たまたまそのバケシュ公国の視察に出向いた折、現在の王妃の存在を知ることになる。母親は貴族の出身ではなく侍女として王宮に仕えていたが、戯れに公爵に手をつけられ生まれ落ちた。母親は早くに亡くなり後ろ盾もない身分の為にひっそりと暮らしていたが、庭で模様されたパーティーで偶然ハヴェルン国王と出会う。身分は低いものの利発で優しいたおやかな様とそれまでの公国内での扱いを聞き及び、半ば強引に連れ帰ったという話が残っている。
予想外の王妃誕生に貴族たちはこぞって驚き、せめて側室程度にすべきではと進言する者もいたが頑として国王は譲らず現在の王妃と今でも仲睦まじく暮らしている。そしてまずヴィルヘルミナ王女が誕生しその2年後にはオーランド第二王子が、その下には少し離れて双子の姫君が誕生している。
「で、今何が起きているかというと愛しい妹ヴィルヘルミナがウルリヒに嫁いだだろう?だからそろそろ俺も表舞台に出んといかんなぁ、と出てきてみれば見事に殆どの貴族がオーランド派なんだよ。」
確かに今までも、いつまでも離宮から帰ってこない王太子は何か人前に出られない病ではないかとか、これほど王宮から離れていて内情もわからない王太子よりも国政を国王の下で学んできた第二王子をこのまま後継にしてはどうかという話が出ていた。しかし、王太子も今までのんびり離宮で暮らしてきたわけではない。表立ってはいないがオーランド殿下と密に連絡を取り指示を出していたのは実は王太子の方なのだ。離宮では往年の名将デニス・エンケル将軍を筆頭に精鋭の近衛隊を作り、また自身も共に鍛錬し腕前もいいと聞いている。そして、鴉と呼ばれる密偵部隊も創設されているらしいがこれは密偵だけに詳しいことはわからない。ちなみにこの事は殆どの貴族は知らされていない。ごく少数の信頼されたものだけが王太子の本当の姿を知っている。
「でな、ヴィルヘルミナが嫁に行くことが決まった時に言い出したんだ。自分が国外へ出れば必ずオーランドを次の国王にしようと動き出す輩が出てくるからうまく躍らせて根こそぎ排除しろと。それができないようなら時期を見てウルリヒから攻め込みに来るとな。あいつ、ホントに怖いよなぁ。あれは本気だったぞ。」
「でも、オーランド殿下とアルベリヒ殿下は仲違いする理由がないじゃないですか。」
「それができたんだよ、理由が。お互いの妃候補に・・・」
まさか・・・思わず攻撃体制に入っていたらしいオブリーが強固な防御魔法を使っている。
「えっとな、その妃候補者の名が・・・アレクシア・カーテローゼ・ハプトマン・・・」
ここで攻撃魔法なんか使ったら極刑ものだと頭の隅に冷静さがあったのか、どうも僕はそこまで聞いてすぐに移動魔法で家に帰ってきてしまった。