穢れの剣
ルディの腕の中でヒュッと息を飲み込む音がした。
「は・・・気がついた」
「く、苦しいですルディ様」
しっかりと抱きかかえれたまま抗議する。ルディの片手は指輪をした手をしっかり握っていた。
「あの、これどうにかしないと・・・」
「え?あ、そうだった。ちょっと見せて・・・」
カリンの指輪を念入りに見ていたルディがガックリと肩を落とす。
「駄目だ・・・ちょっとすぐには無理。えーっと、ヤルナ将軍!敵軍の動きは?」
「その光の届く範囲から入って来ないままだ。おい、なんなんだその娘と指輪は。」
「簡単に言うと、カリンと僕に小鬼族や妖精の力が混じって安定していない状態です。つまり、力の暴走。幸いカリンが善の状態なのでヴァンヴィヴリアの悪意に効果が出てますが・・・・・・」
薄い水色の瞳が鋭くルディを刺す。
「なんだその間は?」
胡散臭そうにルディを見ながらしっかりと腰の剣に手をやる、その動作と同時に
「ひぁっ」
小さな叫び声と同時にカリンが指輪を抑える。ギュッと目を瞑り痛みに耐えているようだ。痛みを堪えながらカリンはなんとか瞳を開き将軍の腰に差した剣を見つめる
ー・・・いる、やっぱりあそこに・・・でも、どう伝えよう・・・ー
「解った、カリン。説明は僕がするから。」
床に膝をつきカリンを抱え直す腕に先ほどより力が入った気がした。頭の中に声が聞こえる。
”大丈夫だから、もう少し我慢してて。”
その声に不思議な安堵を覚え今は痛みに耐えることに集中する。
「恐れながらヤルナ将軍、その腰の剣ですが穢れが付いております。」
「馬鹿を言うな、コレはその辺の剣とは違う。それくらいの事はお前も聞いているだろう。」
「ヴァンヴィヴリアの持つ剣と対になる剣。どちらも持つ者により善悪どちらかに分かれる、そして剣が持ち主を選ぶ・・・ですよね?更にウルリヒの剣は魔法石も嵌め込まれ完成している、これまで数々の武将が選ばれ現在はあなたが正統な持ち主。ですが、これまでに幾多の血を流してきたその剣はいま疲弊しております。そこに穢れがつけ込んだのでしょう。」
「貴様・・・ハヴェルンからの援軍とて私の剣を愚弄するなら覚悟はあるのだろうな!」
「将軍が最初に砦の外までお越しいただいたときから、こちらのカリンが嵌めている指輪に異変がありました。更に敵軍が攻めて来るのも向こうの悪意を感じ取ったからこそ早くに動いたのでしょう。カリンは小鬼族と妖精の護り刀を持っています。善のカリンが悪意・穢れを感じた時に私が与えた指輪が反応しています。言葉では上手く説明しかねますが・・・その剣を一度我々に浄化させていただきたい。」
「しょーぐん。ここは一つ二人に任せてみては如何ですか?知らないとお思いですか、最近の将軍の様子を。皆、心配してたんですよ。」
「・・・ヴィグリー。皆、気づいていたのか。」
「ええ、俺らは将軍を慕い一挙一動見てますからね。わかりますよ、そりゃ。」
「魔法師、浄化はできるんだな?失敗すれば首が飛ぶぞ。」
「で・・・出来ます。私の主の首の皮一枚でも傷付ければ、私があなたの首を跳ねます!」
血の気の引いた顔色をしながらもカリンが勇ましく言い放った。
「穢れはあなたの身体にまで侵食しようとしている、その剣を早くその身からお離しください。」