奇襲
砦の中に入るとウルリヒ軍は慣れた様子で各々の荷物をまず宿舎に運び入れる。ハヴェルン兵はヴィグリー少尉の案内で与えられた宿舎に移動するカリンも付いて行こうとすると
「あ!カリンちゃん。君はちょっと待っててくれる?やっぱり男部屋には置けないからさ。」
軽くカリンにウィンクしてハヴェルン兵と消えていった。待っている間また指が痛み始めた。空気も変わっている・・・。カリンは背にある弓を、腰に差した剣を確認するように握り締めると外に飛び出て懐から球体を取り出し空に放り投げた。
「スゥレイ!」
呼ばれた翼竜は見る間に元の姿に戻りカリンは走って背に飛び乗る。
(あなたねぇ、私に手綱も付けずに落ちても知らないわよ)
呆れたようにスゥレイが言う。
「だって、急いでたもの。ちょっと高く飛べる?」
しっかり掴まるようにいってスゥレイは舞い上がった。尾根の向こうにこちらに向かってくる大軍が見える。
「ごめん、次は砦を旋回して。」
入り口前の広場にはスゥレイに気付いた兵士達が出てきていた。
「奇襲です!尾根の向こうに大軍が‼︎」
「そんな⁉︎早すぎる!見張り台に確認させろ。」
スゥレイを広場に降ろしウルリヒ兵に鞍を取り付けるよう頼む。見張り台の兵からは確認の情報がない。
「どこまで上がった。」
ヤルナ将軍が問いかけてきた。
「見張り台より20mほど上から見ました。」
「わかった。結界の強化を!ヴィグリー、この娘を部屋へ。」
「はっ!さ、カリンちゃんお手柄だ。君にはまず入ってもらわなきゃいけない場所がある。」
チリチリした痛みが酷くなる。顔をしかめるカリンにルディが駆け寄って来た。それに気づいているのかどうかカリンは懐から短刀を出すと詠唱を始めた。
「我が名ハプトマンの元に命ずる闇に巣食いしものよ姿を表せー」
同時に指輪を剣で刺す。
「カリンっ!一人じゃダメだっ‼︎」
慌ててカリンを後ろから抱き締める。
「わかる?カリン!カリンッッ‼︎」
カリンの指輪は傷一つ付いていなかった。しかし、物凄い魔力と神力が光の柱を作っている。カリンは眼は開いているが意識が飛んでいる様だった。腕の中で身体を回転させ何とか意識を戻そうとする。
「おいっ!癖っ毛魔法師、何事だ!」
「ヤルナ将軍!見張り台から連絡です、向こうはこの光の柱ができた途端進軍を止めたと確認しましたっ‼︎」
「なに?」