回想
ルディにハース事務官が羊皮紙を集め届けに来た日、それを受け取った彼はすぐにサラサラとペンを走らせた。一枚は養父母としてのガウス夫妻に。それからハヴェルン国王陛下と魔法省に更に王太子アルベリヒとシュヴァリエ公爵家、その当主でもあるハヴェルン宰相宛にと計6通の宛先に使い魔を持たない彼は一日も早く届ける為に思案した。
「こういう時にやっぱり使い魔は必要かなぁ・・・」
しかし、しょうがない普通便で送ることにした。どのみち戦が終わるまでハヴェルンには帰れないのだ焦らなくてもいいと判断した彼はまたハース事務官に郵便を頼むと部屋に戻り行儀悪くソファに横になり寛いだ。
「あ〜、なんて説明しよう。カリン、あんまり食べてなかったなぁ・・・」
指折り数えるとカリンはもう8年一緒にいる。そして、自分のせいで危険な目に合わせてきた。その事をまず申し訳なく思っている。更に本来ルディの家で侍女の役割だけをしていればいいのに、今は近侍の役目までさせていた。だからお互い離れればいいのではないかと考えたが、対の魔具がある以上それは出来ない。もちろん、外せば離れられるそれが問題だ・・・。指輪はルディの知らぬ間に進化しもはや魔力だけでなく小鬼族と妖精とそして眷属である翼竜の加護の力が加えられている。そこまでの加護を受けられる純粋な人間はそういない。離れれば彼女はまた権力争いに巻き込まれるだろう。
だから自分が仕えようと思った。そうする事で魔力持ちでないにしろ魔力・神力においてお互い立場はそう変わらなくなっている。王太子の魔法師を辞しカリンのために尽くそうと考えたのだ。その旨をハヴェルンに送り、自分の権利をカリンに何とか譲りハプトマン家を一代限りの爵位設立しあとは・・・あとは幸せな縁談をしてもらう。胸につかえる想いが何かを彼はわざと知らぬ顔をすることにした。それがいつからかはわからない、だけど決して伝えてはいけないと溜息とともに一度吐き出し心の奥に飲み込んだ。
「娘を嫁にやる父親の心境さ。」
その数日後手紙を受け取った面々は王宮内の一室で頭を痛めていた・・・。
「いや、すみません。うちの馬鹿息子が。」
「ああ・・・最高礼の誓いを受け付けられてないのがまだ救いですなぁ・・・」
ガウス夫妻とと魔法省幹部が頷きあう。
「あの、なんですのその最高礼とは?」
公爵夫人らはそれがわからない。
「まぁ、騎士の誓いの様なものですが、魔法師のそれはまず全員国に対し誓いを立てています。だから有事の際は駆け付ける。これと別にあるのが魔法師の最高礼でこれと決めた相手に一生を捧げ仕えるのです。この誓いは一度立てたらその相手がどのように非道になろうが国に対し反逆を起こそうが主の支配下にあるので背くことはできません。主が亡くなるまでその支配下に置かれるのです。」
「人間はいつ善が悪になるとも限らない。ですからこの誓いを立てるのはほぼ禁忌に近いと学校では教えています・・・」
「あ〜、それで俺の近衛魔法師を辞したいときたのか。」
「私の所にはお前の魔法師を辞すと共にハプトマン嬢に爵位の権利を譲渡できないかとあるぞ。」
「我が家にはカリンに相応しい相手を探して欲しいと来てましたわ。」
「で、宰相の私にはハプトマン家が設立された際に相応しい空き屋敷の相談だ。」
「あの、皆様。うちの息子の為に煩わせてしまい申し訳ありません。ですが、あの子達ヴァンヴィヴリアを倒すためにウルリヒに行ってますよね?一体何があったらこんな話になるのでしょう?つまり、またカリンに何事かあったのでしょうけど・・・。」
「無意識がついに気づいたのかな?余程の事があったのだろう。しかし、馬鹿だな〜。自分の嫁にして一生守ればいいものを。父上、オーランドからはなにか報告は?」
「お前の言う通り、今回のハプトマン嬢はかなり深刻な事態になったらしい。だが、誓いを立てようとしたことは何も書いてないからしらんのだろうな。さて、確かにあの娘はハヴェルンにとっても貴重な存在だが。いやいや、アルベリヒの言う通りだ。若いのぉ〜、この娘に相応しい相手となれば地位で言えばうちの息子2人が筆頭だがお前らはダメなんだろう?」
「ええ、私の歳考えてください。オーランドも妹にしか見れないそうですよ。」
「では、公爵夫人どうなさる?」
「今回の頼みはあまりにもルディの一方的かつ勝手な願い事です。カリンの人生ですあの子が知らない所で決めるつもりはありませんわ・・・え?誓い・・・」
「どうなさったの夫人。」
「いえ、カリンをミルフォイ司祭から預かる時にあの方がカリンに言ってましたの。「お前だけの魔法使いさんがいるお家だからよくお仕えするようにね。」と。私、その時はまだ離れに置くか決めてなくて何故そんなことを言うのかしらと不思議に思いました。カリンを預かってからルディが離れに戻るまで少し時間があったのですが、毎日あの子は私の魔法使いさんはどこですかと聞いてきましたわ。これは、あの時から決まっていたのかしら・・・?」
「戦女神の加護を受けた娘か・・・うっかりしたところには嫁にだせませんなぁ。」
「ま、二人が帰ってからだなこの話は。皆、わざわざ集まってもらいすまなかった。また、しばらく後に話し合うことになるだろう。私も正直、よその子より自分の息子の花嫁探しをせねばならん。」