ご主人様の謎
あれから、ルディは指輪やカリンに仕えるといった話題は一切出さなかった。まぁお互いそんな暇ないくらい目まぐるしく忙しくあれよあれよと言う間にすっかり雪の中を行軍している。ビェリーク砦までは後少し、ここまでは天候にも恵まれて順調に進んで来れた。カリンは子どもで体力不足だからと王太子が大事なフィフスを貸してくれ騎馬で移動しているが、行軍に慣れているとはいえウルリヒ兵士には何だか申し訳ないと思っていた。王宮に保護されていた翼竜達は魔法技術師達によって小さな球体の中に納められている。あの大きな姿をよくこんな掌サイズにできるものだと、今更ながら魔法師らの力に感動する。その時指輪をはめた指がチクリと痛んだ。
「・・っいた・・・」
小さな呟きだったのにルディが直ぐに行軍を止めるよう指示を出す。少し離れた場所に居るのだがそこから声がかかる。
「指かい⁈カリン」
「はい、先程からチリチリと痛みますが大丈夫です。」
それを聞いて彼は将軍らの近くに行き何事かを話している。それからすぐに一旦休憩の指示が出た。砦はもう目の前なのに・・・。自分もフィフスから降りると、一応見せた方がいいのだろうかと手を眺める。しかし、不穏な気配に気づきそっと懐の短刀を手にし振り返るとまさに剣がカリンに振り下ろされる瞬間だった。一旦雪道に一回転しそれをかわすが直ぐに次の攻撃が来る、それをなんとか短刀で防いだ。
「ほう・・・さすが戦女神に愛され小鬼族を手懐けただけはあるな。妖精の仕上げた短剣か。私の剣を受けても刃こぼれ一つしていない。素晴らしい出来だ・・・。」
「ちょっ!ヤルナ将軍っ、ハヴェルンからの援軍ですよ‼︎失礼でしょうっ、あ〜もうっ君大丈夫?」
そう言って後ろから駆け出して来た兵士がカリンに手を貸し立ち上がらせる。
「あ、すみません。大丈夫です。あのぉ、そちらの方が冬将軍ですか?私はアレクシア・カーテローゼ・ハプトマンです。」
「ビェリーク砦にようこそ、ハヴェルン軍殿。私はこの砦の指揮官イェンナ・ドルテ・ヤルナ将軍だ。いきなりの無礼失礼した、ただ噂のハプトマン嬢の腕前を見たくてな。」
「あ、私はヤルナ将軍の秘書官を務めておりますヤン・ヴィグリー少尉です。本当にすみません変わり者将軍で・・・退屈だからと砦を抜け出したので慌てて追いかけてきたんですよ。すまないね、怪我はないかい?ハプトマン嬢」
「ありません。あの、私は軍属ではないので階級もないのですがどうぞカリンとお呼びください。」
「カリンちゃんね。やっぱ女の子らしいなぁ・・・うちにも一応いるんだけ・・・ぐほっ」
途中で言葉を遮られたヴィグリー少尉はヤルナ将軍から腹に一撃入れられ前のめりに倒れこんだ。
「さて、砦に案内しようか。おや?ヴィグリー、腹でも痛むか?まあいいお前は後からゆっくり帰れ。では、向かおうか。」
雪に紛れる様に白い馬に乗り先陣を進む。カリンはハッと思い出し指輪をルディに見せようとするがそれはもう大丈夫だからと促されフィフスに跨り隊に加わる。
ーあれ、なんか微妙に避けられてない?私・・・ー
この数日を思い返してそう考えてしまう。思えば隊も別になっている。まあ、あちらは魔法師が主な隊列だが、いつもなら心配して側にいる主がいない・・・。
ーん?なんだこのモヤモヤした感じ。うーん、なんか胸が詰まる・・・ー
一方のルディにはカリンと離れている理由があるのだが今はまだ話せない。しかし、こう離れていてもカリンの微妙な心境が伝わってくる。
ーはぁ・・・ごめんカリンー
それぞれが様々な思いを抱いて砦の門をくぐった。