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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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王都への侵攻

これまでの対ヴァンヴィヴリア戦はビェリーク砦が戦場になり主に守りの体制で切り抜いてきた。国内の有能な猛者達が集められ冬将軍と呼ばれる若い名将の下で活躍してきた。しかし、今年は今までとは違う。王太子妃は懐妊しており、王都が狙われる可能性は今までより高い。しかも、ヴァンヴィヴリアの王子がその剣の柄に嵌める魔法石を狙っている。密偵によると近年王子の様子がおかしく本来王位継承権からは程遠い地位だったものが剣を手にしてからの功績で兄王子達を凌ぎ今では次期国王の座に最も近いと言われている。妖精の造った剣は不思議なもので扱うものを選ぶ。それが善き者でも悪しきものでも・・・。


これまでに幾多の血をその身に受けた剣は今や忌まわしき剣となりて「紅い王子」と呼ばれる暴君の手にある。これに例の魔法石が嵌め込まれればその力の強大さは増すだろう。しかし、刀鍛冶の妖精はそれと対になる剣を造っていた。それが、冬将軍とよばれるビェリーク砦の指導者の元にある。こちらは竜の長の子ニースの鱗が嵌められ小鬼族から最上の魔法石が献上され嵌め込まれている。つまり、剣としては完成しているのだ。


「なんとしても王都に踏み込ませてはならぬ。」


ウルリヒ国王の命の下、ウルヒリ軍とハヴェルン軍そしてそれぞれの魔法師達がビェリーク砦に向かう事となった。その日を明日に控えた夜、カリンは自室で服装と装具を点検していた。雪深い中での戦いなので服装は些か動きにくくなる。それを少しでも改良し動きやすさを重視した作りに直していたのだ。作業をしていると庭に面したガラス戸がノックされる音がした。


「グリンデ!」


すぐに引き戸を開け小さな小鬼族を中に招き入れる。


「どうしたの?外は寒かったでしょう、暖炉の前で暖まってて。お茶を入れるわ。」


「い、いそ、急ぎの、用。」


ああ、そうか。坑道以外では滑らかに話せないのだったわ・・・。


「ちょっと待ってて!すぐ戻るから。」


部屋から駆け出したカリンはすぐにルディを連れてきた。


「魔法でどうにか滑らかに会話ができるようなりませんか?」


「それは、できないことはないけど種族が違うからね魔法を使う時間がかかるんだ。それよりも・・・」


(グリンデ、わかる?)


(ああ!はいルディ殿。)


(カリンの代わりに僕が聞いてもいいかな?)


(もちろんでございます。)


(じゃあ、どうぞ。)


カリンには二人の声が全く聞こえない。しかし、意思の疎通を計っていることはわかったので黙って見ている。グリンデはゴソゴソと懐から短刀を取り出した。見事な銀色に光る鞘には細かな装飾がされていて、持ち手には魔法石が幾つも埋め込まれている。


(カリン様の髪を使い刀鍛冶の妖精が打った小刀です。柄と鞘には我等小鬼族がその身の安全と勝利を祈る魔術を込めた細工をほどこしてあります。また、魔法石それぞれも身を守る物を選び抜き嵌め込みました。これを、カリン様にお使いいただくようにと小鬼族一同からの伝言です。)


「カリン、妖精がこれを造り小鬼族がカリンのために装飾を施した護りの剣だよ。受けとって。ああ、それからこの前の君の髪を使って造ってるんだって。だからそんなに輝いてるのかな・・・」


「私のために・・・」


(ヴァンヴィヴリアの王子はもはや人にあらず、神のご加護がありますように。)


次の瞬間、グリンデはまたもや消えた。残ったのはカリンの手の中にある銀色に輝く短刀のみ。


「君は全くいろんなものを味方にするね。危ないからあまりそんなものは持たせたくないのだけど。」


「お礼を言いそびれました・・・」


「大丈夫、気持ちはとどいてるさ。ん?これは明日からの準備?」


「あ、はい。寒さの中でも動きやすくできるよう改良していました。」


「はぁ・・・なんでみんな君を普通の女の子としておいといてくれないのかなぁ。あまり遅くまでやらないようにね。明日からは多分厳しい日が続くから。」


「はい。あと少しで終わります。あの、通訳ありがとうございました。おやすみなさいませ。」


「うん、おやすみ。」


カリンはグリンデが残した短刀を大事にしまい、ベッドに入った。明日からはビェリーク砦へ向かう。雪深いため魔法師の力を借りて行くのだろうがそれでも王都から見えるビェリーク山脈は遥か遠い。そんな事を考えつつ欠伸をしながら眠りにつく。冬将軍と呼ばれる人はどんな方なんだろう、エンケル将軍のように怖い人ならどうしよう・・・・・。


「・・・ン。カリン!」


「はぇ・・・んー?あれ?ルディ様‼︎えっ、私寝過ごしました⁉︎」


「違うよ、早く着替えて。大変なんだ、翼竜がここまで攻めて来た。今は結界で防いでるけど、街も被害にあってる。君は着替えたらヴィルヘルミナ様の所へ行ってくれる?」


それを聞いてベッドから飛び降りたカリンは返事をすると就寝前に揃えた服装と装備を身につけた。ルディは魔法省へ行くと行っていた。外に出るとまだ夜中である。カリンは急いで王宮内に走った。

ヴィルヘルミナの部屋までの最短ルートを頭に描く。部屋の前にいる護衛がカリンを見て扉を開けてくれた。


「ご無事ですか⁉︎」


「カリン!私は大丈夫よ、でも侍女達が怖がって・・・。」


怯えた顔の侍女達は何とかヴィルヘルミナの側に居た。カリンは窓辺に近付き外の様子を見る。ルディの言う通り王宮は結界に守られていた。しかし、街には火を付けられ民間人は被害にあっている。


「ヴィルヘルミナ様の部屋には隠し部屋がありますよね。侍女さん達としばらくそこに隠れていてください。侍女さん達はヴィルヘルミナ様が身体を冷やさないように準備して、食料と飲み物も。私は外の警備兵に伝えておきますから。あと・・・」


カリンはグリンデに貰った短刀の柄から魔法石を一つ外し、それをヴィルヘルミナの手に握らせる。


「これは御守りの石です。大事に持っていてください。」


そういうと部屋を飛び出した。警備兵にヴィルヘルミナを隠したことを伝え次は兵士らのいる宿舎に向かう。


「カリンさん!」


「ハース事務官!ユベール様は?」


「将軍達と会議中です。あ!カリンさん⁉︎」


バンッと会議室の扉を開けるとそこには国王始め将軍ら首脳陣がいた。


「陛下、お願いがあります。馬を一頭お借りしとう存じます。」


「どうするんじゃ。」


「街に出ます。あと、私がお借りしている離れを民に解放する許可を。」


ウルヒリの将軍がバンッと机を叩いた。


「小娘が!民を入れる為には今の結界が壊れる、出るのも入れるのも駄目だ!陛下らの身の安全が第一だっ」


「では、民を見殺しにすると?幸いな事に私にガウス魔法師以外の魔法は効きません。つまり結界も効果がないのです。民を入れるのが無理ならばせめて外に出る許可を。」


「カリン、俺の黒馬を覚えているか?あれを貸す、好きに使え。」


「殿下‼︎」


「カリンの言う通りだ、ここで頭を付き合わせていてもどうにもならん。街はお前に任せる。あとは魔法師に外から民だけ中に入れるよう入り口を作る努力をしてもらおう。」


「ありがとうございます、殿下。」


次は厩に走った。


「フィフス!」


名を呼ぶと黒馬がひょっこりと顔を出した。

側にある鞍を取り付けていると厩の兵が手伝ってくれた。


「ありがとう、助かりました。」


「いえ!ご武運をっ」


頷き手綱を引く。黒毛を撫でフィフスにこれからこ危ないところへ連れて行くけど大丈夫?と尋ねるとフィフスはなんということはないと言う風に身体を震わせた。


「カリン‼︎忘れ物だ。」


「ルディ様⁈これは・・・」


「ハヴェルンを出る時にアルベリヒ殿下に預かっていた君の剣だよ。なんとか間に合った〜。魔法石を嵌めて更に魔法をかけてあるからね。僕はこっちで入り口を作る。いいかい?怪我しない程度に帰っておいで。」


「ルディ様・・・。ありがとうございます。」


剣を受け取り腰に差すとカリンは燃える街中にフィフスとともに駆けて行った。


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