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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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ヴァンヴィヴリアからの偵察

「翼竜が?」


「はい、ビェリーク砦から報告が入りました。目視できる近さまで、乗り手はなく翼竜のみで数度旋回しヴァンヴィヴリアへ帰ったそうです。」


ウルリヒ国軍兵士が今回の作戦部隊首脳陣に報告をしていた。


「そうか、遂に始まるか・・・」


「殿下、妃殿下はここより離れた離宮へ避難されては?」


「いや、アレが頑として拒んでいる。民を捨て自分だけ逃げるようなことはしたくないそうだ。」


「しかし!お子様が・・・」


「それも言った。自分に何かあれば新しい妃を迎えればよい。二人に何事かあればユベールや、イニャスがいると言う。それに、何やら確信しているようだ我が軍の勝利を。やはり、ハプトマンが付いているからかな・・・。」


「それに、小鬼族も味方につけたそうですな。」


「ああ、全く想定外のお嬢さんだ。なぁ、ルディ?」


「・・・お言葉もございません・・・。」


首脳陣に魔法師として加わってしまったルディにとって今は居心地が悪かった。先日の痴話喧嘩を散々王子三人それぞれにからかわれ、今この場でも年配の歴戦の勇者らがニヤニヤと見ているのだ。

覚悟はしていたがあの翌日王宮に入ると皆の視線が二人に集中していた。全く、この緊迫した状況下にっ。少々イラついていたルディは翼竜に話を戻す。


「ハヴェルンには人間以外の種族は稀にしか見ないのですが翼竜とはどの様な種族ですか?」


ウルリヒとヴァンヴィヴリアを隔てるビェリーク山脈の谷間に元々は神の眷属として永い間住んでいた。しかし、ヴァンヴィヴリアが刀鍛冶の妖精が造った剣を手にし竜の谷に奇襲をかけ長の首に黒い魔術で造った鎖をかけた。その日から翼竜達はヴァンヴィヴリアの支配下に下ってしまったのだ。呪いのかかった鎖は神に縋ろうとすれば長の体をギリギリと締め付け、主神ハーヴェイも幾度となくてを差し伸べたが、谷は一面黒い魔術に侵され神の手すら穢すほどになっておりいつの間にか彼等は神に忘れられた眷属と呼ばれる様になった。


「でも、ウルリヒへの侵攻は翼竜達の本意ではないのですよね?」


「左様。我等もあの竜たちを解放してやりたいのだ。しかし、例の剣があちらにある以上なかなか難しくてな・・・」


「ヴァンヴィヴリアはどの様な国なのですか?」


「竜の谷を少し越えた場所にあるが砂だらけの国だ。不思議なことに、山のあちらとこちらではえらい違いだな。だからこれといった産業もない、そこへ多分神や刀鍛冶の妖精らの怒りを買ったのだろう、年々国土が砂漠化している。」


「へぇ、離れているのによくわかりますね。」


「こちらにも翼竜が何頭が居るんだよ。傷を負って捨てられたものや、まだ大人になり切ってないのに戦に駆り出され弱った竜を保護しているんだ。時々偵察に協力してもらっている。」


「そうなんですか・・・。あの、その翼竜は見ることができますか?」


「ああ、構わんが。そうだなハヴェルンの方には全員見ていただいておこうか。よろしいですかな、殿下?」


「うむ、実戦で見て臆されても困るしな。イニャス、お前案内してやってくれ。」


「はい、兄上。」


すぐにハヴェルン軍が集められ翼竜を保護している場所へ案内された。もちろんカリンもその一人だ。王宮の奥深く庭園というより自然林といった場所に3頭の翼竜がいた。翼を広げた姿を間近で見ると圧巻される。と、中の一頭がカリンに気づき近づいて来る。他の兵士は思わず後ろに下がったがカリンは反対に前に出て両手を差し伸べた。


「あなた達の長が私に神託を与えたのでしょうか?」


ジッとカリンを見下ろしていた翼竜だが鼻先をカリンに近付ける。


「私はどうすればいいかわかりますか?」


翼竜は更に頭を下げ首を地面に置きまるで乗れといった態度をとった。そして視線をルディに向ける。


「カリン、行こう。」


ルディは翼竜に先に飛び乗るとカリンに手を差し出した。慌てたのはエンケル将軍でイニャス王子にどうしたものか問いかける。


「いや、私も翼竜自らの意志で初対面の人間にあの様な態度を取るのは初めて見る。ここは、彼らに任せよう。ニース!その二人は翼竜は初めてだ、振り落とさぬよう頼みますよ。」


ニースと呼ばれた翼竜は了承したと軽く首を傾け翼を広げた2・3度羽ばたくと宙に舞った。背中に乗った二人はいつ飛び立ってもいいように取り付けられた鞍に座り手近なベルトを掴んで落ちないようにしている。ニースはあっという間に空高く飛んだ。翼は大きな鳥のように滅多に羽ばたかさず時折動かしてはスゥーッと飛び続ける。


「あ!あそこ、ルディ様。」


カリンが指差した方角に砂漠が見えた。


「あそこもヴァンヴィヴリアの一部なんでしょうね・・・。」


昔は人が住む町だったのだろう、集落の跡が見える。


「神の怒りをかって追いやられたのか。」


しばらくその場を旋回し、今度はウルリヒに向けて飛び始めた。


(ビェリーク砦の近くだ。あまり長居はできんが我らの同胞が住む谷が見える)


二人の頭の中に声が響いた。


「酷い・・・ニース、あなたの谷はあんなに間伐されて・・・」


確かに谷の樹々は乱雑に切り倒されていた。

何頭かの翼竜の姿も見えるがその中にキラリと光るものを見た。


「ニース、今見えたのは。」


(我等の長だ人の子よ、お前に神託を授けただろう。)


夢で見た長は雄々しく優雅で気品のある姿だった。しかし、いまほんの少し見えた彼の姿は痩せ細り鞭打たれたのか傷ついていたように見えた。その他の翼竜達もとてもまともな扱いを受けているように見えない。


(追われる前に帰ろう)


竜の谷には敵の軍勢が集結し始めていたようだ。


「どうやったら例の剣を手に入れられるのだろう・・・」


「私、私に本当に何かできるのでしょうか?」


「うん・・・君はきっと彼等の希望なんだよ。だけど、どう攻めるかな?帰ったら将軍達と一刻も早く作戦をたてないと。」


相手は着々と準備をしている様子だった。こちらも早く手を打たねば。


(奴等の今回の狙いは魔法石とハプトマンの加護を受けたお前だ。魔法師よ、しかとこの娘を護り抜いてくれ)


二人は顔を見合わせた。初めての戦場、しかも狙いはカリンと魔法石。心なしか青くなった顔をみてルディがカリンを引き寄せる。


「大丈夫、絶対に渡さないから。」




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