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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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痴話喧嘩

中に入るとハヴェルンから来ているヴィルヘルミナ付きの侍女二人がルディとカリンそれぞれに新しい服を用意してくれていてそれぞれ別の部屋で着替えをすませることになった。ルディは簡素な服装に魔法師のローブを纏いすぐに出て来たが、カリンがなかなか出てこない。


カリンにも動きやすいドレスが用意されていた。一人でも着られる様な作りになっているのはヴィルヘルミナが気を使ってくれたのだろう。しかし、そのドレスを手に持ち部屋の姿見に映った自分の姿を見て言葉を失った。バラバラに切られた髪を見て初めてルディがあれほど機嫌を損ねた事が理解できたのだ。鏡に映った自分の姿が惨めに見えてきてくしゃりと顔が歪む。そしてその場に座り込んで泣き出した。


ーどうしよう、どうしよう。

ルディ様をあんなに怒らせてしまった。

こんな髪になってしまった。

あんなに酷い事を言ってしまった。

もう、お側に置いていただけないかもしれない。

どうしよう・・・ー


「・・・っく・・・ど、どうしよう・・・」


泣き出したカリンを侍女二人が顔を見合わせてそれから優しく背中を撫でる。


「大丈夫ですよ、カリンさん。私たちが御髪は整えますから。」


「ガウス様も本当に心配したからあんなに怒ったのですよ。つまり、貴女はとても大切にされているんです。」


泣き腫らした瞳で二人の侍女を代わる代わる見る。


「本当に?お暇を出されたりしませんか?」


二人は顔を見合わせてぷっと吹き出した。カリンは訳がわからない顔をしてまた交互に二人を見る。


「そんな心配ありませんよぉ。」


「そうそう、ガウス様は目に入れても痛くない程カリンさんを可愛がっていらっしゃいますもの。」


そう言ってくすくす笑いながらカリンを椅子に座らせると鋏と櫛を用意して器用に毛先を切り揃えていく。


「まぁ、確かにこれ程の見事な御髪をバッサリ切り落とされたら・・・」


「うんうん、ガウス様の気持ちもわかるわぁ。っと、はい。出来ました。」


でも、髪が短くなるとは予想してなかったから服装を変えましょうと二人の侍女が何故か楽し気にクローゼットからドレスを選ぶが今ひとつしっくりこないと結局一人が外に出て行きすぐにシンプルなワンピースを持ってきた。若草色の柔らかい布を幾重かに重ねたワンピースはカリンの瞳の色を思わせる。ウェストラインをゆるく共布で巻き、髪をもう一度整えるとワンピースの色が映えて髪の短さが気にならなくなっていた。


「うん!いい仕事をしたわっ」


「そうね!早くヴィルヘルミナ様とガウス様に見ていただきましょう。」


そう言ってあれよあれよと、執務室に連れ戻された。


「まぁ、お人形さんみたい。二人共ご苦労様、ありがとう。もう下がっていていいわ。カリン、こちらにいらっしゃい。」


ヴィルヘルミナの前に立つと隣に腰掛けるよう言われる。そしてカリンの髪に触れながら優しく微笑む。


「ごめんなさいね。話はルディから聞いたわ。ウルリヒの為に貴女の髪を犠牲にしてしまって・・・ごめんなさいね。」


「いいえ!これは私の意思でしたことです。ヴィルヘルミナ様にお詫びされることなどではありません。」


「でも、あなたとルディを喧嘩させてしまったわ。辛かったでしょう?」


「・・・」


カリンは俯いて何も言えなかった。しばらくしてやっと絞り出した小さな声は


「それも・・・私の責任ですから・・・」


だった。恥ずかしくて顔を上げられない。すぐそばにいるルディに謝らなけばいけないのに自分が投げつけた言葉が彼をどれだけ傷つけたかどれだけ不愉快にさせたかと思うと消えてしまいたかった。


「あの、ルディ様?」


「ん?」


「あの・・・先程は、申し訳ありませんでした。それから、髪を切ってしまったことも・・・」


「ああ・・・うん。髪は本当にショックだったんだ・・・だから、ついあんなにムキになって叱ってしまって・・ごめん。びっくりしたよね?」


「いえ、私・・・姿見で自分の髪を見て初めてルディ様が怒った理由がわかった気がして・・・ごめんなさい・・・ごめんな、さい」


絨毯の上にまたポタポタと雫が落ちる。


(やだもう、恥ずかしくて見てらんないわ)


ヴィルヘルミナはカリンの腕に手を伸ばした。


「今日は疲れたでしょう?報告は粗方ルディから聴いてるわ。王太子殿下は仕事の都合でまだ来られないのだけど、あなた達二人がウルリヒの為に尽くしてくれたことを感謝します。殿下には私やイニャス王子から報告をするから、もう離れに帰って休みなさい。」


そう言うと立ち上がりカリンを抱きしめた。


「本当に馬鹿な子。あんなに綺麗な髪を切るなんて・・・。でも、それ以上に大切なものがあったんでしょう?だからもう泣かないの。ルディも解ってくれてるわ。」


小さな肩を腕の中で震わせている少女の頭を優しく撫でながらルディを見る。


「さあ、魔法師さん。この子を離れに連れて帰ってあげて頂戴。」


「かしこまりました。カリン、おいで。」


カリンはおずおずとルディの方に向かう。


「では、ヴィルヘルミナ様失礼いたします。」


「これ以上喧嘩したり泣かしたりしないのよ。」


ヴィルヘルミナはまるで小さい子に言い聞かせるように忠告した。


「・・・し、しませんよ。」


ルディに手を引かれ部屋を出て行くカリンを見送るとヴィルヘルミナの側にはすぐに侍女が揃った。


「もう〜、やあね他所の国に来て痴話喧嘩よあの二人。で、皆ちゃんと見届けたんでしょうね?」


「はい!いつものクールなガウス様が珍しく声を荒げて」


「そうそう!ここまでカリンさんの手首を掴んでグイグイ引っ張って来たかと思ったら。」


「痴話喧嘩が始まるんですもの。もう滅多に見られませんからしっかり目に焼き付けましたわ。」


各々目にした二人の犬も食わないような一部始終をヴィルヘルミナに報告し、まるで女子会のノリで盛り上がった。


「わかりました。皆ご苦労様、これはすぐにアナスタシアに手紙を書かなければいけないわ!こんな面白いこと私たちだけで留めるなんて勿体無い。紙とペンの用意をお願いね。」


二人の喧嘩の内容はユベールの取り計らいで魔法師によりすぐにハヴェルンのアナスタシアの元に届けられたのだった。





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