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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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交渉成立

族長は目の前の二人に呆気にとられた。そこへちょうど魔法石を持って来たグリンデも呆然としている。


「カ・・・カリン様!その御髪は⁉︎」


「あっきれたのぉ・・・本当にやりおった。」


腰までいつも伸ばしていた髪を肩の辺りで切り落としているカリンを見て小鬼族の二人はそれぞれ口にした。


「まだ足りませんか?」


「いや、もうそれでいい。」


族長は細長い指をカリンの切り落とされた髪に向け、一本残らずフワリとじぶんの元へ引き寄せた。そして自分の前に豪奢な飾りの箱を呼び出すとその中に大事にしまう。


「グリンデ、魔法石とお前の首に巻かれた物をこちらへ。」


「は、はい。」


「お嬢さん。いや、ハプトマン殿こちらの品を貴女に差し上げると共にグリンデに渡された物をお返しいたす。」


「ありがとうございます。」


「あ、あの族長様お願いがございます。」


「ん?なんじゃ。」


「その・・・ハプトマン殿から頂いた物はこれからも身に付けとうございます。」


「どういう意味でそれをいう?ハプトマン殿の配下になるのか。」


「ハプトマン殿は最初にお会いした時から、我等の容姿を気にせず優しいお言葉を下さいました。私は次期族長の座を捨ててもこの方のお役に立ちとうございます。」


「ハプトマン殿はお前を解放する意味も込めて、あの御髪を切り落とされたのだぞ。それを無駄にするのか!」


「そ、そんなことを・・・何故ですハプトマン様!」


「私はガウス魔法師にお使えする身。誰かを自分の下に置く気はありません。」


「だそうだ、それは返さねばならん。」


グリンデは大きな瞳から大粒の涙を零しながらカリンの手に魔法石とマフラーを渡した。

そして零れ落ちる涙を拭いもせずきっぱりと言った。


「私は貴女の味方です。主従の関係でなくとも、貴女になにかあれば直ぐに駆けつけます。」


「ありがとうございます、グリンデ様。立派な族長様になられますよう、お祈りします。」


にっこりと微笑んだカリンの顔を喰い入るように見つめるとグリンデは深々と頭を下げ下がって行った。


「では、交渉成立じゃ。くれぐれも魔法石をヴァンヴィヴリアには渡さぬよう頼みましたぞ。」


「「はい!ありがとうございます。」」


外のテントで待っていたイニャス王子らは鉱山から出てきたカリンの姿に一同声を失った。カリンはといえば振り返り満面の笑顔でグリンデに手を振って別れを惜しんでいた、そしてその隣に居る魔法師は見たことのないような不機嫌な顔をしている。


「あ!皆さんお待たせいたしました。魔法石は無事に頂いてまいりました。」


にっこり笑ってカリンがイニャス王子に魔法石を渡そうとする。


「いや、ご苦労二人とも。で、カリン?その髪は・・・」


「あ、これはですね。小鬼族の族長様に私の指輪とルディ様の対の耳飾りを要求されたのですが、どうしてもそれは譲れなくて対価として置いてきました。」


「あ・・・そ、そう。じゃあとりあえず帰ろうか。」


「すみません殿下、私とカリンは先に帰ってもよろしいですか?」


「う、うんいいよ。」


「ありがとうございます。さ、カリン帰るよっ!」


珍しく乱暴に手を引き魔法陣に入り移動魔法を使う。あっという間に二人は消えた。その姿を見送り、イニャスは顔色を変える。


「やばい、やばいぞ。なんでああなったか解らんがエライこと怒っている・・・帰ったら私も義姉上に何を言われるか・・・」


その場に居た者全員が顔面蒼白になっていた。一方、一足先に王宮内に着いた二人は揉めていた。


「痛い!痛いですよルディ様っ」


ルディは不機嫌な顔をしてカリンの手を引っ張って歩いて行く。握られた手首の痛さに抗議をするカリンにルディは今まで見たことのない深い哀しみと怒りでカリンを一瞥すると抗議を無視して王太子への謁見を申し込みに行った、許可を待つ間、とうとう喧嘩が始まった。


「カリン、なんであんなことをした。」


「申し訳ありません。でもこれは私にとって指輪と耳飾りは大切な物だからです。絶対渡したくありませんでした!」


「魔具なんて、また作ればいいだろう⁉︎」


「これは二つとないものです。今までこの対の魔具に助けられてきました。いつも繋がってると、私の支えでもあったのです、ルディ様は大事に思ってないのですか⁉︎」


「僕は君の方を心配してるんだ!あんなに綺麗な髪を惜しげもなく切り落として、加護にも影響があったらどうする?・・・腹が立つのは当たり前だろう⁈」


「髪なんかまた伸びます!でもこの指輪の代わりはありませんっ!」


「だからそれだってまた作れると言ってるじゃないか‼︎」


「ルディ様はわかってません!私がこの指輪を・・・この指輪に込められた思い出をどんなに大事にしているかっ・・・もうっわからずやっっ!」


そこでルディはカリンの瞳からハラハラと落ちる涙にきづいた。頬を紅潮させ、唇を噛み締めルディを睨みつけながら大粒の涙を流している。


「これは、私の大切なものなんです・・・それをルディ様以外のために誰かに渡すなんて・・・そんなこと・・・なんで、そんなことできるんですか?新しく作ったってそれはまた違うんですっ・・・わた、私間違ってるかもし・・しれませんけどこれだけは、これだけは絶対に嫌です‼︎」


泣き声を上げたいのを必死に我慢して尚も抗議するカリンに、ルディはもうオロオロとするしかなかった。


「うるっさーいっっ‼︎」


王太子の執務室のドアが勢いよく開き、中からヴィルヘルミナ王太子妃が現れた。


「さっきから聞いてれば、もう!痴話喧嘩なら他所でやってっ!さ、二人とも廊下でそんなことされたら皆迷惑よ、入って頂戴。」


突然の王太子妃登場に二人とも一瞬我を忘れて唖然としたがスゴスゴと言われるまま執務室に入って行った。




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