交渉開始
その頃、鉱山入り口に移動術で到着したルディ一行はゲッソリとしたイニャス第三王子部隊と合流していた。ウルリヒの冬は雪深い、王都からこの鉱山入り口まで彼等は馬で移動して来ていた。
「あ・・・やっと来た・・・」
疲れ果てた顔のイニャス王子に声をかけられる。
「ユベール兄上から説明があったと思うけど、早速取り掛かってもらおうか。」
「イニャス様、それに兵士の方々大丈夫ですか?」
「ん?はは、これくらいどってことないさ。それより、中に入ってからの注意だけど。とにかく彼等は豪華な光り物が好きでさ、魔法石を渡すとは向こうからの要望だけど何かゴネられたらその見に纏ったものを交換に渡していいから。」
「「わかりました。」」
「じゃあ、僕らは此処で無事を祈りながら待ってるよ。」
寒さに耐えられるテントを張り待機しているという。
「日没までには片がつくと良いんだけどね。」
「では、行ってまいります。」
「僕もお供に呼ばれたので・・・行ってきます。」
二人は暗い穴の中に足を踏み入れた。ルディが魔法で明かりを灯す。それを頼りに暫く進むと暗がりからボウッと小さな影が浮かんだ。首には見覚えのあるマフラーが巻きつけてある。
「ルディ様、グリンデです。グリンデ、お迎えに来てくれたの?」
「こ、のさき、さきはにんげんのまほうだめ。ぐり、ぐりんであんないにきた。」
グリンデはてにランタンを持っていた。ルディはすぐに魔法の明かりを消す。
「あし、あしもときをつけ、つけて。」
「ありがとう、グリンデ。あのね、紹介するわこちらが私のご主人様でニーム・ロドリゲス・ガウス魔法師よ。」
「がう、がうす。わかった、いっしょにきても、もらう。」
ルディは内心ホッとした。ここで断わられる可能性もあるのだ。
「小鬼族の高位者グリンデ殿、よろしくお願いします。」
前を歩くグリンデはぴたりと足を止めて大きな瞳を更に零れ落ちそうなほど見開いてそーっと振り返った。そして、こくこくと何度も頷いてギクシャクと歩みを進めた。この穴は鉱山の中でもなかなか人間は足を踏み入れることはない。小鬼族の住処でもあるからだ。彼等はここから様々な穴に入り人間に魔法石のありかを示すこともあれば、純度の高い魔法石が採れればそれと交換に人間に交渉をすることもある。そして、今日はこの国始まって以来の一世一代の交渉の場になるだろう。
(で、その国の大事になんでまた異国の僕らが・・・)
暗い坑道をグリンデのランタンを頼りに歩いていく。手を繋ぐまでもなくカリンはしっかりとルディの服を握っている。やがてどれだけ歩いたのだろう、ルディの後ろを歩くカリンが感嘆の声を上げた。
「ル、ルディ様凄いですよ!後ろ、振り返って見て下さい。」
「わ・・・これは。凄いな、これも魔法石なのかな・・・」
後ろの二人が立ち止まった様なのでグリンデが振り返り「ああ」というような表情をして手元のランタンを消した。
「えっ!ちょ、グリンデ殿?・・・って、わぁ・・・」
「綺麗・・・」
真っ暗な坑道に魔法石がキラキラと星のように光を放っている。
と、すぐにランタンの明かりをグリンデは灯した。
「この光は人間にはあまりよくありませんので、振り返ったりして見ることはお勧めできません。」
「グリンデ?あなた、滑らかに人語を話してる。」
「はい、ハプトマン様。この辺りまでくれば小鬼族の力が増しますので。では、まいりましょう。」
驚くカリンの手をルディは服から離し握って歩き始めた。ここからは油断ができない相手の陣地に入るのだ。やがて、開けた場所に出た。
「族長、ハプトマン様とその魔法師ガウス殿をお連れしました。」
グリンデが跪き、挨拶をした先には真っ白な姿の族長と呼ばれる小鬼が玉座のようなものに座っていた。
「その娘が女神ハプトマンが遣わしたものか・・・愛し子だけあって名を頂いたのか。」
思ったより歳を重ねた声だった。
「初めまして、小鬼族の族長様。私はアレクシア・カーテローゼ・ハプトマン、皆にはカリンと呼ばれています。こちらは私の主でニーム・ロドリゲス・ガウス魔法師です。本日は私達をここまでお招きいただきありがとうございます。」
カリンはまるで王族に対するような礼を族長に対しとった、ルディもそれに倣う。
「うむ。普段はここまでは人間は入れんのだ、しかし儂も年老いて外が眩しすぎるでのそちらから来てもらうことにした。まあ、楽にして話をしよう。」
勧められるままベンチのような急いで誂えたであろう椅子に二人は腰掛けた。
「さあての、どうするか。お前さんはグリンデに衣類を渡したそうじゃのぉ。」
「すみません、私不勉強で何も知らなくて。失礼しました。」
(さぁ、交渉の始まりだ・・・)