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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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お出かけ前の身仕度は念入りに。

翌朝早くからルディとカリンは起こされ、念入りに湯浴みをされた。二人とも普段から自分でやっているのでいきなり寝起きを湯槽に放り込まれ何が何だか解らぬうちに磨き上げられ新しい衣装を気付けられ全身まるで王族の様に着飾られた。


「やあやあ、すまないね。うちの兄弟と魔法省の人間まで説明して無かったと聞いてお詫びと説明に来ましたよ。」


早朝から穏やかな顔で現れたのは第二王子ユベールだった。彼は侍女たちを下がらせると話を始めようとしたが、その前にルディから昨夜の報告をする。


「え、それ本当?まいったな、だからちゃんと説明しておくように言ったのに。」


ユベールは美麗な眉を片方吊り上げて呟いた。


「あの、どうしましょう?小鬼族のご機嫌を損ねたでしょうか?」


「いや、大丈夫だよカリン。ただ、幸いに君が優位に立っただけだ。小鬼族はね、とにかく豪華なものが好きなんだよ。今日もすんなりと魔法石を渡すかどうかわからないから君らの身につけているのは全部彼等への貢物と考えてくれ。」


「ああ、それでこんな高価な飾りに衣装ですか。」


「はは、ルディは災難だったね。いきなり女性に襲われて、なるだけ年配層を選んだんだけど。」


「ええ・・・もう、それだけが救いでした。」


ユベールが珍しく楽し気に笑った。


「しかし、様子見がグリンデでしたか。しかも衣類を与えている。うん、いい。カリン、君はいつも予想外にいい働きをするね。自分の身に付けていた物を与えることは信頼と支配下に置くことを意味する、そしてグリンデはまあ逆らえないというのが本当の所だけど返すことも彼なら出来たんだ。何せ彼は小鬼族の中でも高位にいるからね。だから人語も話せる。」


昨晩話をしたグリンデを思い出す。片言のような吃音のような話し方、あれは普段人語を話さない小鬼族の中でも意思の疎通ができる方なのだ。姿形、話し方は違えど不思議と怖いと思う気持ちはなかった。そこへドアがノックされ近衛がユベールに準備が整ったことを告げに来た。


「さ、じゃあ行って来てもらおうか。無事に帰れることを祈っているよ、まあ・・・その身に付けているものは気兼ねなく相手の要求するままに渡して構わないから。」


外に出るとウルリヒ魔法省の魔法師と兵士が待っていた。雪深いウルリヒ特有に進化した馬に兵士が魔法師らは魔法陣を描いた中に数名の兵士を伴って待っていた。どうやら、移動術でいどうするようだ。


「では、お二人を無事に連れ帰ること。これが最大の使命です、頼みましたよ。」


ユベール王子がウルリヒ兵等に言葉は柔らかいが厳しく命ずる。ルディとカリンはイニャス王子がいないことを不思議に思ったが魔法陣の中の兵士がコッソリと今朝早く王太子と共にこってり絞られ、イニャス王子の方は先遣隊として騎馬で鉱山に向かわされていること、王太子は早朝から政務を山程押し付けられている事を教えてくれた。ユベール王子の指を鳴らす合図で一瞬で魔法陣の中の人間は移動した。それを見送って硬い表情で王宮内にユベール王子は帰って行った。今回の取り引きは向こうが言い出したとはいえ、五分五分だ。上手く魔法石を受け取れることができれば、対ヴァンヴィヴリア戦はかなり有利に働くだろう。後はルディとカリンを信じて帰りを待つしかなかった。執務室に入る前にユベールは義姉に呼び出された。ああ・・・またあの馬鹿兄のせいでとばっちりが来るのか・・・。そう思いながらヴィルヘルミナの元へと向かった。案の定王太子妃は不機嫌そうであった。座り心地の良い長椅子にゆったりと腰をかけ隣では王太子がグッタリというかげっそりとした表情で座っていた。どうやらこちらへのお説教は終わっているようである。


「お忙しいのにお呼びたてしてごめんなさい、ユベール様。あなたのお兄様がまた私の大切な方に粗相をしてしまったようで、早朝からお仕事中でしたけどお借りしていました。で、二人は無事に出発できたかしら?」


「おはようございます、義姉上。ご心配なく、先ほど魔法省の者と兵士数名を付けて出発しました。ただ、昨晩ハプトマン嬢の部屋に小鬼族の者が忍び込んでいたようですが結果的にハプトマン嬢が自分の身に付けていた物を渡し与えたお陰で多分問題なく事は運ぶでしょう。」


「忍び込んだ⁈結界があるのにそんなことが!」


「出来るんですよ、種族が違いますし。ウルリヒはヴァンヴィヴリアに対しては強固な結界を張っていますが国内の別種族に対する結界は緩いのです。しかも相手は協定を結んでいる小鬼族で今回の来訪者はその中でも高位に属する者です。」


はぁ〜っとため息をついてヴィルヘルミナは頭を押さえた。


「私はまだこの国の事について深く知り得ていませんが、もしカリンの身に何かあればどうなさるおつもりでしたの。昨晩はカリンの為にルディは魔法省に詰めていたのでしょう?カリンに万が一の事があればルディはこの王宮を半壊させかねないわ。」


「あ〜、あいつならやりかねないな。」


横からうっかり口を挟んだ王太子をキッと一睨みし黙らせる。


「で、本当に大丈夫なのね?」


「はい。ハプトマン嬢は間違いなく無事にお戻りになるでしょう、もちろん魔法石を受け取って。」


「不思議ね、どうしてそう言い切れるのかしら。その自信は何処から?」


「それは義姉上もお解りでしょう。女神ハプトマンの加護、更にハヴェルン史上最大の魔力持ちの魔法師が付いていますし、その上あの気難しい小鬼族の高位者をいとも簡単に知らずとはいえ支配下に置いてます。ここまで条件が揃っていれば自信を持って言えますよ。」


そう言ってユベールはにっこりと王太子妃に微笑んだ。


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