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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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小鬼族のおつかい

「小鬼族のところに魔法石を受け取りに?」


会議の終わったオーランドとエンケル将軍に呼び出され説明を受ける。


「なぜ、その方達はこちらに持ってこないのでしょう?」


「小鬼族は鉱山の奥深くに住んでいて光に弱いんだ。だから暗い鉱山の中にこちらから行くしかないんだよ。」


「それが私、ですか。」


またもや自分は厄介な事に巻き込まれたなという顔で確認する。


「ハプトマン、彼等はは気難しいが好戦的ではない。それに、君のためにいまガウス魔法師が魔具を急いで作ってくれている。」


「すまん、カリン。何故か君を名指しで呼んでるんだ、行ってくれるか?」


「はぁ、ご指名ならしょうがないですね。でも、ルディ様が私のために時間を割いて魔具作りなんて・・・申し訳ないです。」


自分が呼ばれた為に主に急ぎの仕事をさせてしまったことにがっくりと肩を落としカリンは離れへと下がって行った。ハース事務官から聞いた所では徹夜になるかもしれないという。


「なんでこうなるのかな・・・」


夜着に着替え馴染みのある離れの部屋でベッドの上で膝を抱えてジッと何気無く部屋の隅を見ていた。


「誰?」


暗い部屋の隅に確かに何かがいる。が、決して邪悪な感じはしない。コソリと、それが動いた。そして少しだけベッドに近付く。月明かりの部屋の中に浮かんだ姿は背丈の低い耳の尖った見たことのない生き物だった。


「はぷとまん?」


「はい。あなたは?もしかして、小鬼族?」


小さな生き物は頷いた。


「あした、くる?」


「えっ明日なの⁉︎」


「あした、くる?」


「うーん、どうかなぁ。ねえ?私しか入っちゃいけないの?」


「はぷとまんしかだめ。ほかのにんげん、きらい。」


「え〜、あのね?一人じゃ危ないかもしれないからって今、私のご主人様が御守りを作って下さってるの。明日、それが出来たら行けるわよ。」


「ご、ごしゅじんさま?はぷとまんはかみさま、ごしゅじんさまいない。」


「あ、私は女神様にお名前は頂いたけれど普通の人間の娘よ。」


「か、かみさまちがう?」


「うん。ごめんなさい、私の名前はアレクシア・カーテローゼ・ハプトマン。あなたのお名前は?」


「あれ、あれくしあかーてろ、ろーぜ。しんでんのこどものなま、なまえいっしょ。おまえ、はぷとまんのいと、いとしけごか?」


「え〜と、多分。」


「・・・ぐ、ぐりんで。なまえ、ぐり、ぐりんで。」


「グリンデ!素敵なお名前ね。それで私に何か用事があるの?」


「ぐ、ぐりん、でたのまれた。はぷとまんにま、まほうしがいた、いたらつれ、つれてこい」


「本当!グリンデ、私のご主人様は魔法師よ!一緒に行っていいのね。」


「ぐ、ぐりん、でつたえた。もうかえ、かえる。」


「ありがとうグリンデ。また明日会える?」


「あ、あしたはいっぱいいる。ぐりん、ぐりんでわかる、か?」


「皆、似ているの?」


「に、にんげんには、わ、わからない。」


「でも、探すわ。あ!待ってこれ。」


カリンは椅子に掛けてあったマフラーをグリンデの首に巻きつけた。


「明日も、これを付けていてくれる?」


グリンデはあまりに突然で動きが取れなかった。大きな瞳でカリンの顔とマフラーを何度も見比べる。


「おま、おまえしん、ようで、できるか?」


「?わからないけど、グリンデが私達の敵でなければ友達よ。」


「⁈」


「え?おかしなこと・・・あ!もしかして、なにか作法があるのね?ごめんなさい。私、魔力持ちでもないし不勉強で知らなかったの!失礼なことをしたのなら謝るわ、ごめんなさい。」


がばっと頭を床に伏せたカリンを見てグリンデは言った。


「ぐ、ぐりんでのおつかいおわり。かえる。」


そういうとグリンデは掻き消すようにいなくなった。


残されたのは床に座り込んだカリンだけ。次の瞬間、ルディがノックをする。


「カリン!カリン⁉︎大丈夫かいっ!」


慌てて上着を着てドアを開ける、魔法省で魔具を作っていたら人間以外の気配がこの部屋からして急いで移動術で来たそうだ。


「あの、多分小鬼族だと思いますが気がついたら部屋の隅にいました。」


それからあったことを全て話すとルディが顔色を変えた。


「え・・・君のマフラーあげたの?」


「はい、あのグリンデも驚いてましたけどいけませんでした?」


「あのね、小鬼族は誰かに物を貰うとその人に服従することになるんだ。で、それが嫌なら交換に何かを渡すんだけど・・・明日にならないとわからないな。」


自分のしたことがそんな大事とは知らずとはいえ、カリンは慌てた。


「ええぇっ‼︎ど、どうしましょう⁉︎」


「うーん、悪い気配はないから心配はないと思うけど・・・僕もまだ会った事がないからね。でも、そっか一緒に行けるんだ。」


ウルリヒ来るまでそして来てからも何処か険しかったルディの表情が柔いで心底ホッとしたその顔を見てカリンは自分がどれだけ心配をかけていたか思い知った。そう実感すると自然とに片手がルディの頬を触れていた。


「あの・・・明日はご一緒できますし、今日はもうお休みになってください。私も明日に備えて寝ますから。それから、いつもご心配ばかりおかけしてすみません。」


柔らかい手の感触とその行動に一瞬驚いた顔をしたルディだが、その手に自分の手を重ね目を閉じた。


「うん、そうだね。一緒なら大丈夫だ、僕こそ心配させてごめんね。」


そういって瞳を開けるとまだ心配そうな翠の瞳が見えた。


「私は、ルディ様の専属侍女ですから。心配するのも仕事のうちです・・・」


「僕だって君の後見人だから、同じだよ。」


そう言って微笑う顔があまりに優しいのでつい、見とれてしまった。


ーあれ?なんか変だ、私。ー


慌てて手を引っ込めようとしたがその手をルディが離してくれなかった。


「あのね、カリン。」


途中まで降ろした手を両手で包まれる。


「いくら心配でもこんなに手が冷たくなるまで起きてちゃいけないよ。せめて暖ったかくして待ってて。」


「あ、はい。わかりました、すみません。」


じゃあ、おやすみとルディはドアを閉めて行った。カリンはルディに握られた手をもう片方で握りしめ我に返る。


「!!!⁈ な、な、何てことを///」


扉の外ではルディがこちらも自分のしたことを振り返り真っ赤な顔をして片手で顔を押さえていた。


「ちょ・・・もう。びっくりしたぁ。」


そう小さく呟きカリンの掌の感触、体温を思い出す。


「いやいや、ないから。あり得ないから絶対、うん。さ、寝よう!」


独り言を言いながら部屋に帰って行った魔法師のことをカリンは知らない。

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