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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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小鬼族と魔法石

国境を越え程なく首都フロレンツに到着し、まずはウルリヒ国王への謁見があった。恐れ多くも国王自らがハヴェルン兵士達の前に出向き労いと協力への感謝を述べた。その後、ウルリヒ隊の上層部とオーランド王子、エンケル将軍とその部下数名が今回の作戦について会議を開くことになり魔法師達もその場に同席することからハヴェルン兵は宿舎へと案内されたがカリンだけはまずヴィルヘルミナ王太子妃に呼び出された。


「わざわざ呼び出してごめんなさいね、カリン。お久しぶりね、少しの間会わなかっただけなのになんだかすっかり成長した気がするわ。」


「お久しぶりでございます、ヴィルヘルミナ王太子妃様。この度はご懐妊おめでとうございます。」


「ありがとう。まだまだ実感がないのだけど時々気分が悪くて・・・。ハヴェルンのお兄様からカリンにお茶をブレンドしてもらうといいと聞いていて、お願いできるかしら?」


「はい、喜んで。実は先に作って来ているんです。こちらです、後で侍女さんにお渡ししておきますね。」


「さっすがカリン、気が利くわね!ところでハヴェルンの方はどう?ウェスティン侯爵家の話は落ち着いた?」


「ええ、バーバラ元侯爵夫人とその御子息は処分が決まりました。ですが、お嬢様のヨハンナ・ベル様は侯爵家を出て孤児院を開設なさり今はその準備にお忙しいようです。それで・・・その今回オーランド様がこちらに参加されたのは・・・」


「ああ、聞いてるわ。失恋の痛手を忘れるためでしょ?可哀想に、あの子もなかなか良い相手に巡り会えないのよね・・・。ねぇ、あなた達はどうなの?」


「は?誰ですか。」


「・・・ごめん、忘れて。私もうっかりしてたわ・・・。」


ヴィルヘルミナは軽く溜息をついた、ハヴェルンからヴィルヘルミナ付きできた二人の侍女も思わず吹き出している。何のことやらとカリンはきょとんとするしかなかった。


一方、戦略会議ではカリンが受けた神託をルディが報告していた。一同はそれを聞き渋い顔をしてそれぞれ考えを巡らせている。そこへオーランドが発言したカリンはあくまで民間人であり本来この場に連れてそれも前線に出すのは本気かと。


「それについては、私から言わせてもらいます。あの娘の実戦は私も見たことはないが鍛えたのは確かです。筋がよく周りを見ながら動ける、歳・性別を考えても遥かに凌駕する実力をもっていると実際に見たアルベリヒ王太子のお墨付きであります。そこへ先程の神託の話を聞けばやはりハプトマン無しではこの戦勝ち目はないかと思います。また、ハプトマンとガウス魔法師の力が繋がっている限りやはり前線に加えたい。」


「しかし、あの娘は本来ガウス魔法師の侍女です。軍属でもなく、鍛えたと言われても・・・正直何かあった場合私は耐えられない。」


「オーランド殿下。カリンは全て承知で来ています。私にとってもカリンは大事な家族同然であります。あの娘は私が命に代えても護ります。ご心配でしょうが、戦場に出すことをお許しください。」


「竜の一族はこれまでの戦でかなり減少した、向こうの剣の柄にある鱗をどうにかできればいいが・・・。竜の谷は鉱山の反対側にあるのでしたな。刀鍛冶の妖精もその辺りに生息しているとか。」


「こちらの味方というか、協力者は鉱山の中に住む小鬼族です。彼等は永い間柄にはめる魔法石を隠していたのですが、今回それをこちらに渡したいと言ってきています。しかも名指しで・・・」


「まさか、またハプトマンか?」


軍や国の上層部が話し合う中、ルディはカリンを思う。自分に関わらなければ危ない目にも合わずに済んだだろうに。またカリンが名指しで呼ばれている今度は小鬼族・・・。ハヴェルンは大陸の中心であり魔法は当たり前にある。しかし、不思議なことに妖精だのその他の人間以外の生物は滅多に見られない。ほぼ生息していないと言っていい。魔法魔術技師学校でも机上の勉強でしか知らない生き物がこちら側では当たり前に出てくる。

ルディでさえ本の中でしか知らない生き物達だ、それらに魔法の知識のないカリンを巻き込むのはオーランド以上に実は不満に思っている。しかし、向こうが名指ししてきたからには応えねばなるまい。


「あの、それは僕も一緒でいいでしょうか?」


「それが、小鬼族は気難しく人間嫌いなのです。そんな種族が唯一初めて向こうから接触を求めたのがハプトマン嬢でして・・・。魔法石を渡すのも鉱山の奥深く、果たして同行できるかどうかはお答えしかねます。」


「しかし、小鬼族の言葉をハプトマン嬢が理解できるのか⁉︎」


「・・・それは、多分大丈夫だと思います。鉱山の入り口迄はせめて同行できるでしょうか?」


「それは案内せねばなりませんのでウルリヒの魔法師と兵士、それから普段接触のある鉱山で働く者を連れて行きますのでそこまではご一緒できる保証はあります。」


「・・・・・・わかりまさした。しかし、何故この時期に魔法石を渡すのでしょう?」


「彼等もヴァンヴィヴリアには辟易しております。神託を受けたハプトマン嬢が来ることを知り今回の戦で蹴りをつけたいのでしょう。」


「ん〜、仕方ありませんね。僕はこれからできるだけ彼女を護る魔具造りに時間を頂きたいです。側に居られないのならせめてそれくらいはしてやらないと。魔法省の部屋をお借りしますがよろしいですか?」


「それは結構です。材料もご自由にお使いください。あ、あとガウス魔法師とハプトマン嬢は以前の離れにお泊まりいただくよう手配しております。」


「えっ、でも今回は派遣兵ですしそれは・・・」


「王太子殿下から魔法に集中できるよう他の方々とは離しておくよう言い遣っておりますので。」


「あ〜、ではすみません。お言葉に甘えさせてもらいます。僕は少し時間がかかるのでカリンは先に離れに通しておいてください。すみません皆さん、一旦失礼します。」


ルディは魔法省へと急いだ。この国には純度の高い魔法石が揃っている、それらを使えばより強い魔具が出来るだろう。そして完成を急がねばならない、気難しい小鬼族を待たせるのは厄介だからだ。


徹夜かな・・・。


そんなことを考えながら歩いているとハース事務官に会った。多分オーランド殿下から説明があると思うが一応カリンに徹夜になると思うと伝えるよう頼む。ルディにとって戦は初めてだ。兵士たちの宿舎の前には武器を磨き上げる者や身体を鍛える者などがいる。彼等は既に戦を身に染みて知っているのだ。自分の武器は魔法だ。そう、自分には武器がある。しかし、カリンには戦の経験もなければこれといった武器もない。何という危険な場所に連れてきてしまったのか・・・。若い魔法師は後悔に頭を掻きながらとにかく魔法省へと足を急がすしかなかった。





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