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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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オーランドの決意

王宮では他国からの王太子妃候補選びが議会を通して連日行われていた。国内の貴族令嬢は身分に関わらず全て参加することになっているし、国王からも身分に関わらず貴族令嬢ならば王太子が選んだ令嬢を妃殿下候補にとの命が下っている。これはある意味どの貴族も娘さえいれば王家との繋がりを持つチャンスであり、娘のいない貴族は躍起になって他国からの姫君及びその後ろ盾になりなんとか王家との縁を持とうと必死だった。


そんな兄の花嫁選びをよそに、第二王子であるオーランドはウルリヒへの派遣兵に志願していた。なにせ、同じ父母を持つ姉の嫁ぎ先でありその姉が懐妊中であるという。婚礼の儀には兄である王太子が付き添ったが今回はその兄もハヴェルンを離れられない。意外と失恋の傷みが大きく、彼はエンケル将軍に直々に申し出た。将軍とて一国の王子であるオーランドを連れて行くには国王の許可がいる、迷った挙句将軍は国王夫妻に相談した。オーランドは、主に今まで事務的な役割を担ってきたため戦場に赴くのは当然難色を示されたがヴィルヘルミナの側に置きウルリヒとの親交を深める役割を主に担うとうことでウルリヒ行きは許可された。


この事でカリンはハース事務官には主にウルリヒ王宮でのオーランドの近衛として赴くよう、エンケル将軍に申請した。やはり、あの夢のせいか軍属でない事務官を前線に出す様な真似はしたくなかったのだ。それと反対にイニャス第三王子からはとにかく今回はかなり厳しい戦いになるためルディとカリンには申し訳ないが前線に出て欲しいと要請が来た。アルベリヒは余程自分も赴きたいと願ったがそれはカリンと事情を聞いたバイラル秘書官から駄目出しを貰い渋々諦めた。


そして、ウルリヒが雪に閉ざされる前にハヴェルンからの派遣軍は旅立つ日を迎えた。魔法省からは精鋭の魔法技術技師が数名集められ同行する、出発前にカリンは現在は閉ざされた幼い頃に過ごしたミルフォイ孤児院で女神ハプトマンに祈りを捧げてきた。行軍は急いだ方がいいという事で物資は馬車で運んだが他は騎馬で移動になった。これで少しでも早くウルリヒに辿り着く。アナスタシアとオブリー、そしてフェンリル夫婦とセシリアが見送りに来てくれ皆でルディとカリンに無事を祈り別れを惜しんだ。思えばいつも二人の側にはオブリーがいて何かと助言をしてくれた。そう思うと心細さが湧いてくるが、これからはこのようなことはまた起きるだろう。そう思い、今までのオブリーへの感謝を込めなるだけ結婚式には間に合うように努めると二人で宣言し後はもう振り返らずに馬を駆り立てウルリヒへと向かった。


ルディとカリンは最前列に並びその後をエンケル将軍、オーランド王子とハース事務官が兵士らに護られるよう隊を組んで走る。スティルとしての実力はオブリーには劣るが隣には戦女神の加護を受けているカリンがいる、ルディには不思議と不安はなかった。やはり騎馬での行軍のお陰で馬車旅より数日早く国境に着く。見知った顔がカリンの成長に驚きながらも休憩所に案内する、とそこにはイニャス第三王子が待ち受けていた。各々暫く休み自分と馬の疲れを取る。ウルリヒの魔法省から派遣された癒術師らが人や馬の様子を視る。オーランドは初めて会うイニャス第三王子と同じ歳と聞き少し肩の力が抜けたようだ。イニャス王子もハヴェルンの王太子以上に王子らしいオーランドに同い歳ながら敬意を持ちつつも話すうちに打ち解けていった。どちらの弟も兄王子には少々頭が痛いらしいのが一番の共通点だった。カリンは貴賓室の扉を離れた場所から見つめ近付こうとはしなかった。嫌な思い出のある場所だと思い、外に出るとハース事務官が馬の調子を見ていた。


「あ、ハプトマンさんの馬は調子はどうですか?」


彼は農家の出で馬の乗りこなしも難なく出来た。もちろん、調子や馬具の調整なども一人でこなす。選んで正解の人物に笑いかけながら近付く。王宮に仕える者は当たり前だがカリンより歳上で、身分もないし名前で呼んでいいと言ってあるが子鹿会に属する彼等は頑なに拒み敬意を持って苗字で呼ぶ。


「私の馬もルディ様の馬も大丈夫です。ハースさんはお疲れじゃないですか?ちゃんと休んでくださいね。」


はい。と、返事をする事務官と別れルディの元に行く。


「やあ、イニャス殿下は相変わらずお元気そうだったね。」


「はい、今はオーランド様とお二人でお互いの兄上の話で盛り上がっているようです。」


「はは、それは気が合う話だ。」


二人が話しているのを遠まきに見ながら両国の兵士が噂をしている。


「ハプトマン様は以前来られた時も少年の様な姿が多かったのですが、成長されたせいか女の子らしくなられましたね。」


「ハプトマン・・様?庶民でガウス魔法師の近侍なのに様付け⁈」


「我がウルリヒでは奇跡の方ですから。へぇ、今は近侍を務められてるのですか?」


「そうです。ハヴェルン王宮には銀の子鹿会というのが出来て、今回来たハース事務官ら主に普通なら戦力外の者を鍛えてるようですよ。」


「わ〜、やりそうなことだ。しかし、いつ見てもお似合いのお二人ですね。」


「お互い無自覚なのが勿体ないくらいにね。」


両国の兵士が自分達を噂しているとは知らず二人はいつも通り自然に会話をしている。


「ハプトマン様に手を出す勇気のある方はハヴェルンにいますか?」


「無理無理!ハース事務官も子鹿会会員に厳しく変な気を起こすなと言ってあるそうだ。だが、じきに成年の儀も来るしそうなればどうなることやら。」


無邪気に笑うカリンを見ながら兵士達はため息をつく。あの笑顔を手にしたければまずは隣の魔法師を倒さねば・・・いや、無理無理。




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