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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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遠征

ウェスティン侯爵家の問題が粗方片付いた頃、王太子アルベリヒはとりあえず国中の貴族の令嬢を招き舞踏会を催す事を考えていた。第一候補のアナスタシアは既にオブリー伯爵の婚約者で第二候補のヨハンナ・ベルは母親の血筋から貴族院の了承は得られないそこで第三候補のクリステンセン公爵家令嬢をと勧められたが血縁が近い事などがありあまり気乗りがしなかった。勿論大陸の中心国であるハヴェルン王国に是非ともと他国の姫君達の名も上がる。結局、その他国の姫君や令嬢も招いて長期に渡って花嫁選びが行われる事となった。


一方、第二王子オーランドは失恋の痛手を忘れるべくこれまで以上に働いた。騒動を片付けている間にカリンは一つ歳を重ね13歳になっている。近侍の衣装を身につけていても芽吹き始めた少女の面影が前面に出るため、主にルディの執務室に籠って仕事を手伝っていたので、バイラル秘書官は子鹿会からは苦情を言われている。妃候補からも晴れて外れ侯爵家の騒動も収まり近侍としていつまで王宮にいるのかとカリンは思っていたが、主の方がやはり一人で留守番をさせるのは心配な以上にカリンの事務処理能力と執務室での侍女としての働きぶりがありがたく何と無くそのまま勤務させてしまっている。


オブリー伯爵の婚礼は年内に執り行われる事になった。王太子の妃選びに遠慮をしていた当人と公爵家だが、身近で慶事があれば王太子の気持ちも前向きになるのではという王家側の思惑もあり急遽オブリーの周りは忙しくなった。慶事はもう一つ離れた場所から運ばれてきた。ウルリヒに嫁いだヴィルヘルミナが懐妊したのだ。しかし、これからの時期ウルリヒには隣国ヴァンヴィヴリアからの侵略行為が始まる。その時期に大事な王太子妃が狙われる可能性が高いということでまだ雪が降り積もる前にハヴェルンに一時帰国するか、ハヴェルンの兵をウルリヒに派遣するかで議会が連日開かれていた。


しかし、懐妊して間も無い身を長旅させるには危険も伴うということで結局ハヴェルンから選りすぐりの兵と魔法師が派遣される事になった。親友であり癒術師でもあるアナスタシアは飛んで行きたいところだが如何せん自身の婚礼が控えているし、戦闘においての魔法師として一番相応しいとされるオブリーも同じく揃って動けない。派遣兵は王太子の命により往年の名将デニス・エンケルが精鋭部隊を率いて赴く事になったのだが、その将軍が直々に名指しで伴いたいと指名した者がいた。他でもないアレクシア・カーテローゼ・ハプトマンである。ガウス夫人直伝の薬草学の知識を持ち、王太子の離宮ではエンケル直々に剣武術の指導を受けている上にヴィルヘルミナの婚礼には司祭の代わりを務めていると、何かとウルリヒとも縁があるため名指しでされたのだ。


また、カリンならアナスタシアの代わりにヴィルヘルミナの側に置くこともできる。しかし、カリン一人では魔法師の代わりはできないため必然的にルディにも声がかけられた。ルディは一応アルベリヒの近衛であるため躊躇ったし、何よりカリンが前線に出るかもしれない事を王太子に抗議したがアルベリヒは力なく「すまん、エンケル将軍には逆らえんのだ。」と、仮にも王太子とは思えない答えが返ってきた。仕方なくルディはエンケル隊に加わる事となる。更にエンケルはカリンに連れて行きたい兵がいれば連れてくるよう言ってきた、カリンはこういう場合に備えて鍛えてあったハース事務官を推薦した。エンケルは事務官と聞いて難色を示したがその腕前を見て直ぐに了承し、晴れてハース事務官はカリンの片腕としてウルリヒに赴くことが決まった。子鹿会がただの遊び事ではなかったことにルディ始め王太子らも驚いたが、バイラル秘書官はひっそりと満足していた。が、実はカリンはこの時期の遠征に不満を抱いていた。


「このままじゃアナスタシア様とオブリーさんの結婚式に参列できません、どう思われますか?オブリーさんが困難を乗り越えて遂に迎える一生に一度のアナスタシア様との結婚式ですよっ!きっといつも以上にお綺麗なんでしょうに・・・。」


「そうなんだよね、一番お世話になった公爵家とオブリー伯爵の慶事に参列できないのは残念というか申し訳ないというか・・・」


「そもそも、そのヴァンヴィヴリアはなぜこの時期にいつもウルリヒを狙うんですか?」


「ああ、それはね良質な魔法石が取れるいい鉱山があるんだけどね冬場は流石に鉱山は封鎖されるんだ。で、普段は警備も厳重なんだけど鉱山の辺りは雪深くなるからちょっと手薄になるんだよねどうしても。で、ヴァンヴィヴリアはこれといった産業はないんだけど元々小さな国を何代か前の王様だが王子だかが刀造りの妖精が打った剣を手に入れたんだよ、どうやってだかわからないけどね。その剣の柄には竜の一族の長の鱗が飾られていて以来彼等の国は竜の一族を支配下に置けることになったんだ。そこからどんどん勢力を拡大して今の規模になったんだけど、代々王家に伝わるその剣には足りないものがある。それがウルリヒで取れる最良の魔法石なんだって。」


「冬に来るのは警備が手薄になるから。鉱山を狙うのは柄にはめる魔法石が欲しいから。竜の一族は長の鱗がはめられた剣をヴァンヴィヴリアの人間が持っているから逆らえない・・・という感じですか?」


「そう。よく理解できました、ヴァンヴィヴリアは刀造りの妖精からも竜の一族からも実はかなり恨まれている。元々その剣はハプトマン様に捧げるためのものだったらしいからね。つまり君を守護する女神様もお怒りだろうね。」


「なるほど!じゃあその剣を取り返し妖精さんに返してあげればヴァンヴィヴリアは弱体化するんですね。」


「うーん、多分ね、妖精と竜の一族から長年の恨みを晴らされるだろうねぇ。だけど剣を取り返すのはかなり至難の技だと思うよ。ちょっと、ねぇ聞いてる?あれ、どこ行くのさ!」


「エンケル将軍の所です!今回の遠征をサッサと終わらせて、ウルリヒに平和を!私にアナスタシア様の花嫁姿を見られるよう作戦を練ってきます!」


パタパタと駆け出して行く侍女の後ろ過ぎを見送りながら呆気に取られていた。


「あ〜あ、またあの子暴れちゃうよ・・・」


ヴァンヴィヴリアも今度こそ潰されかねないな・・・。





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