かぼちゃと野ネズミ
家に帰り着き、ルディに手を取られ馬車を降りる。カリンはこの瞬間が好きだった。一緒に馬車に乗り降りする際ルディはカリンをお姫様のように扱ってくれる。他にオブリーなどとも同じ事があるのだがルディは特に自分を特別大事に扱ってくれている気がしてそれが嬉しく思う、なぜルディだと特別そう思うのか不思議に考えたこともあったが自分もルディを大事に思っているからだと一人で納得していた。それに今日は絵本で見た憧れの馬車を魔法でわざわざ実現してくれたのだ。そっと地に足をつけ改めて馬車を見る。小さい頃に読んでもらった絵本だがルディはその中に描かれた馬車を忠実に再現してくれた。ほうっと溜息をつき頬を紅潮させて今日一日限りの馬車を見つめる。
「・・・もったいないなぁ・・・。」
「気に入ってたもんね。これを現実に作れればいいけどねぇ。」
「でも、私なんかには勿体無い馬車でした。こういうのはやっぱりどこかのお姫様が乗るのがお似合いですよ。」
「そんなことないよ、カリンにピッタリの馬車だ。今日のドレスにとても似合っている。絵本に出てきたお姫様みたいだよ。」
カリンの銀の髪にそっと手で触れながら言う。ルディの金の瞳を見上げながらカリンが呟く。
「ルディ様はお月様のような瞳をお持ちですね。」
「え?」
「ほら、あれ見てください。」
と、カリンがルディの後ろを指差す。調度満月だった。その月に寄り添うように銀色にひときわ輝く星がある。
「じゃあ、カリンの髪は星の色だね。いや、やっぱり瞳かな?見る角度でキラキラと違って見えるから。」
「え〜?本当にそう思いますか⁉︎」
「うん。だってほらあの星は寄り添い星、又は護り星って昔から言われてるけどいつも月の側に寄り添って光ってる僕らみたいだね。」
「私とルディ様?」
「そう、僕がピンチで弱ったり暴走したりしてもいつもカリンが側に来て助けてくれる。あの星はカリンだよ。」
大きな瞳をますます見開いて寄り添い星を見つめている。その横顔があまりに愛らしくてつい抱きしめたくなってしまった自分を慌てて自制してわざとらしい咳をしカリンの気を引いた。
「ほら、カリン。魔法を解くよ、いいね?」
「う〜、仕方ないです。覚悟しました。」
ルディが魔法を解くと馬車はキラキラと光りながら段々小さくなっていき最後には元のかぼちゃと野ネズミに戻った。
カリンはしゃがみ込んで野ネズミにお礼を言った。
「野ネズミちゃん、今日はありがとう。疲れたでしょうね、だけどとっても嬉しかったわ。お別れするけどあまりこの辺の作物をかじらないでね。」
二匹の野ネズミは顔を見合わせそれからカリンを見上げ小さく鳴くと走って行った。残されたかぼちゃは一度馬車になったため、その時の形を留めたまま小さくなっていた。
「あれ、こっちはこのままなんですか?」
「うん。なんか穴だらけのただのかぼちゃに戻すのも味気ないかなと思ってね。」
そういうと地面のかぼちゃを拾い上げ杖で中に明かりを灯し宙に浮かべる。
「わぁ〜、綺麗ですね!」
喜ぶカリンの手を取り暗いから気をつけて歩こうとかぼちゃのランタンを頼りに家に向かう。
次の朝、カリンが目覚めて朝食の支度に食堂に行くとテーブルの上に二頭の馬がかぼちゃの馬車を引くミニチュアが飾られていた。
カリンはたいそう喜んでその朝はルディの好物を作り振舞った。そのミニチュアは部屋に飾っていいよと言われたが記念の品だからと居間のキャビネットの上に大切に飾られることとなった。