帰り道
帰りの馬車の中、ルディの前に座っているカリンはひどくむくれていた。
「ホンット酷いんですよ、オーランド殿下は。話に花が咲いて盛り上がっている時に割って入ってきて!ヨハンナさまはこの間までろくにお食事もとっておられなかったのに何曲も踊るし、やっと帰って来たら隣の席を独り占めして。ん〜っ、こんな事なら近侍の正装で来ればよかったですっ!そしたら私がヨハンナ様と踊ってもおかしくないでしょう⁉︎」
足をジタバタさせながら表情豊かに怒るカリンには気の毒だがその様子は可愛らしいとしか思えない。
「そんなに気に入ったの?ヨハンナ・ベル嬢を。」
「はい!いろんなお話を聞かせてくださいましたし、何というか最近は私、王宮で子鹿会のお相手ばかりでもう貴族の方にはウンザリしてたのですがヨハンナ様は物静かで博識で刺繍なんかもお好きだそうでまさに深窓の令嬢とはこの方だという雰囲気で一緒にいると落ち着くし楽しいし・・・」
「ん?どうかした。」
「いえ、身分違いだな〜という気持ちと何のかんの言ってオーランド殿下とはお似合いでしたからうまくいけばいいのにな〜と。でも、ヨハンナ様のお家はこれから大変な事になるんですよね・・・」
「ん〜、そうだねぇ。アルベリヒ殿下は侯爵家を皮切りに他の堕落した貴族を一掃するつもりらしいけど、侯爵とヨハンナ嬢には悪いようにはしないと思うよ。だから前もって婚姻破棄の手続きをさせておいたんだ。」
「ヨハンナ様は大丈夫でしょうか?」
「詳しくは見てなかったけど、彼女大衆の面前で主役なのにシュヴァリエ公爵家に謝罪してたよね。あんな事が出来るんだ芯は強いと思うよ。今回の事はきっと乗り越えられるさ。それより、ほらせっかく僕がカリンのために作った馬車の魔法があと少しで消えてしまうんだよ?楽しんで帰ろうよ。」
ヨハンナを心配して膝の上で握りしめている小さな拳を解いてルディの掌で包み込む。
「でも良かったよ。今日は僕はあまり動けなかったから一人にさせて心配だったけど楽しめたようで。ああ、でもせっかく綺麗にしたのに一曲も踊れなかったね。」
「・・・・・それが、全く知らない方からお誘いは何度かされたのですが。どなたも貴族ご子息様達だろうし、失礼があってはいけないと思ってお断りしてました。中にはしつこく誘われたり、ルディ様の所を辞めてうちの侍女にならないかとか言われたりもしたんです。もう、そっちの方がオーランド殿下より不愉快で。でも私は一介の侍女ですしあまり強く言えなくて困っていたらアナスタシアが助けてくださってホッとしました。」
「・・・そう・・・。カリンは嫌だったんだね?」
「そうです。私はルディ様の専属侍女ですこの先も。それを軽々しくあんな風に言って来るなんて。」
ルディが懐から杖を出しカリンにちょっとその時の様子を探ってもいいか聞いてきた。
「そんな事できるんですか⁉︎」
「滅多にやらないよ。だけど相手を知っておかないと王宮でも嫌な思いをするかもしれないだろう?だからどこのご子息達が知っておきたいんだけど・・・嫌なら勿論やらないよ。誰だってあったことを探られるのは嫌だしね。」
「いいえ!お願いします。事務官さん達は皆さん対等に扱って下さってまだ嫌な気分にはなったことないんですけど、今日みたいなのはもう嫌ですから。」
じゃあ失礼と声をかけ杖を音楽家のように振る、カリンにはわからないがルディにはその時の様子が視えたようだ。
「ああ、うん。わかったよどこのどなた達が失礼なことを言ってきたか。大丈夫、これについては僕が対処法を考えるよ。だからもう嫌なことは忘れよう。」
にっこりと微笑ったルディに安心し、後はオーランドを散々怒っていたがコッソリとお土産にお菓子を持たせてくれたことや、ドレスが出来上がり着付けがすむまでの公爵母娘の張り切り様や今日のアルベリヒ殿下は初めて王太子らしく見えたとかを面白おかしく話して聞かせ結果家に帰り着くまでは後は笑の絶えない車中になった。