伯爵の悩み
ウェスティン侯爵家のパーティー当日が来た。ルディは魔法師の正装で臨むが、朝早くからシュヴァリエ公爵家から迎えが来てカリンは連れ去られるように馬車に乗せられ去って行った。代わりに今はまだ公爵家の離れに住むオブリー伯爵が置いていかれ夕刻の迎えが来るまでルディの相手をするという。
二人の話題は最近の執務内容より私的な事柄が多かった、何と言っても伯爵の婚礼時期についてと新しい住まいについて何故か年下のルディが相談を受ける。しかも、オブリーは伯爵位を戴いてからもまだルディには殆ど敬語で話してくる。
「婚礼の時期ですか、先に住まいが決まらないといけませんよね?やっぱり公爵令嬢が花嫁だからある程度のお屋敷でないとだめでしょうねぇ。」
「それが一代限りの爵位ですから困りものなんですよね。いいですよね、ルディ様は爵位を取ってない上にこのような寛げる家で。私もこのくらいでいいのですが、お相手を考えると・・・。」
「意外な悩みが出てきましたね。お式も盛大にするでしょうし、確か公爵夫人のご実家が国王陛下と繋がりがあるんですよね。なら、やはり今日以上に張り切るでしょうね。」
クスクスと笑いながらルディが言うが、オブリーは真剣に悩んでいるらしい。そのオブリーが家の外に目を向けながらふと漏らす。
「この辺の土地、空いてますね。」
「ちょっ、嫌ですよお隣さんが立派なお屋敷立て始めたら。」
「確か街道を挟んだ側には店もあって皆さん人柄も良くて住みやすいとカリンが以前言ってましたねぇ。」
「だからそれは考え直した方がいいですよ!王宮からも離れている方だし、貴族ならあの辺りに空いている屋敷はないんですか?」
「一等地ですよ。私は無駄にお金は使いたくないんです。いいなぁ、独り者は気楽でしかも家持ち。」
「オブリーさんだって実家はかなりの資産家と聞いてますよ。融資してもらえないんですか?」
「ああ、あの家は魔力持ちは家族と認めない空気がありまして。ところが、私が爵位を取ったら途端に連絡が来るようになって鬱陶しいだけですよ。それに、彼等はオーランド殿下派ですからね。派閥争いに巻き込まれたら面倒だ。あ〜、大叔父が居てくれたら。」
「今どうなさってるんです?」
「さあ?何処かを旅してるとは思いますがね。ところで、ルディ様は爵位は本当に取らないんですか?」
「まあ、多分。必要性もありませんし。」
そう、そのうちオブリーのように貴族の令嬢を花嫁にするなら考えるかもしれないが王宮勤めをしてみてあまりそのご令嬢方との接点もない。このまま独り者かと思うこともあるが、それよりもカリンに相応しい相手を探すのが先に思う・・・あれ?ほんとに保護者思考だまだ若いのに、とガックリとする。何故か項垂れたルディにオブリーがそうそうと話を持ちかける。
「この前ハース事務官からカリンは決まった相手がいるのかと聞かれましたよ。」
ルディの周りの温度が冷たくなる。
「子鹿会は若い男が多いですからね。カリンから一本取ったら告白するという輩もいるそうで。何と言っても皆貴族ではなくカリンと対等な立場ですし。で、ハース事務官は子鹿会の主旨が乱れ始めているのでここらで示しをつけたいと。」
「で、なんとお答えに?」
あ、やばい怒らせたと思ったが続けて話した。
「子鹿には飼主がいるので諦めるようにと。子鹿を倒すより飼主を倒さないとどうにもならない・・・で、良かったですか?」
「はぁ、子鹿会男性部が出来てからいつかはそんな事を言い出す者が出てくるとは覚悟してますよ。カリンが認めた相手なら僕は何も言えませんね。ウィレムはただじゃ済まさないだろうけど。」
無自覚って怖い。改めてそう思ったオブリーだった。