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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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王太子と侯爵

翌朝一番にオーランドは兄の執務室に向かった。バイラルに迎え入れられそこにオブリーとルディがいるのは予想外だった。


「あれ、二人も呼ばれたの?」


「はあ、王太子殿下が奇策を練ってきたもので・・・。」


「侯爵がいらっしゃる前には帰ります。」


「奇策⁈」


「ええ、オーランド殿下。あなたの兄上はとうとう決意を固めたようです。」


「なんの?」


そこでルディが念を押すようにアルベリヒに尋ねる。


「そんな決め方で本当にいいんですか。」


男四人に混じっているバイラルに至っては少々不機嫌な顔をしている。


「皆様、仕方ございませんわ。陛下の許可まで取り付けているのですから。諦めましょう。」


「兄上、今度は何をしでかしてバイラルを怒らせたのです⁈」


「まあまあ、皆座れ。オーランドが来たから一から言うぞ、俺は近いうちに花嫁候補選びの宴を開催する。」


「は⁈」


「侯爵家からは出席を辞退してほしいとの申し出だが今度はこちらから国中の貴族令嬢を集めてその中から候補を選ぶ。勿論、子爵令嬢のバイラルも出席だ。言っとくが仕事より優先しろよ。」


オブリーとルディは頭を抱えている。バイラルはジッと王太子を見据えているし、なるほどそれで不機嫌な顔をしていたのかと合点がいく。


「えーと、兄上。取り敢えず身を固める決意はできたのですね?」


「あまり長いこと独りでいると色々とあらぬ噂も立つしな。そこで俺やお前を狙う者たちを一人ずつ相手にするよりも全員集めて公平に決めようと思って昨夜陛下に相談したら手を叩いて喜ばれた。これならカリンも巻き込まずに済むし妃候補になりたくないものは来なくていいからウェスティン侯爵令嬢も堂々と不参加できる。」


「公平にと言いましても、王太子殿下どういう風にお決めになるので?」


オブリーが疑問を呈すとアルベリヒは明るく言う。


「そりゃお前、国中の下は男爵令嬢から上は公爵令嬢まで参加できるという点で公平だろう?」


そこで額を押さえついでに感情もなんとか抑えたバイラル女史が割って入る。


「恐れながら王太子殿下。仮に殿下がその宴とやらで下位貴族の令嬢を見初められた場合上位貴族のご令嬢及びその周辺がどのようになるかご想像しておられた上でおっしゃられているのですよね?」


「そこが問題なんだよなぁ・・・」


(あ・・・あまり深く考えずにやろうとしている)


バイラルは思わず頭を引っぱたいてやろうかと思いつつ、なるだけ厳かに言った。


「上位貴族令嬢の方々のリストを作成いたしますので、是非そちらからお選びいただくようお願いいたします。」


「おっ、さすが有能な我が秘書官だ。頼んだぞなるだけ粗を探してくれると助かる。」


この人は全然話聞いてない、男三人は執務室の空気が冷たくなっていくのを感じた。そこへ侯爵の訪問を近衛が告げに来る。


「では、私とルディ様はこれで失礼いたします。」


「ああ、続きはまた詳細に計画を立ててから話そう。朝早くからご苦労だった。」


部屋を出た二人と入れ替わりに入ってきたウェスティン候爵は王太子に勧められ椅子に腰掛けた。


「さて、候爵。昨日話しは秘書官から聞いたが、まず娘のヨハンナ・ベルの様子が心配だな。食事は取れているのか?」


「王太子殿下にご心配をおかけしまして申し訳ありません。多少は取れているようですがとにかく側付きの侍女も遠ざけておりまして・・・。しかし妻は一向に構わず準備を進めておりまして。」


「ふ~ん。奥方は確かクレスチア伯爵家の出だったな。こんなことを言うのは失礼と思うが下働きから伯爵家の養女に成り上がったとか。」


「お恥ずかしい限りですがその通りでございます。」


「で、候爵は跡取りはどうされるのだ?」


「これもいずれ陛下にお願いをせねばなりませぬが・・・私の代で候爵位を返上いたしたいと思っております。既に殿下方もご存知かと思われますが,アレの産んだ男子二人は私の候爵家の血を受け継いでおりません。今までは放っておきましたのですっかり親子で候爵家を継ぐつもりでいると思いますがそれだけは避けたく思います。娘に婿を取るということもできるのですが国内ではもはやあの母親の娘という事で誠実な青年を望むことはできないと父娘で諦めております。」


「では、ヨハンナはどうされるつもりだ?」


「修道院に入ると申しております。」


うら若き年頃の娘が将来を早々に諦め、修道院に入るというそれも上位貴族の正当な継承者であるのに。


「それで、その例の誕生祝いの件ですが・・・」


「ああ、それだがな。考えたのだがあまりに哀れな境遇に陛下も同情をしせめて顔を見せて心配事は何もないと言ってやってこいというのだ。どうだろう?ハヴェルンでも歴史の長い名家の令嬢の誕生日を祝うだけなら何も問題なかろう。まぁ、その時のそちらの奥方の出方によって後に処遇を考えるのが侯爵とヨハンナのためにもなるのではないかという陛下の意見だが。」


「それは・・・妻が失礼をした場合何かしらの処分がくだされると・・・」


「もちろん、当人以外は裁かれない。」


悩んだ末、侯爵は二人の王子から出席の返事を書いた返信を持ち帰ることにした。


「決して侯爵家にとって悪いことにはしない。」


そう言い切った王太子は威厳と慈愛に満ちていた。




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