銀の子鹿会
王宮の中庭にある東屋で四人の貴族令嬢が噂話を始めていた。
「お聞きになりまして?」
「勿論ですわよ、なんでも宮廷内で銀の近侍と呼ばれているとか。」
「所詮、出自の知れない庶民でしょう?やはりあの話は間違いじゃないです?」
「あら、でも私はその者がオーランド殿下と仲睦まじそうに話していたところを見ましたわ!」
「「「で⁈」」」
「一見、少年のような姿ですけどまぁつまり子どもということでね。でも、その容姿ときたら・・煌めく銀の髪しなやかな動作・・私の近侍に欲しい位。」
「ちょっと、どういうことですの?」
「一見の価値あり」
そう言って口元を扇で隠すその令嬢に更に他の三人が問い詰める。
「まさか・・・あなた噂の銀の子鹿会に入られたのでは?」
赤く染まった頬を扇で隠し俯き加減で小さく呟く。
「ええ、会員番号24番。だって、可愛いんですもの。」
はあ〜。三人が溜息をつく。
「でも、あくまでもう・わ・さ。ですけど両殿下の妃候補に名が挙がっているのでしょう?」
「でも、噂でしょう?とにかく一度ご覧になって見て。私なんか名前まで覚えてもらってるの!フラウ・フォン・エルマー子爵令嬢と呼びかけられて。」
「まあ!身分の低いものから⁉︎」
「それはいいの。オーランド殿下とお話しした後の事でね、先程殿下がこの花をあなたにと、私の好きな花を殿下が手折って子鹿ちゃんに渡すよう頼んだのですって。つまり、ちゃんと殿下の視界に私が見えていて子鹿ちゃんはお使いを頼まれただけなのよ。だから私にはあの子はライバルには思えないわ。」
「なにそれ、ズルいわ〜っ」
「とにかく一度話せばわかると思うの。あの子は銀の子鹿ちゃんよ。」
王太子執務室にて、
「バイラル、銀の子鹿を知ってるか?」
「勿論です。子鹿会を創設したのは私ですから。」
「はあっ⁉︎」
「最初はご令嬢方がどうでるかなと試しにやってみたのですが、今では会員番号50番代迄入会しています。何か問題でも?」
「いや、先日茶会に招かれて是非子鹿に会わせて欲しいと言われてな。最初は何のことやらと思っていたらカリンの事じゃないか。ってか、お前なにやってんの⁉︎」
「男性の部もありますわよ、こちらはハース事務官が創設されて、時間があれば剣や体術の鍛錬をされてるようで女性部からやっかみが多くて。なのでちゃんとご令嬢方が見学しやすいよう場所を中庭にしたそうです、お陰で子鹿ちゃんの味方は増加してますし、侍女達もこっそり覗いていてその効果で意外なロマンスが生まれているとか。子鹿会加入者のご令嬢の殆どが己の敵ではないと思われるばかりかすっかり子鹿を愛でる会として今のところ健全な運営をしております。まだ安心はできませんが。あ、王太子殿下も人前で彼女と接触した後は必ず周りの令嬢にフォローをお願いしますわね。オーランド殿下はこれが上手くて助かります。」
ガウス国家魔法魔術技師執務室にて、
「銀の子鹿会?」
「はい。バイラル秘書官の助言で言われた通りやっていたら、あれよあれよという間に会が広がって。」
「で、時間のある時は男子の部と鍛錬していると。」
「ダメですか?」
「どうなの、男子はともかく令嬢方はやっかみとかないの?」
「それがないんですよ〜、笑えば頬を染められるし両殿下の話をすれば喜ばれるし。男子の部は事務官が殆どであまり相手にならないんですが、この機会に有事に備えて鍛えておこうと思うんです。」
「はあ、子鹿会ねぇ〜。まあ、味方が増えるのはいい事だよ。どうせ下位貴族令嬢が多いんでしょ?」
「はい。その中からたまに有意義な情報も入りますし。」
「例えば?」
「王太子妃候補ですが、まず私を何処かで見て相手にもならんと候補者同士で牽制しているようです。ですが、やはりなんと言うか磨けばどうにかなると諦めず私を狙う貴族もいますね。参内し始めてからは直接声かけなどがあります。パーティーや茶会の誘いだとか。全部主を通すよう断ってますけど。」
「じゃ、この手紙の山はカリンが原因か〜。返事出すの一苦労だよ⁉︎」
「勿論お手伝いします。ただ、候補者からも招待状が届くはずなんですが。」
「ん〜?っとこれかな、ウェスティン侯爵家。」
「あ、それです。どうしましょうか?確かお嬢様の誕生パーティーで、主だった貴族が集まるようです。私は身分が違うので場違いだからと断ったんですが。」
「あれ、これ僕当てだ。カリンを連れ出す口実かな?この家柄だと多分殿下も招待されてるだろうね。ちょっとオブリーさんに相談してみようか。」
オブリー伯爵執務室にて、
「おや、ルディ様に子鹿ちゃん。いらっしゃいませ、どうかなさいましたか?」
「子鹿ちゃん・・・オブリーさんにの耳にも入ってますか。」
「ええ、今一番の話題とか。しかし、やはり両殿下から可愛がられている点で面白くない方々もいるようですよ、例えばウェスティン侯爵令嬢。」
「やはり招待状届きましたか。行かれるのですか?」
「まあ、情報を仕入れなきゃいけないですし。そちらはどうします?」
「ん〜、僕は爵位を取ってないし招待された理由はやはりカリンを人前で辱めるのが目的としか思えないんですよね。」
再び王太子執務室にて、
「兄上、ウェスティン侯爵令嬢の誕生パーティーには行かれますか?」
「面倒だが行かんともっと面倒になりそうだからな。」
「パートナーは?」
「無しだ。お前はどうする?」
「まさか子鹿ちゃんを連れて行けませんから僕も一人で。あそこの令嬢は兄上の妃候補3位内に入ってますよね。」
「・・・それだ、バイラルから聞いたんだが。お前カリンと接触した後はどうしてるんだ?」
「ああ、目についた令嬢にカリンが声をかけやすい話題を提供しています。下の者から声かけすると気を悪くするでしょう?そこを僕がなにかしら髪型でもドレスでも今日は素敵ですねと、とにかく何かしら僕から褒めていたという風にしてます。相手も悪い気しないでしょ?」
(天然か計算か知らんがたらしめ。)
と、いうわけで只今銀の子鹿会絶賛拡大中な王宮のとある一日。