魔法使いの就職
ここハヴェルン王国では最近慶事が続いていた。隣国ウルリヒに第一王女ヴィルヘルミナが嫁いでからすぐにその筆頭侍女を務めていた国内三大公爵家の一つシュヴァリエ公爵家令嬢アナスタシアが新家された特別A級国家魔法魔術技師ニーム・エイナル・オブリー伯爵との婚約が決まったのだ。アナスタシアは生まれた直後は王太子妃第一候補であったが、魔力持ちとして生まれたためすぐに除外されてしまっていた。しかしその美しさから世間の注目を常に集めていた令嬢が、今まで伴侶の候補者名にも上がっていなかった無名の幼馴染の青年が彼女のために魔法師としての資格昇格をし爵位まで手に入れる努力をしたという話はあっという間に社交界から下々の者達にまで広まり二人は世紀の大恋愛の末結ばれたと今では御伽噺のように語られている。
話は二人の婚約の頃に遡る。エイナル・オブリーは元々シュヴァリエ公爵家の離れ専属の執事であった。離れには魔力が大きすぎてコントロール出来ずにいた若い魔法師ニーム・ロドリゲス・ガウスが公爵家屋敷預かりとして住んでいたのだが、執事を勤めていたオブリーが伯爵になってしまった以上その職務は解かれ更にコントロールが効かなかった若い主も既に自分の力を自在に操れるようになっているため、屋敷預かりの立場から独立することになる。離れには二人の侍女が勤めており一人は結婚しアナスタシアの婚礼までその身の回りの世話係になり、ガウス魔法師専属侍女であるアレクシア・カーテローゼ・ハプトマンと、その主ガウス魔法師の新しい住処を探さなければならなかったのだが、それ以前にガウス魔法師は就職を急がねばならない。と、いうわけで彼は魔法省に勤める養父の元を訪ねていた。
「で、お前はこれからどうするつもりだ。」
「えっとですね、とりあえず離れを出て住む当てはできました。」
「もしやそれは、お前の生家か?」
「はい。少し手を入れれば住めると思います。で、とりあえずあの家の権利などをお聞きしたく・・・。」
「あの家と周辺の土地は私が買い取っている。何と言ってもお前の生家だ、好きにすればいい。で、仕事はどうする?」
「それが、当てがなくて。魔法省に入れば親の七光りと言われるでしょうし。これからはカリンの給与も払わねばいけませんので。」
「お前っ!あの娘を連れて出るつもりか⁉︎」
「え・・・やっぱりまずいですかね?僕も考えたしオブリーさんや公爵家とも話し合ったのですが公爵家からは餞別にと、オブリーさんからは何かあった時に側に置いておいた方がいいと言われまして・・・・。」
「はぁ〜っ。言っとくが変な気を起こすなよ。あと、仕事だがアルベルヒ殿下から直々にご指名を受けている。つまり、王太子直属宮廷魔法魔術技師だ。出張や泊りもあるが給与は充分に出る。で、やれそうか?」
「はい、喜んでお受けします。あと、カリンはまだまだ子どもですからね。僕は幼女趣味はありません。」
「まあ、いい。とりあえず生家を直す費用はこちらが持とう。これは養父の務めだ遠慮するな。近いうちに見に行くとしよう。」
「お世話をおかけします。」
こうして、二人は新しい住処を見つけ新しい生活に入るのだった。