1、7話
確かにこの衣装は通常の服と比べると多少の重さを感じる。腰の周りのマントは足の動きを多少ではあるが影響は出るし骨の外装もその見た目に反してまるで重りを付けているようだ。日曜日の朝にやっているヒーローモノの衣装と言うのも重く、マスクのせいで視界も狭まると聞いたことがある。この衣装も、そこまでではないが動くことに影響が出そうだと漣は思った。
「わかりました。えーと、後はマスクですか?」
「マスクは練習場で。後、武器の方もあちらで渡しますので」
「あれ? 武器もあるんですか?」
「ええ。大きな鎌ですよ」
漣は頭の中でこの衣装を着た自分がマスクを被って大鎌を持っている絵を想像してみる。……どう考えても悪役である。しかもラスボスと言うよりは話の半分くらいで呆気なくやられる第2の幹部位の役どころである。
「ホントにヒーローか……これ」
「何か?」
「ああ、いや。何でもないです……。行きましょう」
漣はそう言うと沼川に先に進むように促す。沼川は納得したのか、先へ進むための扉に促した。
「こちらです。どうぞ」
「あ、はい」
沼川に連れられた漣が扉の先に見たモノは事務所の裏の空き地であった。その空き地の中央には遊園地のヒーローショーにあるような観客席用の椅子と、特設のステージがあった。
「ここで練習ですか……?」
「ええ。甲崎さん、ステージの方へお願いします」
そう言うと沼川は漣を手招きしてステージへ誘導する。ステージに立った漣はそこから見える景色と言うのを始めて見た。学校の体育館の壇上よりも高く、観客席は思っているより近かった。
「では、これを」
ステージ上から観客席を見ていた漣に、舞台脇に行っていた沼川が声を掛ける。手には大きなプラスチックの鎌と骸骨の顔を模した骨の装飾が施されたマスクがあった。
「これは……?」
「武器の大鎌、シニガミブレードです。……そしてこちらがシニガミマスクです」
「えーと、すいません。それってマジの名前なんでしょうか?」
「はい、そうですよ」
ヒーローものの事は良く分からないが、子供に分かりやすくするためだろうと思った。だが、本当にそんな名前なんですかマジでございますかお願いしますもうちょっとカッコ良くお願いします。……と、心の中で呟く。
「……わかりました」
今の自分は甲崎漣ではありませんと3回呟くと漣は渡されたシニガミマスクを被る。
「いてっ!」
マスクを被ろうとしたら旋毛に痛みを感じた。まるで爪楊枝が頭にでも刺さったようだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫です」
漣は頭を触ってみるが、特に血も出ていない。どうやら外装か何かが刺さったようだ。漣はマスクの中を触ってみると、小さなバリのようなモノがあり触ってみると簡単に折れた。
「やれやれ」
そう言うと漣は改めてシニガミマスクを被る。被ってみて気付いたがシニガミマスクは予想以上に軽い。マスクを被っていると言うよりは眼鏡でも掛ける程度にしか感じなかった。
そしてシニガミブレード。黒い大鎌をベースにこちらも白い骨の装飾がされた、まさに死神の鎌と言った所だ。
「では、始めましょうか」
シニガミブレードを眺め、プラスチック製の刃に触れようとした時だった。黒いコートを着たままの沼川が手を組んで骨を鳴らしていた。それから床に置いていた剣を手にする。と言っても、剣の部分は空気を膨らませているスポーツチャンバラで使用されるようなモノだ。
「始めるって……稽古ですか?」
「ええ。私はこれで良いので、甲崎さんはその鎌で斬りかかって下さい」
「え? ……あの、ちょっと待って下さい。これってヒーローショーじゃないんですか? それなのに好き勝手にやっちゃっていいんですか?」
疑問に思う漣に沼川は少しだけ呆気にとられた後、ああ。と思い返す。
「そうでしたね。言い忘れていました。これはこちらのミスですね、すみません。実はこの死神戦隊には台本が無く、ヒーローと怪人の戦った結果によって話が進むのです」
「そんなのって出来るんですか……?」
「ええ。大丈夫ですよ。因みに今現在で2話が終了しまして。……まあ、この話は後で良いでしょう。では甲崎さん、好きなように斬りかかって下さい。後、台詞もご自由に」
「当てるフリで良いんですか?」
「まあ、それでも構いませんよ」
そう言うと焦れったくなったか、沼川は持っていた剣で斬りかかってきた。いくら空気の入った痛みの無い剣とは言えど、男としての僅かながらのプライドは自らの身体を動かした。
「グッ!?」
漣はシニガミブレードを両手で持ったまま身体を沼川に対して直角に移動し攻撃をかわす。だが初撃をかわされた沼川はすかさず剣の軌道を変え、攻撃を続ける。急に軌道を変えられた空気の入った剣は大きくしなった。
「や、やべっ!」
漣はリーチの差を考え、後ろに跳び距離を取る。この時ばかりは高校まで陸上をしておいて良かったと感じた。後方も見ずに跳んだが、よろけることも無く着地することができた。
「……」
だが、後方に跳んでしまったことでそこに隙が出来た。沼川はニヤリと口元でだけ笑いを作ると剣の矛先を漣に向け、そのまま漣の胸目掛けて射抜くように動いた。
「ぎっ!」
そこで漣は自分の手に持つ大鎌、シニガミブレードを思い出した。ここまで来たら最早攻撃をよけることは難しい。ならば、相撃ちに持ち込もうと考えたのだ。そう考えた漣は両手で持っていたシニガミブレードを右手一本で持つ。正確には柄の端。遠心力が付いて最も威力が上がる場所だ。
「っ!」
「うぉりゃぁあああああ!!」
沼川の剣が漣の胸に当たる寸前、漣の振るったシニガミブレードは振り子のように動き、刃は沼川の肩へと吸い込まれるようにぶつかった。ポスン、という乾いた音とガツン、というプラスチックの刃が左肩の骨に当たる音がした。
「……見事です」




