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1、6話

 親のお下がりです。と言いつつ沼川はアクセルとクラッチ、そしてギアを巧みに切り替えてバンを車の波に乗せて行く。その動きに迷いはなく、その軽やかな運転はまるで車と一体となっているようだ。

「あのー……」

 ラジオのお便りコーナーはあまりその場の雰囲気を和ませることも無かったため、漣は意を決し沼川に声をかける。

「なんですか?」

「沼川さんっていくつなのかなーって。俺と同じくらいなのかな、って思いまして」

 と、そこまで言い切ってから沼川の顔を見た瞬間、漣はやってしまったと内心後悔する。普段アホの友人とつるんでばかりで、女性に気の利いたセリフなど記憶が曖昧になるほど言っていない。そして女性に年齢を聞くと言うことは、女性に聞いてはいけない質問ランキングベスト3に入る程の地雷だ。

「え、えーと……」

「ああ、27ですよ。因みに結婚もしていません」

 沼川は特に怒った様子も無く、運転を続ける。漣は内心でだけ謝り、前を見る。それからは再び重い空間が車の中を包もうとする。いっそ寝たふりでもしてしまおうかとも思ったが、初対面の、それもこれから世話になる相手にそれはマズイか、等と頭の中を思考がグルグルと回り、目を閉じた瞬間だった。

「お待たせしました。到着いたしましたよ」

 声を掛けられた漣は目を開ける。そこは周りに古びて営業はしていない果物屋や「ぎゅうにゅうや」と言う古びた看板がデカデカと描かれた古民家、そしてそんなシャッター街の中に立つ、綺麗なコンビニがあった。ただ、既存のどのコンビニとも違う赤と青と白の所謂トリコロールカラーであった。

「こ、ここですか?」

「ええ。どうぞ、入って下さい」

 そう言って店の中に入って行く沼川に置いて行かれないように漣は付いて行く。コンビニの払い下げなのか、客が店内に入ってきたことを現すリズミカルな音に迎えられた。

「何だ、これ」

 漣は中に入ってすぐに帰りたくなった。店内はレジを全て廃し商品が並んでいるはずの棚は一切排されており、代わりに大量の服が置いてあった。しかも、殆どが同じようなモノばかり。

「どうなされました?」

 後ろから入ってきた沼川に声をかけられるも、漣は唖然とした。ここはコンビニでは無い。どちらかと言えば服屋だろう。いや、厳密に言えば服屋でもない。チラリと目線に入った服を見て見るとその服は煌びやかなラメが入って7色だ。こんなとんでもないセンスの服屋など行ったことが無い。

「いやー……ここ、本当に仕事場なんです?」

「ええ、まあ始めてくると皆さんそう言われますよ。ここは衣装置き場です。……深川さん?」

 沼川がそう言うと裏から欠伸をした男がやってきた。髪は寝ぐせが付き無精髭を生やしている30代半ばと言った所だ。夏であるにもかかわらず茶色のダッフルコートを着ており、見るからに暑そうだ。そんな男は右手で左の頬を掻いてから大きな欠伸を一回すると、カウンターに腰掛ける。

「やあ沼川。良い目覚めだね」

「いえ、もう昼ですが。……頼んでおいた衣装、準備できています?」

「え? 衣装? ……ああ、Fの黒、28番だ。勝手に取っていけ」

 深川は忘れたように最初頭を掻くが、すぐに思い出したのかFの列の棚の奥を指さした。

「わかりました。甲崎さん、こちらへ」

「は、はい」

 沼川はカツカツとハイヒールを鳴らしてFの棚へと向かう。漣は深川に会釈してから沼川について行った。

「……ふあ」

 深川は欠伸を一回すると再び奥へ戻って行った。


「では甲崎さん。この衣装に着替えていただけますか?」

「……これですか?」

「はい、更衣室は奥の方にありますので」

 深川に言われた服を取ると、店の奥。本来コンビニであれば在庫のおかしやジュースを置いておくバックヤードに当たる場所にいた。だが、今現在はコンビニでは無いバックヤードには何もなく、更衣室として使われていると言うことだ。と、ここまでは良い。問題は別にあった。

「あのー……本当にこの衣装を着るんですか?」

 真っ黒いスウェットのような服の上に腰の辺りに着いたスカートの様なマント。身体の各所にはまるで骨を模したような白い鎧のようなものが付いていた。

「えーと、なんて戦隊ヒーローでしたっけ?」

「死神戦隊デスレンジャーですが?」

 漣の確認を込めた疑問に対し、沼川は何を言っているのかと言わんばかりの疑問で返された。思い返せばバイトをする、というその一点のみを考えていたので漣は忘れていた。というか、忘れていたかった。このバイトがヒーローショー、だと言うことを。

「……そうでしたね。わかりました、はい。着替えてきます」

 自給4万2千円のため、と自分に言い聞かせると漣は着替えに行った。


 5分後。漣は更衣室を出た。顔以外は完全にテレビであるヒーローであった。そして服装に関してだが、始めて着たにも関わらず何故かジャストフィットだった。

「ピッタリですね。良く似合っていますよ」

「はあ……どうも」

 褒め言葉かどうかは分からないが、漣は軽く会釈をするに留まった。

「サイズはこれで良いですね。では、この衣装のまま殺陣の練習に行きます」

「え? この衣装のままですか?」

 通常、このようなショーの練習を行う際はジャージ等の動きやすい服装で行うことが通常だ。演劇などならまだしもヒーローショーであればアクションも必要になる。転倒して衣装が破けたり転んで汚れたりする可能性を考えれば、衣装のまま練習をするというのは得策ではないだろう。

「ええ。ああ、衣装の汚れなどの心配でしたら気にしないでください。替えはいくらでもありますし。それよりも先に、その衣装を着て動くことに慣れていただかないといけないので」

「衣装に……?」

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