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1、4話

「えーと、これか……」

 奈緒と別れ、喫茶店を出た漣は急いで自宅に帰ると、早速資料に書かれていた電話番号に電話をかける。しかし、4コール目になったところで、ブツッ。という音とともに電話が切れてしまった。

「あれ? どうなっているんだ?」

 不審に思った漣は再度電話番号を確認し、自分の発信記録と確認してみるも間違いはない。

「……もう一回掛けて見るか」

 そう言って再び電話をかけて見る。すると、今度は2コール目で電話が出た。

「はい、お電話ありがとうございます。こちらは株式会社、空の目でございます」

「もしもし。えーと、俺……いや、自分は甲崎漣と言う者ですが」

「はい、甲崎様ですね。本日はどういったご用件でしょうか?」

 電話越しに聞こえた声は男性とも女性ともつかず、年齢もわからない、あらゆる意味で中性的な声だった。

「はい、ヒーローショーのバイトのことなんですが、受けたいと思いまして」

「そうでしたか。ありがとうございます。ではですね、履歴書、印鑑、通帳、保険証をご用意いただきまして……あ、甲崎様は今回どのようにして我が社のアルバイトを知ったのでしょうか?」

「友人の紹介です」

「失礼ですが、お名前を教えていただいても宜しいでしょうか?」

 漣は少しだけ迷った。奈緒の名前を出せばいいだけと言えば良いだけだが、昨日今日知り合った相手の名前を出すことだけは少しだけ躊躇ってしまう。

「甲崎様?」

「……えーと、その、天河奈緒さんです」

「天河様から? あ、では貴方が」

「え?」

「いえ。失礼いたしました。天河様から先ほどお電話をいただきまして。甲崎様の事はお聞きしていたのです」

「は、はあ」

 漣は自分の知らぬところで話が進んでいることに戸惑いを感じつつも、話が先ほどよりスムーズに進んでいることに若干の安堵をおぼえた。

「甲崎様、本日はお時間ございますか?」

「え?」

 今の時刻は4時半。5時からアルバイトがあるので今日は時間的な余裕はあまりない。

「えーと、今日はコンビニのバイトがあるので……明日は休みなので明日の昼くらいからなら時間あります」

「わかりました。それでしたら場所とお時間を指定していただければ、そちらで落ちあいましょう」

「え? いや、あの……」

 漣は少し疑問に思った。これは漣がアルバイトを頼んでいるのであり、漣が相手に合わせるのが普通だ。それを、相手は自分達の方が漣に合わせると言う。この違和感は何なのか。

「いかがなさいましたか?」

「いや、そんな。こちらが頼んでいることなんですし、そちらに合わせますよ」

「ああ。そのことでしたか。天河様から言付かっておりますので、甲崎様はお気になさらないでください」

「は、はあ。そうですか……」

 そう思った漣は場所を先ほど奈緒と会った喫茶店に指定した。しかし、時間まで指定するのは気が引ける、と言って朝10時以降ならいつでも構いません、と言った。

「畏まりました。それでしたら明日の昼1時ということでいかがでしょう?」

「わかりました。よろしくお願いします」

「いえいえ。こちらこそ、宜しく、お願いします」

 電話越しの中性的なその声を最後に電話が切れた。漣は通話記録を見て見ると10分ほど話していたようだ。

「結構話していたんだなー……」

 普段、電話など話しても精々5分以内に終わる漣にとっては珍しい長電話と言えた。漣は電話を畳んでポケットに入れるとそのまま横になる。軽く寝たいところだが、時間の余裕も考えるとそうも言っていられなかった。

「……バイト行くか」


 それから約6時間後。自転車を駐輪場に戻した漣は欠伸をしながらギシギシと軋む階段を上がっていた。手にはアルバイト先のコンビニの袋が握られており、中には店から貰った廃棄のおにぎりと明日のための履歴書が入っている。

「はぁ……腹減ったな」

 今後食糧難にだけはならないようにしようと内心決めつつ、部屋着に着替えてから敷きっぱなしの布団に横になる。行儀が悪いとは思いながらも袋から出したおにぎりを横になりながら食べる。賞味期限の切れたソレは米粒が固く、ボロボロとこぼれた。

「……まあ、喰えるだけましか」

 漣は最早米粒の塊をまとめて口の中に入れると、無理矢理に飲み込む。あまり美味いとも思えなかったおにぎりに溜め息をついてから大きな欠伸をする。

「……寝よ」

 そう言うと、漣は布団代わりのタオルケットを腹にかけ眠りに就いた。


「ご苦労様です、奈緒さん」

「ああ、どうも」

 そこは24時間営業のファミレスだった。そこに奈緒ともう1人、男が座っていた。奈緒は昼間と同じ格好で、昼間と同じようにカフェオレを飲んでいる。一方の男は夏であるにもかかわらず厚手のダウンジャケットを着ており、その上夏には絶対誰も頼まないであろう熱々の鍋焼きうどんを涼しい顔で食べていた。注文を取りに来た店員は怪訝な顔をし、鍋焼きうどんを持ってきた店員はクレームをつけられても文句を言えないほど嫌そうな顔をしていたが、それについて奈緒は目をつむった。自分も同じ立場なら同じ顔をしたであろうことが容易に予測できたからだ。

「どうです? 彼は」

「結構見た目は動けそうですね。調べたところ高校時代は陸上で結構な活躍をしたとか。ただ、今の大学には普通入学だったみたいです」

 男は煮えたぎる鍋焼きうどんの海老天をソレは美味しそうに食べる。男の向かいでアイスカフェラテを飲む奈緒は感じる熱気に顔を微妙に歪ませつつも話を進める。

「ただ、今は特に陸上はしていないみたいですね」

「理由は?」

「さあ? 何か事故にあったとか怪我を負ったとか飽きたとか面倒になったとか色々言われているみたいですが、真相は闇の中ってやつじゃないですかね?」

「ふむ……」

 そう言うと、男は鍋つかみを手にして鍋を掴む。それを見た奈緒はたまらずトイレへと逃げる。チラリと背後を確認した彼女が見たのは、グツグツと煮えている鍋焼きうどんをそのまま口へと流しこんでいるショッキングな映像だった。

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