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1、3話

「ここか」

 午後1時50分。漣は指定された喫茶店に到着した。駅前の喫茶店、という漠然とした情報しかないために、探すのに苦労するかと思われたが駅前に喫茶店は1つしかなく、すぐに見つける事が出来た。夏はオープンテラスでも営業しているらしく、店内よりも外に居る客の割合の方が多い。

「……そういや座席とか服装とか、指定してなかったな」

 漣は白いTシャツの上にシャンブレーシャツ、下は黒のデニムというオーソドックスなものだ。また、髪の毛を弄ったりすることも面倒くさがるので、整える程度のことしかしない。漣はそう言ったところでは同年代では無頓着な方だった。

「どうすっかなぁ……」

 と、思いつつもとりあえずオープンテラスの空いている席に座ると、すぐに店員がオーダーを取りに来る。漣は適当な銘柄のコーヒーを頼むとポケットから携帯電話を取り出した。

「……1時55分、か」

「へー、結構時間に律儀なんだね」

 と、肩に手を置かれて声を掛けられた時は本当に口から心臓が出るかと思った。

「ドワァッ!!?」

 吃驚した漣は椅子を倒してその場に座り込んでしまった。周りの客は漣を見て、店員が心配そうに近づいて来た。非常に恥ずかしい。

「す、すいません。大丈夫ですので……」

 漣は椅子を戻して座り直す。周りは漣から視線を外してパソコンで仕事をしたり友人と会話を再開したりしている。漣は周りから聞こえるクスクスという笑い声に耐えながら隣に立つ人物を見た。

「……甲崎、漣です」

「やっぱり君かー」

 先ほどの様子を見ていても平然と笑っている様は大物か、それとも馬鹿か。いずれにせよノミの心臓の漣とは違う鉄の心臓を持っていると思われるのは茶色の髪の毛に涼しげな水色の足のくるぶしまで隠れる長いワンピースを着ている女性だった。

「あ、始めましてだね。改めまして天河奈緒です。よろしくねー」

 奈緒は漣の向かいの椅子に座ると、店員を呼んでアイスカフェラテを頼む。

「いやー、今日も暑いねー」

「そうっすね……」

 漣は少し俯きながら言う。雄作の友人だからどんな人かと思えば予想以上に美人だ。その証拠に、先ほどとは別の意味で周りの客がチラチラとこちらの席……より具体的に言うと奈緒を見ている。

「……漣君、で良いんだよね? 今は何しているの?」

「大学行ってるんすけど……」

「へー、そうなんだ。雄作と同じとこ?」

「ええ、まあ」

「へー。君頭良さそうだもんねー」

「ども……」

 奈緒の言葉に対して漣はなんとか言葉を返すのが精一杯だった。とてもじゃないが、顔を見せること等出来ない。

「あ、来た」

 自分の所に来たアイスカフェラテを受け取るとストローを差して勢いよく飲んでいく。すると、その様を見ていた周りの客は段々と彼女から視線を外していく。それはそうだろう。清楚な美人がズズズズッ!! と大きな音を立てて飲みだしたのだから、イメージも幻想も全て壊れてしまうだろう。

「いっつもこうしているんだよー」

 漣が見ると、奈緒は既にカフェラテ飲み干し、ふう。と一息付くとカップを置く。見た目はともかく中身はオッサンみたいだなと漣は内心思ったが、口にするのはやめておこうと心に誓った。

「で、そうそう。バイトのことだったね」

 カフェラテに満足したのか。思い出したように持っていたバッグからA4サイズの用紙がまとめられた束を渡す。表紙には 「ヒーローになってみない?」 と書かれておりバイトの要項であるようだ。漣はソレを受け取ると1枚目と2枚目を流し読みしてから3枚目の最後を読む。

「……ん?」

 このアルバイトは身体を動かすので怪我の恐れはありますが、医療体制は万全です。ご不明な点などございましたらお気軽にお電話、メール、ファックスなどお待ちしております。

「ああ、それね」

 漣が資料を読んでいる間に再びオーダーしたカフェオレを待ちながら奈緒は漣の横から要項から見ていた。

「ヒーローショーだからさ。やっぱりジャンプしたり大鎌で敵を斬ったりする動きとかで結構身体動かすから足首ひねったりとか良くするんだ。でも、あそこは怪我したときのための保険とかも下りるし、バックアップがしっかりしているんだー。……あ、どもー」

 話の途中でアイスカフェラテのおかわりが来た。奈緒はガムシロップとミルクを入れてからストローでグルグルとかき混ぜて、再びズズズズッと音を立てて飲み始める。

「……良く飲むな」

「まあね」

 奈緒の豪快な飲みっぷりを尻目に漣は資料に目を通す。概要は分かったし連絡先も書いてある。後はここに電話すれば良いだろうと漣は思う。

「……まあ、世話になったし。どうもありがとう」

 そう言うと、漣は伝票を持って立ち上がると会計をしに向かう。

「おやおや? 私の分の伝票まで持っていってるよー?」

「まあ、色々教えてくれたし。ここは御馳走するよ」

「え、本当? じゃあ、後サンドイッチをお願いして良いかな?」

 奈緒は目を輝かせながら聞く。しかし、漣の財布ではコーヒー一杯とアイスカフェラテ二杯分を支払ったら後はスズメの涙程しかない。

「悪いが、金欠なのでここまででーす。バイト代入ったら何か奢るよ」

 漣は奈緒に背中を向けたまま、伝票を振ってこたえる。奈緒は呑み終わったアイスカフェラテをテーブルに置いて漣の背中に声をかける。

「焼き肉頼むねー」

「食べ放題限定なー」

 そう言って漣は会計を済ますと、喫茶店を後にした。残された奈緒は氷だけになったグラスの中身をストローでいじる。それからバッグからスマートフォンを取り出すと、手慣れた様子で操作していくと電話をかける。

「もしもし? あー、私だよ。うん、1人入ることになったから世話してあげてね。よろしくー」

 簡単に一言で済ますと奈緒は店員を呼ぶ。

「すみませーん。カフェオレおかわりくださーい」

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