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4、4話

 にもかかわらず。美川の身体は一片も細切れになることは無く、代わりに別の身体がバラバラになっている。

「なっ……!?」

「保険を準備しておいて助かりましたね……っ」

 漣にとって見覚えのある姿だった。まるで石像の様な身体、全身にチューブのような装飾がついた、芸術作品をごった煮にしたような、絵画の騎士。

「鈴木……君!?」

 前回のヒーローショーで太郎とともに悪役の絵画の騎士を演じた、鈴木次郎が居た。胴と腹が真っ二つになった姿で。

「何で……!! だ、だってこれは……っぶ!!」

 漣は震える手でシニガミブレードを握っていた。そのシニガミブレードは白い骨を削って造られたような大鎌である。だが、その大鎌の刃は真っ赤に染まっている。鉄臭い、その臭いは、血の臭いであった。それが雨と混ざり、漣の元へと流れてくる。強烈な嘔吐感に襲われる。身体をくの字に曲げ、上がって来た胃の中身を吐きだしそうになる。何とか、吐しゃ物は出さずに済んだものの、口一杯に気持ち悪さが広がる。

「っぶ……ま、まさ、か」

 そこで漣は太郎の元へと戻ると、彼の身体に突き刺さっている刃を見てから、意を決して刃に触れ、勢い良く滑らせる。

「っ!!!!」

 すぐに刃を離す。漣は自分の手を見てみると、手を覆っている黒いグローブは切れ、その下からは紅い線が出来ていた。間違いは無かった。この刃は、本物である。

「……どういうことだ。……どういうことなんだ、これは!!」

「どういう、こと? ですって?」

 荒い息遣いの美川が言う。雨に濡れたヒーローのマスクを直しながら美川は一歩一歩漣に近づいて来た。

「最初から。最初の研修で使った時から、ここで使われているモノは、何も、何一つ変わってなどはいませんよ!?」

「なっ……!!?」

 漣は絶句すると同時に1つの疑問が浮かぶ。初めての研修の時の沼川との研修の時やロッカー室でシニガミブレードに触れた際。あれらは、確かにただのプラスチックの模造品だった。それが、この場所で振るった時、物体を斬り裂く力を得る。そんなことがあるのであろうか。

「もう、何か面倒くさくなってきましたねぇ」

 その声は、ステージを向いている漣に向けられた。そして、その声と同様に美川の手には先ほど真っ二つにされた次郎の持っていた筆の槍が握られている。

「君は予定になかったですけど、仕方がないですよね? ブラックは新しく見つけるしかないですものね。そういうことですよね」

 そう言うと、背中を向けたまま完全に無防備な状態の漣の背中に巨大な筆の形のランスを突き刺そうと構える。

「死ねぇええええェエエエエエェエッ!!」

「死ぬのは……」

 その瞬間であった。美川が感じたのは殺気であった。しかし、それでいてその殺気には先ほどまでの尖ったものではなかった。それは、身の内から溢れ出て、触れるモノを傷つける様。もし、美川が感じた殺気を見ることが出来る者がいれば、こう表現したであろう。


 人間を包み込むような、大きな泡のようであると。


「オマエだァアアアァアアアアア!!!」


 そして、その泡に触れた者は。泡と共に弾け飛ぶ。


「ッッッ!!!!!!??????????」


 漣がやったことは決して難しいことでは無かった。ただ、漣の身体を貫こうとした槍が身体に届く2秒前。振り返った瞬間には、既に漣の手は拳を作り、刹那にはその拳は美川の顔面に叩きつけられていた。ただ、それだけのことである。

「なっ……!!」

 美川が殴られたことに気付いたのは、殴られて倒れてから数秒後だった。その攻撃はす様じいもので、被っていたヒーローのお面は割れ、その下のマスクまでが裂けた。

「……邪魔、なんだよ!!」

 そう言った漣は左腕一本で漣を担いでいた。そして、その場に上半身と下半身が分かれてしまった次郎を見る。

「……せめて、上だけでも」

 そう言って次郎の身体を支える。彼を連れていき次第、自分は刑に処されるであろう事は容易に理解できた。

「……っうっ!!」

 漣は、全てを振り払うかのように事務所へと走っていった。


「……は、はは。失敗、ですかね。い、いや。№9110は死んでいるはず。ぎ、ギリギリセーフでしょうかね?」

「……いや、outじゃないのか?」

 その瞬間、美川の心臓は一瞬ではあったが確実に止まった。それほどの衝撃を、彼女は感じたのだ。彼女は倒れたまま視線を横にずらしていく。そこには、相も変わらず眠そうな表情をした深川が居た。

「ふ、深川っ!?」

「生憎だけど、全部見ていたよ。まあ、№8933は正直無理だろうな。最初の一太刀で出血性ショックだ。まあ、しかし。№9110は助かったな。もう、アイツは止まらない」

「……」

「しかぁし、よくもまあやってくれたよ。おかげで向こう側さんはご立腹だ。№ナンバーズを送り届ける予定が手違いで別の位置に送っちまい、あまつさえ勝手に処理までしちまおうなんて、な。まさか2回目の処理が、身内の出した不始末のせいなんて思いもしなけりゃ考えもしなかった」

 その時だった。深川が作った手刀を少し動かした瞬間。美川の左足の肉だけが切り取られる。それも全身の骨は一片も傷つけることなく、肉だけを、である。

「なっっっっ!?」

「腕の桂剥きだ。安心しな。骨も肉も綺麗に使いきってやるし、脳味噌と眼球と内蔵はホルマリン漬けにしておいてやるよ」

 そう言うと、深川は自らの手刀を次々と振るっていく。その度に、次々と肉が削げ落ちて行った。肉と骨と内臓。それぞれをバラバラにされた、かつて美川だったモノは、まるで精肉店に出される商品の様になっていた。

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