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4話

「やっと着いたな……」

 深夜の騒動から4時間程経過した、時刻は午前5時22分。始発の電車に乗って、再びアパートに帰って来た漣は眠い目を擦りながら部屋に戻ってきていた。彼は持って来た鞄を部屋に置く。

「結局一泊もすること無かったな……」

 親には悪いことをしたと少なからず思ったが、仕方がない。それに父親は墓参りぐらいしに来たらどうだ。と言われたので墓参りは済ませたので良いだろう。と、自分を正当化させるための言い訳を頭の中で考える。尤も、それが自分を正当化させるため、という時点で悪いことをしているのだという自覚はあるのだが。

「ねむ……」

 昨日は昼間から夜まで殆ど寝て過ごしていたが、昨晩は寝ずに行動してきた。その上、昨日まで殆ど徹夜同然で動き続けたために眠気が強かった。

「時間までちょっと寝ていよう……」

 そう言うと、漣は綺麗に畳んでおいた布団を汚く広げると、布団も敷かずに寝る。疲れが溜まった頭は強力な睡眠導入剤となり、目を瞑った瞬間に漣の意識は途絶えた。


「このままじゃ、やっぱりまずいんですかね? 牛川さん」

「ああ。出る釘は打つしかないだろうしな」

「彼は明日の夕方、アルバイトに入っていますが?」

「……その前に片づける。コンタクトは?」

「出来ます」

「わかった」

 そう言うと、ガスマスクを外した牛川は電話を掛けた。


 ブーッ、ブーッ。

「んあっ?」

 死んだように白目を剥き、大きないびきをかいてまるで死んだように寝ていた漣は携帯電話のバイブ音で目を覚ました。

「何だ……一体」

 死んだように寝ていた人間が起きた様はまるでゾンビのようだった。眼は半開きどころか殆ど開いておらず、這いながら歩いている。漣はこの時知る由もなかったがまだ4時間ほどしか経過していなかった。

「はい、もしもし……」

「甲崎さんでしょうか?」

「そうですが……どなたでしょうか……」

「おや? もう忘れてしまったのですか? 昨日お世話になった、美川ですが」

 その瞬間。先ほどまで生気のないゾンビのようであった漣は途端に眼を覚ます。まるで全身の細胞が活性したかのように布団から這い出た。

「何の用だ……」

「いえいえ。今、僕に会いたいかなと思いまして。デートのお誘いですよ?」

「ほう……どうやら俺を怒らせたいみたいだなぁ」

「さあ、それはどうでしょうねぇ?」

 美川の言葉に漣は苛立ちを覚え始める。昨日はボコボコにされ、その上太郎をさらわれたのだ。普段であれば、女性を殴ろうなどとは微塵にも思わない漣であるが、美川の事は素直に殴りたいと思った。

「明日のバイトまで時間はあるでしょう? 今日、デートをしませんか」

「さっきも同じこと言ったろう」

「そうでしたね」

「……どうやら、本気で怒らせたいみたいだな」

「そうかもしれませんねぇ?」

「どこに行けばいいんだ。本気で一発ぶん殴る」

 漣は美川のとぼけた言い回しに珍しく青筋が立っていた。もしも、漣を良く知る雄作が居れば、その様子をとても珍しく思ったことであろう。それほどまでに、漣が怒る様子と言うのは珍しいことだった。


 適当なところで妥協点を見つけ、折り合いを付け、波風を立てぬことを美徳とする、甲崎漣という人間としては。


「それは嬉しい。では、いつもの事務所に来ていただけますか?」

「ヒーロー事務所の事か?」

「ヒーロー事務所?」

「いや、別に良い……。こっちの話だ」

 余計なことを言ってしまったと内心思いながらも、漣は話を続けた。

「なるほど。ヒーロー事務所……。そうですね、では午前10時50分にヒーロー事務所前の自販機でいかがでしょう?」

「……ああ、わかった」

 そう言うと、漣は電話を切る。そのまま携帯電話の時計を見てみると、時刻は9時52分と表示されていた。事務所までは牛丼屋まで10分。そこからバスで40分は掛かるので時間としてはギリギリといった所だ。

「すぐ来い、って意味か」

 何か意図したモノを感じた。何か罠にでも掛かっているかのような。不思議な感覚であった。漣はショルダーバッグに実家から持ってきたボトルと財布、携帯電話を入れると傘を差して家を出た。


「……流石、乗せやすいですね。ありがたい限りでしたよ」

「美川さん?」

 ヒーロー事務所で電話を掛けていた美川は受話器を置くと、それを待っていたかのように沼川に話しかけられた。

「あ、沼川さん。お疲れ様です」

「どうも」

 沼川は手に持っていた手帳をスーツの懐に仕舞って言う。

「どなたに電話を?」

「甲崎さんにですよ」

「甲崎さんに?」

 そこで沼川は怪訝な顔になった。今現在、ヒーローショーのヒーローサイドの担当は沼川、悪役サイドの担当は浅川、衣装担当の深川の3人が居り現場のアルバイトとかかわりがあるのは基本的にこの3人だけだからだ。

「何故、貴女が?」

「仕事のことですよ」

「新入りの貴女に仕事のことをですか?」

「ええ、先日知り合ったものでして。少し仕事の事で話がありまして」

「……なるほど」

「はい。衣装と舞台をお借り出来ますか?」

「……構いませんよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 そう言うと美川は衣装を選ぶと、更衣室へと向かった。残された沼川は更衣室へ向かった美川を見送ってから、電話を掛けた。

「もしもし。沼川ですが」

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