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2、7話

 その言葉を雄作が聞いた瞬間。一心と話をしていた雄作の全身に電流の様な衝撃が走る。それは自分のまるで先ほどまでの記憶がフラッシュバックしたかのようで、先ほどの衝撃が脳味噌から骨の一片、細胞の欠片1つ1つまで伝わっていくようだった。

「そ、そうだ。さっきな!! 怪人役の人の腕が!!」

「皆様お疲れ様でした」

 雄作が先ほどの惨劇と言っても良い状況を伝えようとした時だった。更衣室ルームの扉が開き、沼川が現れた。

「ぬ、沼川さん! 丁度良かったです!!」

「はい? 平坂さん。何かございましたか?」

「さっきのバイト中、怪人役の人の腕が、斬れたんです!! あれは、事件じゃ!?」

 雄作の必死な様子に数秒間だけ茫然とした沼川だったが、すぐに納得の色を示す。

「ああ、そのような演出なのですよ」

「えっ!?」

「このデスレンジャーはリアルな戦闘シーンを売りにしていますので、当然ダメージを負った場合はそのようなシチュエーションになるよう、セッティングされているんですよ」

「いや、でも……」

 それでも、雄作は思いだす。あの時、無我夢中であったとはいえ絵画の騎士を斬った。その時の、肉に刃が入っていく感触も骨が砕ける感覚も、全てが虚構だと言うのか。

「……ああ、2人ともお疲れ様でしたね。こちらへ」

 思考を続ける雄作に対し、沼川はバックヤードから廊下へ視線を移し誰かと2、3軽く会話をすると手招きをする。すると、彼女とともに2人の少年が現れる。

「あっ……さっきの」

 その内の1人。蒼い髪の少年に漣はすぐに気が付く。先ほど、トイレでぶつかってしまった少年はその美しい風貌を持ちながら、俯いていた。そしてもう1人、緑色の髪の少年がその隣に立っている。彼もまた蒼い髪の少年と同様日の光を浴びたことが無いと思われるほどの白い肌をしていた。しかし蒼い髪の少年とは違い、視線は真っ直ぐに漣達に向けられていた。

「こちらの蒼い髪の少年が山田太郎さん。緑色の髪の毛の方が鈴木次郎さんです。山田さんは骸骨武者の刃、鈴木さんは絵画の騎士を演じていただきました」

「こんなガキどもが……?」

 一心はまるで睨みつけるように2人の少年を見る。か細く、少し触れただけでも折れてしまいそうな印象を与える少年達があんな動きをしたとは考えられにくかった。一方の雄作は茫然としながら、歩き出す。

「君が……?」

 雄作が一歩一歩、ゆっくりと歩み寄っていくのを次郎は見ていた。その様子は、まるで足の骨を折った患者のリハビリのようだと漣は内心思う。そして、次郎の元まで辿りつくと、ゆっくりと彼の肩に手を置く。そこからゆっくりと腕へと手を滑らせていき、次郎の指先に触れた。透き通る肌に似ているのか、彼の手は冷たかったが、それは義手等の類のものではない。紛れも無い本物の手である。

「本、物、だよな……これは……」

「……」

「……まったく、沼川。ほら、持って来たぞ」

 雄作が次郎の腕を、指の動きや指紋、手相から全て確認するように触っていると、再び更衣室のドアが開く。そこには眠そうにした深川がいた。

「ああ、すみませんね。深川さん」

「全くだ……」

 深川が持ってきたのは先ほど次郎が着たという、絵画の騎士のコスチュームである。腕は落ちているが、良く見るとその部分には発信機の様なものが付いている。

「平坂さん。見ての通りですよ。デスレンジャーも怪人も、攻撃が衣装に当たるとその部位がダメージを負ったように表現されるのです。ですが、中に入っている貴方達がノーリアクションでは不自然ですので、ダメージを負った部位に刺激を加える仕掛けになっているのですよ」

 沼川は深川に持ってきてもらった絵画の騎士の衣装にシニガミブレードの刃をチョンと当てる。すると、腕の部分は小さく音を立てて落ちてしまった。

「あれ? ですけど、腕は? 腕はこの中にあったんでしょう? 何故腕も無くなったように見えたんです?」

「腕を入れる部分が別の部分にいれているんですよ。怪人側の彼等の衣装は特殊な細工が施されていますので、腕をある程度は連動させられるようになっているのです。納得していただけましたか? 平坂さん?」

「あ、はい。なんか、すみません」

 頭を下げる雄作に対して沼川はいえいえ、と言うと山田と鈴木の2人の肩に手を置いた。

「気になさらないでください。説明の無かったこちらの不備ですので。では、甲崎さんと一心さんはフロントで待っていますので」

 そう言うと沼川と深川は山田と鈴木の2人を連れて戻っていった。

「さて、と。んじゃ俺達も戻るか。雄作、帰りにカレーでも喰って行くか。一心さんも一緒にどうです?」

「ああ、良いぞ、漣」

 雄作が了承するのに対し、面倒くさそうに鼻のピアスを弄っていた一心は溜め息をついた。

「……いや、悪ィが俺は遠慮しとく。用事があるんでな。じゃあな」

 そう言うと一心は鞄を担ぐと先に更衣室を出て行った。

「あ、一心さん! ……行っちまったか。残念だな……」

「用事があるみたいだからしょうがないだろう。また今度誘えば良いさ。と言うか漣。どうでも良いがなんでカレーなんだ?」

「ん? いや、朝テレビ番組見ていたらカレーが出て来てな。そういや最近食べてないなーって思ってな。折角だし、美味いカレーが喰いたいと思っただけだ」

「そうか。まあ、別に何でも良いけどさ。じゃ、俺達も行くか」

「おう」

更衣室を出た2人はそのままフロントに行く。既に一心や山田、鈴木は帰ったようで沼川と深川の2人しか残っていなかった。

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