2、3話
「っつかさ。何なんだよ、あの人」
「ん?」
着替えをしていた雄作の呟きに漣が反応した。言うまでも無いが、あの人、と言うのが一心のことであることは容易に想像できた。
「ああいう協調性の無い奴見ていると腹立つんだよ。俺は」
「……まあ、気持ちはわかるけどさ」
食事の時のこともそうだが、雄作は自分のポリシーを貫くタイプの男だ。故に、理不尽なことや相手の間違っていることを許せない所がある。正義感が強い、と言えば聞こえは良いが、悪く言えば子供っぽくて頑固だ。適当なところで折り合いを付けて衝突を嫌う漣とは対照的と言えた。
「でもしょうが無い所もあるんじゃないか? 前回から、って言っていたし。ってことは初めて後輩が出来たってことかもしれないだろ? 緊張してああなっちゃっただけかもしれないしさ」
「……うーん。そんな、もんか?」
漣の忠告に多少は思う所があったのか。雄作は多少首をひねり、考えつつも納得した様子だ。
「まあ、さ。御前の意見は尤もだし。あんまり気にせずにいくしかないさ」
「……そうだな」
そう言う頃にも2人は手を動かし続けていたおかげか。漣は黒を基調とした死神の、雄作は蒼を基調とした死神の衣装へと着替えを終えた。また、2人とも先ほどの一心と同じようにそれぞれシニガミマスクを携えていた。
「よし、行くか。雄作」
「ああ」
2人は更衣室を出て先ほどのフロントへと戻っていった。
「すいません、お待たせしました」
「ああ、お二人とも着替え終わりましたね」
戻ってきた漣と雄作に沼川は言う。一心は衣装のまま壁にもたれかかっていたが、先ほどまでレジに突っ伏して寝ていた深川は居なかった。
「さて、では今回のヒーローショーの説明をいたします。こちらに」
そう言うと沼川はA4サイズの紙を広げた。漣、雄作、一心の3人はその紙を中心に集まった。
「撮影は15分です。前回の話でデスレンジャーの敵、デスボンバーゴーストにデスブラック、デスブルーが負けて死亡してしまいました。最初に高崎さんにはこちらの原稿を読んでいただきます」
「……ハズい」
そう言うと沼川は4行ほどの内容が書かれた紙を一心に渡す。渡された一心は嫌そうな顔で内容を読んでいた。
「その後、最初の5分程を高崎さんに1人で戦っていただき、その後甲崎さんと平坂さんが登場。台詞を言っていただいた後戦っていくと言うようになっています。甲崎さんと平坂さんの原稿はこちらです」
一方の漣と雄作もそれぞれ紙を受け取った。2人は内容を読むと若干顔を赤らめた。
「これ、読まないといけないんですか……」
「……頑張ろう」
漣と雄作はそれぞれ決意すると紙に書かれた言葉を小さな声で音読する。内容は短いため、すぐに覚えることが出来た。
「皆さん、ここまでで何か質問は?」
「あの、1つ良いですか?」
沼川の問いかけに雄作が小さく手を上げて言う。
「何でしょう? 平坂さん」
「この前の練習のときに純粋に戦った結果によって物語が進むって言うのは聞きましたが台詞とかはどうするんですか? 何も喋らないでいる方が良いですか? それとも、緊迫感を出すために少し何か喋ります?」
「それも含めて。全てをリアルに演じていただくことに意味がありますので何をしゃべっていただいても構いません。甲崎さんや高崎さんの名前を読んでいただいても問題はありません。もしそれでも気になるのでしたら後で編集することも出来ますのでご安心を」
その質問を聞くと、雄作は安堵した表情を浮かべる。一心は下らなさそうにした様子で欠伸をしている。
「また、ヒーロー側はルールとして残り時間2分となるとヒーロータイムとなり必殺技、黄泉斬りが使えるようになります。しかし、今回は平坂さんと甲崎さんが初めてなのと話の展開上、この技はまだ使えませんので次回説明いたします。以上がルールです。撮影はステージ上にセットされた複数のカメラと正面からのカメラで行います。……他に何かご質問は?」
何もありません。そう漣が言おうとした時だった。彼は肝心なことを思い出した。
「あれ? 沼川さん。その、敵役はどこにいるんですか?」
「敵役の方々は別の事務所から既にステージ側で準備なさっていますよ。あちらも打ち合わせなどはしていますので特に問題はありませんので。……他には何かございますか?」
漣と雄作はそれぞれ顔を合わせ何もないよな、と互いに言い合い一心は面倒くせェと言ってイライラしていた。沼川は何も質問が無いことに納得したのか、広げた紙を畳む。
「では行きましょう」
そう言うと沼川は裏のバックヤードへ3人を案内する。そこで3人分のシニガミブレードを渡す。そして、撮影会場であるステージへの扉を開け放った。
扉を開けた3人がステージ上に見たのは2体の怪物だった。正確には、ソレを演じている者達、と言うべきであろうか。1人は紅い甲冑を着て腰に刀を差した骸骨頭の武者。もう1人は石像のような全身に脚や腕にカラフルな絵の具のチューブが付いており、右手にはまるで西洋の槍、ランスの様な筆を持っている。そして左手には絵の具を混ぜるためのパレットを大きくしたような盾を持っていた。
「お待たせしました、浅川さん」
沼川はステージの脇に居る男性に声を掛ける。浅黒い皮膚に一心と同じ金色の髪の毛だ。しかし、一心とは違いパリッとしたスーツを着こなしており、不思議と軽薄さは感じさせなかった。
「お疲れ様です、沼川さん。既に怪人役の方達は準備が出来ています」
「わかりました。では高崎さん。原稿を先に読んでいただけますか」
「……ああ」
そう言うと一心は先ほど渡された原稿を読み始めた。




