2、2話
「ごちそうさまでしたー」
ありがとうございましたー! という威勢のいい声に最後まで送られて漣と雄作は店を出た。時計を見ると12時。これから先はバスで先日行ったコンビニ風のヒーロー事務所(仮称)近くまで行き、そこから10分ほど歩くことになっている。
「じゃあ、行くか。雄作」
「おおー」
漣と雄作はバス停に向かう。と言っても、牛丼屋はバス停の目印代わりも兼ねているので出てから数分歩くだけですぐに到着した。既に古く、ボロボロな待合所では70代と思われる老人が飴を舐めてバスを待っていた。バスは程なくしてやってきた。
「そういや雄作。レポートとかもうやった?」
「? 当然だろ、あんなん最初の一週間位で終わらせるものだろ」
「……俺、まだ全然やってないんだけど」
「……マジか」
この後、漣はレポート1枚につき300円で手伝ってくれないかと言う協定を持ちかけるも、そんな協定には乗っていられるかという一言で破綻した。思えば夏休みも残り二週間弱となった。漣としては大学生活が始まる前に出来るだけバイトで貯蓄を増やしておきたいところだが、課題に夏休みの貴重な時間を削がれるのは何とも免れたい。そう思った漣は早めに課題を終わらせることを内心で誓う。
「頑張らないとなー」
「レポートもな」
「……なあ、親友よ。今ここでそれ言う必要ある? これからバイトなのに気を重くしたくないんだけど」
そんなやり取りをしているうちにバスは目的地へ到着した。2人は代金を支払い、バスを降りる。
「さてと」
到着した漣は携帯電話で時間を確認する。時間は12時40分。これから歩いて目的地へ行くにしても少し早い。
「ちょっと早く来すぎたか?」
「まあ、時間より遅く行くよりはいいだろうよ、漣」
「そうだけどさー。……どっか自販機無いかな」
漣が周りを見てみる。すると、バスの停留所のすぐ横に自販機があった。
「あ、あった。なにか飲もうっと」
漣は財布から小銭を2枚入れると一本缶コーヒーを買った。大手のメーカーの微糖のモノだ。
「よく缶コーヒー買うよな。……爺臭い所あるよな、御前」
「そうか? ってか雄作。御前はなんも飲まないの?」
漣はカチョンという音を立ててプルタブを開けると一気に半分ほど胃の中に流し込んだ。
「……まあ、飲んどくか」
そう言うと自販機の前から退けた漣の代わりに雄作が自販機の前に立つ。小銭を2枚入れると、コーラを買った。
「……普段は大人っぽくしているけど、そう言う所は結構ガキなところあるよな」
「好きなんだから別に良いだろうが」
少しムッとしながらも一口コーラを飲む。すると雄作はそれまでの固い表情から顔が崩れる。
「ああー……美味い」
「……」
この顔を大学の連中は知らないんだよな。そう思いながら、漣は残り少ない缶コーヒーを飲み切った。
「御前飲むの早いなー……っぷ」
ゲップをしながら雄作は言う。それをげんなりとした眼で見ていた漣は備え付けのゴミ箱に空き缶を捨てた。
「おはようございまーす」
「どうも、お疲れさまでーす」
あれから5分ほど掛けてコーラを飲んだ雄作とともにヒーロー事務所へやってきた。挨拶をしてみたも、レジカウンターには以前来た時と同じように深川が突っ伏して寝ていた。この人はいつ仕事をしているのであろうかと内心疑問には思いながらも辺りを見回す。
「甲崎さん、平坂さんお疲れ様です。」
レジカウンターの奥から沼川が出てきた。以前と変わらないスーツ姿の彼女であったが、今回はそれだけでは無かった。
「……」
沼川の後ろから1人の男が付いて来た。その場の誰とも混じらない金色の髪で鼻には大きなピアスをした、20前後の男だった。男は漣と雄作と眼が合うと、睨みつけるように2人を見る。
「こちらはレッド役の高崎一心さんです。高崎さん、こちらが本日のブラック役の甲崎漣さん、ブルー役の平坂雄作さんです」
「……まあ、途中でやめた前のブラックやブルーの顔なんざ覚えてもいねェし、別にどうでも良いが。精々邪魔だけはするなよ」
そう言うと一心は皆から離れ、1人先に着替えのため更衣室へ向かった。
「彼は前回からウチでアルバイトをしてくださっている方でしてね。少し冷たい方ですが悪い方ではありませんので」
「……はぁ」
先ほどの言葉や態度を聞いて、悪い人ではありません。等と言われても正直説得力には欠ける。かと言って反発するのも、まるで小さな子供の様で気が引けた。そのため漣も雄作も当たり障りのない返事をするに留めた。
「ではお二人も更衣室で着替えを。衣装の上に名前を描いた紙を置いてありますが甲崎さんは黒いデスブラックの衣装を。平坂さんは青いデスブルーの衣装に着替えて来て下さい。その後こちらの方で軽いミーティングを行いますので」
「わかりました」
「了解でーす」
漣と雄作の2人は返事をすると店の奥の更衣室へと向かう。裏のバックヤードに入ろうと扉を開けた際、扉の前には紅いシニガミマスクを左腕で抱えた一心が立っていた。
「あ、すいません」
「……」
一心に気付いた漣と雄作が下がる。一方の一心は何も言わずに沼川と深川の元へと歩いて行った。
「はぁ……」
「おい、漣」
「ん? あ、ああ。悪い悪い」
漣は一瞬だけ振り返って一心を見た後、すぐに更衣室へ向かった。
「……馬鹿が」
だからこそ、一心のその一言を聞くことは無かった。




