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1話

今年の電撃文庫に投稿した作品です。感想いただけたら嬉しいです。

「……あー、いかん。どうするか……」

 それは蝉が自らの種を次世代に繋ぐために、命の限り鳴いている声が聞こえる家賃4万円のアパートの一室で響いた。そこで1人の男が自分の貯金通帳と睨めっこをしていた。彼の名は甲崎漣かんざきれん19歳の大学1年生で初めての1人暮らしの真っ最中である。

「やっと夏休みだってのに……こう、金が無いって言うのはどういうことなんだよ?」

 独り言のように呟くも、それで通帳の残高が増える事は決してない。親元を離れての1人暮らしで親からの仕送りは貰っているが、それはあくまでも光熱費や水道代、食費に家賃等の諸々を含めた最低限の額しかなく、それ以外では彼はアルバイトをして足りない分の補填に当てている。しかし、今までの家での抑圧された環境からの脱却は1人立ちのために様々なことを勉強させてくれる。それは、例えば休日は昼寝をして夜起きる生活であったり、夜に出歩いてファミレスで友人と夜食をとったり、普段は変えないアダルティなモノを買って家で堂々と見たりとそれはまあ様々な弊害を伴うものだが、何でも1人でやる。それは確かに勉強になると漣は思った。

「……って、そんなこと考えている場合じゃねえ、どうしよう……」

 漣は1人頭を抱える。先日友人とボーリング、カラオケ、ゲームセンター、を梯子し、更に普段は行かない焼き肉店にノリで行き、「ここからここまで全部ください」という馬鹿丸出しの注文をしたため、通帳残高が眼も当てられないことになっていた。あの時は何故、そのようなテンションになったのか、今でも分からない。ただ、男には引いたら負けになる時があると言うこれまた馬鹿な思考に引っ張られたことだけは覚えている。とにかく、今の漣には金と余裕が無い。具体的に言うと、このままでは後2日で食料は底を尽き、1週間は調味料と水だけで生活しなければいけない程度にはマズイ。

「どうすっかなぁ……」

 漣は友人から借りた求人雑誌やチラシを見て見るが、どれもこれもある程度長期のバイトで日払いのバイトなど全くと言っていいほどない。また、漣はコンビニのアルバイトもしているが、振り込みは2週間後だ。どうやったってすぐ金が手に入る方法など無い。最終的に親に泣き付くのも手であるが、それは出来ない。御前には1人暮らしなんて無理だと両親と妹に言われた揚句、散々後ろ指を刺され、じゃあもし何かあったらすぐ家に帰ってやるよ! と言ったのは売り言葉に買い言葉である。その牙城もたった3ヶ月で終わってしまっては男として啖呵を切ったプライドが許さない。

「……なんか手は無いかな」

 と、そんな時だった。ポケットに入れていた型遅れの携帯電話のバイブがなったことに気付くと取り出して開く。1通メールが来ていた。

「メール? 誰だ……」

 そこでメールを開いてみると、そこには友人の平坂雄作ひらさかゆうさくからのモノだった。因みに彼こそ、散財する原因の1つを作った人物でもある。尤も漣自身のテンションのせいというのが最大の理由なのだが。

「……なんじゃこりゃ」

 件名には無題としか書かれていないにも関わらず、内容は他のメールから引用してきたかのような内容だ。そこには自給4万2千円のバイトあります、とのことだ。

「……自給4万? マジで?」

 普段、漣がコンビニでバイトして貰える自給は680円。4万円と言えばその58倍の金額だ。しかも、そのメールを読んでみると日払いもOKとデカデカと書いてあった。しかし、当然のことながら疑問の方が大きい。

「バイト代が自給4万ってヤバくねえかなぁ……」

 テレビで薬や生活スタイルの変化のためのバイト等の紹介を見たことがあるが、どうやったって自給4万円のバイトなんて聞いたことが無い。まさか麻薬の密輸等の売人の仕事か、等も思うが、麻薬の売人のバイトなどをこんな方法で募集するのは変だ。ましてや、友人の連絡先からと言うのも。

「……」

 漣は一度メール画面を閉じると、雄作に電話をかける。3コール目でようやく彼は電話に出た。

「もしもし、漣か?」

「おい雄作。さっきのメール何なんだよ? すっげー怪しいんだけど」

「ああ、あれか。まあ、ほら。困っているんじゃないかと思ってメールしたんだよ。ほら、この前2人で結構金使ったじゃないか」

「いや、そりゃありがたいが……自給4万って怪しすぎるだろ」

「大丈夫だって、俺の友達もやったバイトだけど、ヒーローショーのバイトらしいから」

「……何? ヒーローショーだと?」

 余計意味が分からなくなった。何故ヒーローショーのバイトで4万もくれるのか。

「そうそう。何か人出が少ないらしくて、是が非でも人が欲しいらしい。それでそんな金出しているんだって。何でも、スポンサーの羽振りが良い……とか言っていたな」

「……今、その友達に電話できるか?」

「今は無理だな。その友達、高校時代にそのバイトやって、もう今は就職しているからな」

「じゃあ、わかったよ。後で良いから連絡くれるようその友人に伝えてくれるか?」

「了解。まあ、詳しいことは後で連絡する。じゃあな」

 その一言を最後に、電話の奥ではプーップーッ、と機械的な電子音だけが響いた。

「……やれやれ」

 漣は最近口癖になった台詞を溜め息交じりに吐くと、冷蔵庫の中から缶コーヒーを取り出した。高校時代から頻繁に飲む銘柄である。缶コーヒーに限らず、漣はコーヒーが好きで、1日2本は飲んでいた。

「……ふう、美味いな」

 コーヒーの味に落ちついた漣は一息付くと再び横になった。

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