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カロリーナの顛末

「――で、カロリーナ=マルトン三級官吏に少し便宜を図ってやれと?」


「まあ、要約するとそうなるな」


 俺はレアに向かって言葉を述べる。


 レアとフィーナは一卵性双生児であり、青い髪と瞳は勿論のこと何から何まで同一である。


 その余りの類似性に2人が変装すると本人と俺以外誰にも見分けることが出来なかった。


 そんな2人だが中の性格は正反対である。


 レアはフィーナに積極性を、そしてフィーナはレアに思慮深さをそっくりそのまま渡したと思えるほどタイプが全く違っていた。


「本人は否定していたがあれは絶対に謙遜しているな。雰囲気自体が何か褒賞をくれと発していた」


 目は口ほど物を言うとはこのことだな。


 若さ溢れる20代のカロリーナに野心を隠す芸当は出来ないらしい。


 ああいうものは例え片鱗でも他人に見せるのは喜ばしくないからな。


 ……まあ、カロリーナより年下の俺が考えるべきセリフではないがな。


「ユウキ王の命令とはいえそんな勝手なことをするのは難しいわね」


 椅子の背もたれに深く体を預けながらレアが呟く。


「ただでさえ官吏達が血気盛んな今、そんな特例を認めてしまうと内部の規律が保てないわ」


 レアは南区画を始めとしたジグサリアス王国の官吏達を纏める内務大臣である。


 彼女は受け身的なものがあるものの、その事務能力に加えて人と人を調整する能力に長けているのでこの役職に就いている。


 ちなみにフィーナは外務大臣でありティータはその補佐、ヒュエテルは財務大臣そしてシクラリスは宰相であることを追記しておこう。


「しかし、何もしないでいると信賞必罰の定義から外れてしまうのに加え、カロリーナが職場で辛い思いをするぞ」


 衆人監修の中であんな行為をしたんだ。


 俺を取り囲んでいた官吏達は自分達を出し抜いたカロリーナに対して快く思っていないだろう。


「カロリーナのためにも俺としては何か措置を取りたい。こんなことで1人の人材を失うのは惜しいからな」


 腐っても鯛と言うべきか、カロリーナもし烈な競争を勝ち抜いて南区画へ赴任した猛者。


 是非ともその能力をジグサリアス王国のために役立ててほしいものだ。


「うーん……どうしようかしら」


 俺の言葉にレアは渋面顔を作って考える。


「あんまり特例を認めたくないのだけど、ユウキ王の言葉も一理ある。如何にして軋轢なくカロリーナに褒賞を与えることが出来るか……」


 どうやらレアの中で便宜を図るか否かからどの程度の便宜を与えるかに変化したようだ。


「ならこういうのはどうだ?」


 俺はレアにばれないよう内心ほくそ笑みながら提案を出す。


「彼女にいくらかの権限を与えて地方の統括代理に任せたらごたごたが無くて良くなるのではないかな?」


 こういう時は外に出した方が良い。


 内部で昇進させるという手もあったが、この機転だけだと同僚の不信を買うし、なにより俺のみる限り今の彼女の能力だと主任を務めるのは心許無い。


 外で荒波に揉まれた方が成長が早いだろう。


「でも、それをすると左遷とか思われないかしら」


 南区画から外れるということは出世街道から逸れるということ。


 その事実にカロリーナは耐え切れるのかとレアは聞くが俺は頷きながら。


「まあ、一応カロリーナに報奨金か地方赴任かどちらかを俺自身が聞いて問おう」


「え? ユウキ王自ら?」


 レアの疑問に俺は頷く。


「俺が提示した選択を彼女が選んだとなればどちらを選択しようとも周囲の風辺りは弱まるだろう」


 地方赴任を選んだのならば問題なし。


 もし報奨金を選んでもその金とは別に彼女の所属するチームに宴会でもやらせて親睦を深めさせておけば大丈夫だろう。


「ああ、そういうことですか」


 俺の意図を読み取ったレアは納得が言ったように相槌を打つ。


「その方法なら軋轢も少なくて済みます」


「方針は決まったな」


「はい、後は報奨金の額やどこに赴任させるのか決めるだけなので自分1人でも出来ます」


 ジグサリアス王国の状況を最も理解しているのはレアだろう。


 彼女に任せておけばカロリーナの赴任先はどこが適正なのか見定めてくれる。


「さて、俺もやるべきことがあるので戻るぞ」


 ふと外を見ると竜のイズルガルドが舞っている。


 これは何か用事が出来たので急きょ呼び来たというところだろう。


「はい、詳細が煮詰まりしだい報告します」


 窓を開けてイズルガルドに飛び乗った俺の背にそんなレアの言葉が届いた。




 後日


 カロリーナは地方赴任を希望し、数日中にジグサールからグラッド地方へ発って行った。


「私、絶対にこの地方を栄させてみせます!」


 カロリーナは最後にそんな言葉を残していったことから如何に彼女の意気込みの深さが窺い知れる。


 地方というのは便利な都会と比べると不便なことが多々あるのだが、もともと彼女はグラッド地方出身なので上手くやってくれるだろう。


 数年の後、ジグサールに戻っても良いしそこで骨を埋めても良い。


 どうなるかは彼女次第だろうな。


「さて、仕事に戻るか」


 カロリーナの回想はここまで。


 俺も神聖騎士団の対策などやるべきことがたくさんあるので彼女1人に構ってあげる余裕などない。


 カロリーナが存分に力を発揮できるように俺も全力で仕事をしなければならないな。


「負ければ全てを失う……失敗の代償はでかいな」


 ラブレサック教との決戦を思い浮かべた俺はふとそんな疑問が浮かんだ。

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