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雑談

「ティータ様、本格的に南蛮遠征をするつもりの様ですね」


「まあ……そうなっているわね」


 砦の中に入った私とキリングに出迎えたのは出立の準備をしている交渉役兼薬師であるティータの姿だった。


 食料や水、そして武器などのチェックをしている様子からどうやら本気で遠征を行うつもりらしい。


「本当にベアトリクス様の独断には疲れます」


 普段から人の悪口を言わないキリングにしては珍しく愚痴をこぼす。


「もし失敗すればどうなるのでしょうか。その責は最高責任者であるエレナ様が負うことになります」


 私のことを心配してくれているのか。


 キリングの言葉に思わず胸が熱くなってしまった。


「あ~、キリング。その心配はしなくても良いわよ」


「オーラ副団長ですか」


 キリングの懸念に答えるように、いつの間にか私達の横に並んでいたオーラ殿が首を振ります。


 身長130cm以下というジグサリアス王国中枢メンバーにおいて最も小さいとされるオーラ様は舌っ足らずな口調で。


「この資料を見てもらえれば分かると思うわね」


「何ですか、これは?」


 オーラ殿から渡されたのは何十枚にも渡る羊皮紙の束。


 何やら難しい専門用語がびっしりと書き連なり、資料の所々に地図らしき図形が注釈付きで書き留めてあった。


「この資料を作り上げたのはエルファね」


「ああ、ベアトリクス様お付きのメイドですか」


 ベアトリクス様の横に常時付き従っている緑色の髪をしたあのメイド。


 アイラ殿とオーラ殿との2人を同時に相手できるほど手だれとかは認識してましたが、このような事務能力もあったのですか。


 思わず感心してしまいます。


「話を戻すわね。この資料は遠征において掛かるであろう時間はもちろんのこと、補給物資や薬そして武器等が全て書き連ねてあるのよ」


「確かに……」


 オーラ様から渡された資料を見たキリングは苦虫を噛み潰した表情で呻く。


「強いて挙げるなら私達は南蛮の地理に明るくないことです」


 苦し紛れにキリングがそう強弁するが。


「大丈夫大丈夫。そこら辺も黒梟騎士団の活躍によってすぐに埋められるわ」


 オーラの言葉に沈黙せざるを得なかった。


 何だか話がまとまりそうな雰囲気になるが、ここで私はある疑問を口にする。


「ところでキリング。通常の遠征ならどんなに早くても数カ月はかかるぞ」


 未だラブレサック教国との戦端は開かれていないとはいえ、遅くとも一月以内に両軍がぶつかる。


 普通に考えて時間が圧倒的に足らないだろう。


「ん~。エレナ伯爵。それは武官よりの意見よね」


 私の疑問に対し、困ったような表情を作るティータ殿は続けて。


「“敵か味方か”その二択で全てを括ることが出来れば私達文官なんて必要ないわね」


「ついでに言えば黒梟騎士団の存在も消し飛ぶわ」


「申し訳ありませんエレナ様。そのような世界は私には住み難いです」


 ……あれ?


 何この状況?


 私、何か馬鹿なことでも言ったか?


 ティータ殿やオーラ殿はともかく、キリングまで向こうに回ったことは私にとってショック以外の何物でも無かった。


「まあ、冗談はここまでにしておいて。キリング補佐、エレナ伯爵に説明してあげなさい」


「オーラ様、分かりました」


 了承したキリングは私にそっと近づき、何事かを耳打ちする。


「エレナ様、私達の今回の遠征の目的はユウキ王との同盟を受け入れられない部族を屈服させることです」


 噛み砕いて説明すると、此度の遠征で不安材料となりうる部族を殲滅させることらしい。


 それはどうやって見分けるのかと私は疑問に思ったが、先日の魔物大侵攻において食料や兵の援助において取った態度によって決めたとのこと。


「交渉事は私が担当ね」


「なるほど。だからティータ殿が出張って来たのか」


 どうして外交のナンバー2がここに来たのか疑問に思っていたが、その言葉に全てが氷解した。


 なるほど。


 確かにティータ殿はフィーナ殿の右腕として各地へ赴いていた。


 それに加えて元薬師でもあるから、この地特有の風土病にもいくらか対策が打てるだろう。


 いやはや。


 ラブレサック教国との折衝と言い、南蛮諸国との対応と言い魔物大侵攻という未曾有の混乱を最大のチャンスに変えた。


 全てを主導したユウキ陛下には驚かされるばかりだ。


 と、考えていたのだが、不意にティータ殿が口を開いてその考えを修正する。


「えーと、エレナ伯爵? 断っておくけどボクは南蛮諸国関係においてそこまで指示を出していないわよ」


「何と!?」


「ボクが行ったのはあくまで援助のみ。そんな侵略を前提とした対応まで確認するよう指示していないわ」


 では一体誰がここまで詳細な――彼女しかいないな。


 私の表情から真実を読み取ったのかオーラ殿は苦笑しながら。


「そう、ベアトリクス王女が全てを取り仕切ったのよ。しかもユウキ王に黙って黒梟騎士団を動かしてまでね」


「……よくアイラ殿が納得しましたな」


 そんなことをすればユウキ陛下の懐刀と称せるほど忠誠心を持つアイラ殿が黙っていないと思うが。


「ベアトリクス様の行為は火事場泥棒という表現がしっくりくるわね。その頃アイラは魔物の対応で忙殺されていたから、そこまで気が回らなかったんでしょう」


 ベアトリクス様……一体何をやっているのでしょうか。


 参謀長という肩書を持っているとはいえ直属でない兵隊を勝手に動かすのは軍規に反しているでしょう。


「だからバレた時が大変だったわ。エレナ伯爵はご存じないだろうけど、これを機にベアトリクス様を軍法会議にかけようと息巻くキッカ団長を始めとする四人組と魔物大侵攻後の処理を考えるとベアトリクス様の能力が必要不可欠だと訴える王女達の間で激しい論争が行われたわね」


「ユウキ陛下……ご愁傷様です」


 二勢力から板挟みとなったユウキ陛下の姿が容易に想像できてしまい、思わずそんな言葉を漏らしてしまいます。


「アハハ。エレナ伯爵のご想像通り、論争が終わった時のユウキ王は相当消耗していたわね」


 ……お疲れ様ですユウキ陛下。


 陛下の苦労は誰よりもこの私が理解していますのでご安心ください。


 そして、もし許されるのなら、いつか酒の相伴に預かりたいものです。


 ベアトリクス様に振り回される者同士、存分に語り合いましょう。


 私はそんなことを考えながら3人と共にベアトリクス様達が待ち受けているであろう会議室へと足を運びました。


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