南蛮兵
「現れたか」
続々とこちらへ進軍してくる南蛮兵を見やりながら私はポツリと呟く。
あれから30分後、森の奥から人影が見え、それに続々と人が続いてきた。
その数目算で4万。
それだけなら5万もある我らが恐れることはないのだが、彼らは最盛期のラブレサック教国軍による侵略を何度も跳ね返してきた猛者。
彼ら全員がその褐色の肌に刺青を彫り、顔面には派手な塗料を塗っていた。
「あれは戦闘兵ネ」
隣に立つキザマリックがそう解説してくれる。
「彼らは命を含め、全てをマルボルクに捧げていル。死兵である彼らを甘く見ると痛い目を会うヨ」
「なるほど」
死兵か。
それは恐ろしい。
死を覚悟して戦う兵は通常の兵の5倍以上の働きを見せるという。
なら正面から当たるのは得策ではないな。
しかし。
「どうして我らはここで待ち構える必要がある? 通常なら川付近の水際で食い止めるべきだろう」
エルベルク大森林からブロード砦まで至るには幾つもの川があり、渡るには船が必要なほど深く速いので我らはいくつもの陣を敷いて待ち構えれば容易に数を減らせるのではないかと予測するのだが。
「甘いヨ」
キザマリックは鼻で笑う。
「沢山の川が障害物? 残念だけど私達はそう見えなイ……何故なラ」
「なっ!?」
ありえない光景に私の目は点となる。
一体誰が想像できようか。
あの広く雄大な川が真っ二つに割れるなどと。
「私達は自然を味方につけル。ゆえに天然の障害物などあってないようなものネ」
川のあちこちを割って道を作り出した南蛮兵は整然としたまま渡っていく。
「……何ということだ」
人を寄せ付けない鉄壁の楯だと思われていた川がまるで彼らに服従するかの様に左右へ分かれている。
川を割る芸当が可能なのはジグサリアス王国広しといえどもユキ様しかいない。
「これが……南蛮兵」
私の常識の外にいるであろう彼らを見た私は唾を飲んだ。
「さて、やるしかないネ」
南蛮兵が最後の川を渡りきる前にキザマリックが静かに宣言する。
「キザマリック……分かっているだろうが裏切っても意味が無いぞ」
「言われなくとも分かっているヨ」
キザマリックは渋面の顔を作る。
「ここで反旗を翻して勝利しても意味が無いネ。北部の人間はこれから先加速度的に力を付けていくかラ、今友情を結んでおかないと置いて行かれるネ」
ほう、さすがキザマリック。
大きな視点で物事を考えられるか。
確かにこれから先はユウキ陛下主導の下で大陸が大きく動くからな。
ユウキ陛下の構想と現在の風習がぶつかった際、何が起こるのか無知である私には想像すらつかないが、されど必ずユーカリア大陸を良き方向へ持っていくだろう。
まあ、果たしてそれに私がついていけるかは微妙なところだがな。
「敵兵! 川を渡り切りました!」
連絡兵の報告を受けた私はここで思考を打ち切る。
これから先は戦争だ。
この戦いに勝利することを考えれば良い。
「しかし、向こうは攻める気があるのか? 攻城兵器どころかハシゴすらないぞ」
投石機に似た装置は多数見え隠れするものの、あのサイズだと石を発射出来ても人の頭以上の岩は無理だろう。
これだと我らの弓矢や魔法の良い的だと考えると。
「だから北側の常識で考えないデ」
私の様子に呆れを滲ませたキザマリックが忠告する。
「何度も言うように私達は自然を味方につけていル」
南蛮兵は投石機に近い装置で球形の粘土を放り投げてくる。
「さあ……来るヨ」
それは粘着性があるのか砦の壁に多数貼り付き、そして……
「う……わああああああ!!」
キザマリックの不吉な言葉と共に下の兵達から鋭い叫びがあがった。




