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エレナ伯爵のスピーチ

「あらあらエレナ伯爵、震えているの?」


 私の隣に立ち、日傘を肩に掛けたベアトリクス様がそう茶化してくる。


 今、私達は来たるべき戦いに備えて砦の上で全軍の様子を監査している。


 先日のベアトリクス様の報告は真実であったことを知った私達は至急軍備を整えるために全員夜も寝ないほど奮闘した結果、間一髪間に合わせることが出来た。


 戦う相手はこれまでと違い、未開の地で住んでいる南方諸国の民族。


 戦闘や魔法はおろか、彼らの生活・文化・風習の何もかも知らない私は彼らがどんな戦いを展開してくるのか正直予想が付かない。


 ベアトリクス様はそこを見透かしてそんな質問をしてきたのだろう。


 しかし、私は正直に答えず笑いながら。


「まさか、そんなはずはあるまい」


 と自信満々に答える。


「多数の優秀な兵と頑強な砦がある我らが負けるはずがないだろう」


「ふうん、大した自信ね」


 ベアトリクス様は感心したように呟く。


「情報が少なすぎるからエレナ伯爵のような態度を私は取れないわね」


「お褒め頂き光栄です」


 本心は不安で一杯なのですが、将軍である私が弱気な部分を見せるわけにはいかないのですよ。


 私が迷うとそれが兵にも伝染し、最悪統制の効かない烏合の衆になり果ててしまいます。


 そうならないためにも私は常に堂々としておかなければならないのです。


「その立派な心がけ、さすがエレナ伯爵ね。貴族連合との戦闘の際、本当に生かしておいて良かったと思うわ」


「……ありがとうございます」


 振り返れば私はあの時生か死かの境目にいたのですな。


 私は捨て駒として前線で戦っていたせいか十分に戦果を得ることが出来ましたが、もし私が十分な兵を連れて行っていれば欲に目がくらみ、最後のあれに私も参加していたでしょう。


 もしそうなっていれば……


 私は突然身震いし、今自分が生きて最大国家であるジグサリアス王国の伯爵の地位に就いていることを心の底から安堵しました。


「ん? 突然震え出してどうしたのエレナ伯爵?」


 あの罠を立案・施行したのは私の眼を覗き込むように見上げるベアトリクス様。


 神業を持つ彫刻師が丹精を込めて彫り上げた石像の様な美しさを持っている容貌の裏で悪魔すら躊躇する策を考えだす私の元主君。


「いえ……私自身の幸運を噛み締めているところです」


「そうね、あなたは本当に運が良いわ」


 私の思考を知ってか知らずか、ベアトリクス様はフフフと笑いました。




「エレナ様、そろそろお時間です」


 しばらくすると後方からキリングがそう報告を伝える。


「黒梟騎士団からの報告によると後1時間以内に南方諸国連合は森から出るそうです」


「分かった」


 ついにこの時が来た。


 来たるべき戦に向けて私の中に熱い何かが駆け巡り始める。


「聞け! 皆の者!」


 私はあの森の向こうにいる敵まで届かせんとばかりに声を張り上げる。


「そろそろ我らの敵が森から現れる!」


 剣の指し示す先にあるのはこの地方特有の木々で構成された森。


「あの奥に潜んでいる奴らが私達の領土を奪おうと目論んでいる! 向こうは簡単に国の1つや2つを落とせると踏んでいるが、あいにくとそうはいかん!」


 何故なら、と私はここで大きく息を吸って。


「ここにはお前達がいるからだ! 此度の魔物大侵攻で鍛えられたその力! 存分に解放させろ!」


 ザワザワと兵士達の闘志が上がっていくのを感じる。


 そして私は止めとばかりに。


「このジグサリアス王国筆頭貴族――エレナ=グランシリア=イーズルブル率いる我らが奴らの野望を打ち砕いて見せよう!」


「「「「おおおおおお!!」」」」


 兵士達の雄たけびによって砦が揺れ、暴走した魔導師の魔力が突風を吹き荒れさせる。


 南方諸国連合が姿を見せるまであと少し。


 後にも先にも、私がここまで大規模な軍を動かすことはないだろうな。


 だからこそ、最高の結果を残さねばならん。


「キリング、補佐を頼むぞ」


「はっ」


 私の言葉に対して即座に頷くキリング。


「私が持てる力の限りエレナ様を支えましょう。全てはエレナ様のために」


「ありがとう、キリング」


 本当に私は良い部下を持った。


 キリングがいてくれるのならどんな困難も乗り越えることが出来るだろう。


 ……まあ、ベアトリクス様関係以外だけどな。

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