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閑話 キッカ達の任務

「この辺りがアイラが示していたポイントね」


 私――キッカは後ろにユキを乗せながらそんなことを呟く。


 私は魔物大侵攻の被害を少しでも抑えるために、魔物の発生源となっている次元の歪みへと向かっているわ。


 魔物というのは他の生物と同じように繁殖するのだけど、他にも次元の歪みから誕生する場合もある。


 厄介なのはこの歪みから発生した魔物は通常の魔物と比べて強力かつ統制された行動を取ってくることね。


 それゆえに次元の歪みを塞ぐ依頼は通常の魔物討伐と比べ物にならないぐらい危険度が跳ね上がるのよ。


 例を挙げると30体程度のゴブリンの集団を始末するのに一般の冒険者が5人もいれば十分だけど、歪みから現れたゴブリンの群れを退治するには熟練の冒険者10人または魔導師が必要ね。


 最弱のゴブリンでさえそれだけ大がかりになるのよ。


 攻撃した相手を即死させる魔物など種類によっては領主どころか国が動く場合もあるわ。


 そんなことを思いながら私は眼前の黒い津波を見下ろす。


 通常の歪みなら単一の魔物しか吐き出さないのだけど、今回は様々な種類の魔物を出現させているわ。


 今、私達に狙いを付けた即死攻撃をする魔物のデス・サイズも確認できる。


 デス・サイズも含めてだけど眼前の魔物全てが歪みから発生したのならもはや悪夢の領域よ。


 街1つ落とされたとしても納得してしまうわね。


「現在これが大陸各地で発生しているなんて信じたくないわ」


 向かってくるデス・サイズは全部で10体。


 大鎌を振り回すだけの大ぶりな攻撃だけど、これに当たると高確率で死ぬわね。


 通常なら当たったところで即死はほとんど起きないけれど、次元の歪みから生まれたデス・サイズの即死率は90%以上。


 掠ることすら許されないわ。


「全く、ユウキもとんでもない命令をしてきたわね」


 組織だった攻撃を何とか掻い潜り、デス・サイズが着ているボロボロのローブの中央に槍を突き刺して絶命させる。


「任務が終わったら我儘でも聞いてもらおうかしら」


 四方から襲いかかる即死の鎌を避けた私はそんなことを呟いたわ。




「――これ全部が通常の魔物だとしても相手にするのは骨が折れるわね」


 10体のデス・サイズを全て葬った私は大きく深呼吸を行って平静を取り戻す。


 空を飛べない魔物達相手だと上空から一方的に攻撃できるとはいえ限度があるわよ。


 これだけ膨大な数なら魔物を全滅させる前にこちらの体力や矢が尽きてしまうわ。


「……相手をするのは私」


 するとユキが後ろからそんなことを言う。


「広範囲殲滅は私達魔導師の領分。一撃離脱のキッカはそんなことをしなくても良い」


「分かっているわよ」


 ユキの言葉に苦笑する私。


「アイラは先行偵察でクロスは専守防衛。各々の役割が違うことぐらい分かっているわよ」


 アイラが率いる黒梟騎士団は魔物発生の根源となる歪を発見し、私達赤飛竜騎士団はその場所までユキ達青朱雀騎士団を連れて行く。そしてクロスの金獅子騎士団は各防衛地点を守り切るのが目的。


 幸運なことに魔物達はインビシブル状態になった黒梟騎士団を察知できないようだから、今のところ被害は報告されていないそうよ。


 まあ、あくまで今のところだから、コウモリの魔物の様な超音波で察知する輩が出現すれば不味いけどね。


「さて、あれが歪みね」


 飛行系の魔物を薙ぎ払いながらポイントへ近付く私。


 森に覆われた場所にある歪みの大きさは大体3m程度かしら。


 通常は1mも満たないのだけど、この魔物大発生で出現した次元の歪みは10mっていうのもあったわ。


 あれを早い内に破壊していなければ国内は大変なことになっていたでしょうね。


「どうする? ギリギリまで近寄ろうか」


 私は30m程離れた場所でギールを止めてユキに確認を取ると、ユキは無表情に「……ここで良い」と言葉少なく言う。


「……早く終わらせよう」


 ユキは特注の杖を取り出して何事かを呟き始めたわ。


「我は呼ぶ、氷の女王ここに来る、永遠の時をここに刻め――アイスエンド」


 ユキが詠唱を終わると同時に歪みがあるであろう場所の周辺10mは一瞬で凍り付いたわ。


 多分その半径にいた魔物は何が何だか分からず死んだわね。


 魔物の地面に着く直前の足を見るとそんなことを切々と感じたわ。


「……ふう」


 1秒にも満たない間で100体近い魔物を絶命させたユキは呑気に一息を吐いているわね。


 ユキはいとも簡単にやってくれるけど、通常の魔導師なら最低半分、もしくは1/3程度まで近づかないと魔法の威力は実戦で使えないのよ。


 我ながらとんでもない化け物を仲間にしていたのだと実感するわ。


「さて、次のポイントへ回りましょうか」


 本来なら出現した魔物も片付けなければいけないのだけど、私は殲滅させる暇があるのなら他の場所へと向かわなくちゃ。


 そもそも私は最も危険な場所へ向かい、後始末は他のチームに任せる。


 まあ、通常は竜騎兵と魔導師それぞれ5人で1チームを作って事にあたるのだけど、私とユキは単独で事にあたる。


 ククルスやミア曰く、私達にはチームなんて不要らしいわ。


「君達の動きに付いていける団員なんて1人もいないよ」


 ミアがそうぼやいていたのが妙に印象的だったわ。


 そういえばアイラが見つけた次元の歪みってインビシブルが効かない魔物を排出するのよね。


 一体どうやってその魔物達の眼を掻い潜っているのかしら。


 それにクロスも指揮系統は基本レオナに任せて自分は先頭に立って戦っていると言っているし。


「もしかして私達は人を率いるのに向いていない?」


「……何当たり前のことを言っているの?」


 思わず口に出してしまい、ユキから呆れの色が混じったため息を聞かされたわ。

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