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ベアトリクスの真意 前編

「そんなわけにはいきません!」


「そうネ! このまま何もしなければ私はとんだ恥さらしヨ!」


 俺の不必要発言に猛抗議するアーデルハイトとキザマリック。


 そんな2人に俺は噛んで説明するようにゆっくりと言葉を紡ぐ。


「2人の気持ちは嬉しい。だがな、こちらとしてはすでにラブレサック教国率いる神聖騎士団を攻略方法は見つかっているんだ。こちらが勝つと決まっている以上これ以上の援軍は無用だ」


 これは真実。


 当初は絶望的な差であったものの魔物大侵攻によって十分すぎる猶予が与えられ、その時間を使って新たな技術の開発や騎士の育成を行えたので今では十分勝機が見えている。


 クロスやユキを失う必要性が無いと知った瞬間飛び上がったのは内緒である。


「また、お前達が連れてきた援軍はこちらからすれば微々たるもの、戦況を左右するまでには至らない。むしろ連携が取れずにこちらの足を引っ張ってしまう懸念があるので俺としては静観してほしいのだが」


 俺の言葉に唇を噛んで黙りこむアーデルハイト。


 おそらくアーデルハイトは自分をトップに据えてラブレサック教国連合と戦うつもりだったろうが、残念ながらそれをされると今後の統治に影響が出てしまう。


 俺の目的は宗教と国を切り離すのが目的であり、ラブレサック教内での権力争いに参加するつもりなど毛頭なかった。


「誤解しているようだが俺はちゃんと約束は守るぞ。必ずアーデルハイトを元の聖女の地位に返り咲かせてみせよう」


 まあ、アーデルハイトには悪いが以前の様な威光なんて無いけどな。


 今後、ラブレサック教は数ある宗教の中の1つとしての地位に甘んじてもらおうか。


「う……」


 アーデルハイトは言いたいことがたくさんあるのだろうが、この状況を打開する適切な言葉が見つからないようだ。


 とりあえず1つの懸念は片付いた。


 話は終わりとばかりに俺は踵を返すと、慌てたようにキザマリックが俺の前に回りこむ。


「ちょっと待ってヨ!」


 両手を広げて行かせんとばかりに切羽詰まった声を上げるキザマリック。


「私はマルボルク教の力を大陸に証明する使命を帯びているネ! ここで何もできなければ私は最悪除名ヨ!」


 あの陽気な表情など微塵もなくなっていることから、参加できないのは本当に不味いのだろう。


 除名は言いすぎにしてもこれから先キザマリックの立場が危ういものになることは容易に予想が付く。


 しかし、俺からすればそんなキザマリックの都合など知ったこっちゃないんだなこれが。


 正直な話、同盟相手の使者であるキザマリックがどうなろうと俺にとっては関係ない。


 個人的な友誼を結んでいればまた別だが今回の謁見が初対面。


 勝利に絶対必要というわけでなく、むしろ裏切られる可能性がある以上俺としては断じて乗るわけにはいかないな。


「――良いんじゃなくて?」


 俺はどう答えようか悩んでいると後ろから涼やかな声音が響く。


「ベアトリクスか……」


 飾り気のないシンプルな白いドレスに透き通るような銀色の髪。細く折れそうなか細い四肢から深窓の令嬢を想像させるが、その中身は正反対の悪魔。


 他人がもがき苦しむ様を見ることが最大の快楽という異常な人格者だった。


「お初にお目にかかりますお2人方。私の名はベアトリクス=シマール=インフィニティ。ジグサリアス王国の参謀長を務めさせて頂いています」


 ドレスの端を撮み、優雅にお辞儀する様は王族の生まれと言ったところか。


 完璧で突っ込む所など微塵も無かった。


「さて、我が君はお2人を必要ないと仰いましたが、私としては必要だと考えています」


「っ!」


「本当カ!?」


 ベアトリクスの言葉に目を輝かせる2人。


 その様子を天使の微笑みを浮かべた後、俺の方へ向き直り。


「我が君。誠に勝手な判断かと思われますが、この2人と共に馳せてきた援軍を私に任せてくれないでしょうか?」


「……ふむ」


 突然の提案に多少驚いたものの、ベアトリクスがそう進言するからには何か思惑があるのだろう。


 一瞬ベアトリクスが反旗の意を持ち、自分が国を動かしたいのかと邪推したのだがこの方法はベアトリクスらしくない。


 彼女なら自分に嫌疑がかかりそうな真似をするはずが無い。


 ベアトリクスは自分が表に立つことを嫌がるからな。


「……良いだろう」


 ベアトリクスの真意は不明だが、それは後でゆっくりと問い詰めれば良い。


 最悪2人の援軍の武器を奪い、予備兵力として戦場から遠ざけておいても構わないしな。


「ベアトリクス、お前に2人の管理を任せる。ジグサリアス王国の利益となるようしっかりと働いてくれ」


「承知いたしました我が君」


 そう勅命の後に手を差し出すと、ベアトリクスは口元に笑みを浮かべながら額を俺の手の甲に触れさせた。

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