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没話 男達の会話

「恋人が出来ないんだ……」


 知らんがな。


 ことの発端は1時間前である。


 夜――もう寝ようかと執務室を出た俺にクロスが駆け付けてきた。


「た、大変だ。至急ついてきて!」


 いつもは大地の様に大らかなクロスが泡を食っている。


 そのただならぬ様子に俺は何か緊急の事態が発生したと考え、用件も聞かずにクロスの後に追従していった結果、ルール将軍の部屋で浴びるように酒を飲んで絡んでいる将軍とその相手をしているワークハードの姿が目に入った。


 で、俺は何事かとクロスに尋ねた結果、クロスの代わりにルール将軍がそう答えた。


「拙者ももう30の中盤。そろそろ母君の催促が厳しくなり、部下も結ばれる者が出始めた」


「うむうむ」


 初老のワークハードは酔っ払いの言葉に嫌な顔1つせずに頷いている。


 そういえばヒュエテルさんもよく相談ごとをされていたことを鑑みるとここら辺が年長者の特徴なのかと考えてしまうな。


「で、拙者も結婚について考え始めたのだが、この持ち前の顔のせいで女子が寄ってこん」


 確かにルール将軍の顔はどう贔屓目で見ても50代の雷親父だな。


「人は顔で無かろう。わしも将軍より酷い顔を持っている者も何人か知っているが、全員結ばれたぞ」


 さすがワークハード、この切り返しは見事だな。


「しかし、顔以前に拙者はどう女子と接して良いのか分からん」


 まあ、普通軍隊というのは女気の無いものだからな。


 ルール将軍は少年兵の頃からずっと軍人一筋だったから仕方ないだろう。


「最初はそんなものであろう。だから少しづつ学んでいけば良い」


 確かに余程の者でない限り始めてやって上手くいくなんて出来ないぞ。


 何事も挑戦と失敗を繰り返して学んでいくものだ。


「しかし、拙者は将軍だ。そんな姿など部下に知られたらどうなるであろう」


「知らぬことは恥でない。だから――」


「……クロスよ、一体これは何なんだ?」


「いやあ……」


 離れた場所に立っている俺の問いにクロスは乾いた笑いを洩らす。


「俺は夢を見ている気分だぞ。普段剛毅なルール将軍が女のことで悩んでいる姿なんて想像すらできなかった」


「うん、同感」


 ルール将軍は統率力も個人の力量も一級品なので他国からも一目置かれている人材である。


 何が凄いかというとその声量と気合であり、その一喝は他国にまで響くとまで噂されるほど凄まじいものである。


 そんなわけで俺はルール将軍をヴィヴィアン直属の部下と置いている他にも親衛隊の隊長としての肩書も持っていた。


「で、どうして俺を呼んだのだ?」


 ワークハードだけで酔っぱらいを任せるわけにもいかず、俺は10秒の思考の後にルール将軍の前に座り、視線を横のクロスに向けるとクロスは苦笑しながら。


「いやあ、ユウキの女を落とす秘訣というのを教えてあげたくてね」


「はあ? 何を言ってるんだ」


 とてつもなく不本意なことを言われた俺は顔を歪めるのだが、クロスは知らん顔で。


「だってユウキって18人以上女性と関係を持っているんでしょ。だから少しばかりコツを教えてあげて欲しいなあと思うんだよね……人の恋人さえも落とすんだからね」


「……ああ」


 最後の一言にもの凄い私怨が感じたので俺は素直に頷くことしか出来なかった。


「ユウキ陛下! ご教授願います! どうしたら陛下の様になれるのでしょうか!」


「落ち着け、ルール将軍」


 身を乗り出して尋ねてきたルール将軍にワークハードは肩を叩いて大人しくさせる。


「陛下、多忙な所申し訳ありませんが、少しばかりその秘訣を分けてあげることはできないでしょうか?」


 ワークハードからもそう言われた俺に逃げ場など無かった。


 ……しかし。


「何を教えたら良いんだ?」


 何を説明したら良いのか分からないという、どうしようもない事柄にぶつかる。


「俺は積極的に女性を求めたことなんてないぞ?」


 振り返って考えると、求めて来るのは常に向こうからであり俺自身が望んだことなど一度もない。


「あれ? そうだっけ?」


 クロスの疑問に俺は頷いて。


「ああ、例を挙げると俺はレオナに対して何かアプローチを仕掛けていたか?」


「うーん、ユウキが生きているから一度も仕掛けていないのかも」


 何だその覚え方は!


 と、俺はその出かかった言葉をすんでの所で留める。


 これ以上深めると冗談抜きで俺の首が飛びそうな危機感があったからな。


「とにかく、俺は女性に関心が出るような試みなど一切していないからな」


「では拙者はどうすれば……」


 いや、それを俺に聞くなよ。


 ずぶ濡れの子犬を見捨てるような心境になってくるだろうが。


「仕事をきっちりとやればよろしいのでは?」


 ここで沈黙を保っていたワークハードが口を開く。


「ユウキ陛下の容姿はともかく、王としての仕事は完璧を通り越して芸術の域です。一度関わった者は理解できるでしょうが、斬新かつ圧倒的な成果を叩き出す陛下に対してベアトリクス様は崇拝の念を抱いています」


「あ~、なるほど」


 クロスも相槌を打つ。


「確かにユウキは見た目に騙されるととんでもないことになるからね。ユウキと出会った当初アイラやキッカはユウキを利用するだけした後は捨てるつもりだったらしいけど、今はご覧のあり様だし」


 ルール将軍もそれに納得したように。


「ふむ、言われてみれば。何故ヴィヴィアン様がどこにでもいそうな顔の陛下にそこまで心酔するのか疑問に感じていたが、陛下の深謀遠慮ぶりをみて頷かざるを得ませんでしたな」


「……なあ、それは褒めているのか?」


 普段から気にしていることをズバズバと。


 言っておくけど俺のライフはゼロに近いよ?


「ゆえに、ルール将軍はまず仕事に対してもっと積極的に取り組めばよろしいのではないかな? そうすれば将軍の活躍ぶりに惚れ込む女子などいくらでも現れよう」


「そうか! うん、その通りであろうな!」


 傷心中の俺を放っておいてワークハードがそう締め括るとルール将軍の顔がパッと華やぐ。


「今日は夜遅くまで拙者に付き合って頂き誠にかたじけない。おかげで道が見えたように思われる」


 どうやらいつものルール将軍が戻ってきたようだ。


 俺としては言いたいことがたくさんあったが、ここはルール将軍が復活したことを喜ぼう。


「それでは、また明日からの働きに期待しているぞ」


 この俺の言葉でこの場は散会となった。




 後日


「……ミレーユから『私と仕事のどっちを取るの!』と怒られたがどうすれば良いんだ?」


 知らねえよ。


「聞けばユウキ陛下は18人もの女性と関係を持っているにも拘らず良好だと聞いている。その円満の秘訣をご教授いただきたい」


 新しく出来た恋人とどう接して良いのか分からず、その悩みを聞く俺とクロス、そしてワークハードの3人がいた。

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