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聖女の仕事は女神様を楽しませることです ~聖女の日記は女神の娯楽!~

作者: 猫石
掲載日:2026/05/06

色々とありまして、本編出なく申し訳ありません。

猫石がたまにお届けする、ストレス発散を目的とした、勢いだけの短編です!

ゆる! ふわ! とお楽しみください!



そして 2026年5月8日は ブシロードワークス様より

「目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。」

コミカライズコミックス 3巻 

小説(戦士専売 後半はほぼ書下ろしでweb版とは話が変わります) 3巻

発売します!


また、夢中文庫様より

訳アリ王子を押しつけられたので矯正施設ブートキャンプで鍛え直します!~辺境の完璧令嬢は一途な初恋に気づかない~(電子専売)

発売中です! こちらもどうぞよろしくお願いします!

「えっと…… 今日は、今日は~……なにがあったかなぁ……」


 私は今日も頭を抱えて悩んでいた。


 私の横では、神父様と身の回りの世話をしてくれる女性も頭を抱えている。


 わたしたちはかれこれ二時間ほど、額を突き合わせ悩んでいるのだ。


 だって、だって……。


「あ~~~! どうしよう! 日記! 女神様の日記! もうネタがないよぉ! 明日も女神の加護、50%止まりだよぉ!」



 ***


 時は1ヶ月ほど前に遡る。


「君こそ聖女だ! おめでとう!!」


「……はぁ?」


 顔面どころか毛根が多分全体的に儚くなって後光が差しているようにさえ見える頭のてっぺんまで興奮で紅潮させた神父様が私の目の前で号泣しながらそう叫んだことで、私の人生は変わった。


 そもそも、タイリクノサイハテという場所にあるらしい私の暮らすカソチ村に神父様が訪れるのは年に一回、全知全能の女神様がこの世界に降り立った祝祭日のあたりで一日だけ。


 この世界に生まれた者は、十五歳になった時に女神様から成人になったことお祝いにと気まぐれに様々な【祝福】を授かる。のだが、それが何なのか自分でもわからないことが多いため(本当に気まぐれらしい)神父様がありがたい道具を使ってその【祝福】が何なのか検査をしに来るのだ。ちなみにこの神父様は、大陸の中央にあるテイコク? にある女神様のソウホンザン? というところから派遣されるらしい。


 そしてどうやら私・チェトナは女神様のお姿を見、お声を聴き、ご加護を直接受け取って神父様たちに分け与えることが出来る【聖女】というスキルをもらってしまったらしい。


 村のみんなもその意味がよくわからないまま、けれど私は神父様と共にテイコクに行くことになった。


 皆はそのうち帰ってくるだろ? え? 帰ってこれないの? なんで? みたいな感じだし、正直私もそう! だけどこれはテイコクにいる偉い人が決めた法律とのことで、私は泣く泣く両親と別れることになった。


 ……泣く泣く? いや、そうでもない。


 私が聖女に選ばれたとわかった時、神父様についてきた馭者と言う人が、父さんと母さんにはもちろん、村の人たちや長老様に対し、このカソチ村自体が【聖女生誕の土地】としてこれから先……少なくとも私が生きて聖女をしている間はカンコウチ? ジュンレイチ? というものになるため、そこからお金ががっぽがっぽと入ってみんなの生活は上向くだろうと説明して聞かせたからだ。


 そりゃ皆沸き立つでしょ? 物々交換が基本でたまに見るお金に一喜一憂するくらいの村にお金がざっくざくと入るとわかれば……でもそこ、神父様は止めてるのに馭者って人が説明する必要ある?


 ゾクブツにもほどがある。ゾクブツが何だか知らないけれど。


「お嫁に行ったと思えばいいものね! 頑張ってセイジョ様ってやつをしてきなさいね! この親孝行娘! これは選別!」


 そう言いながら、私の大好きな、けど自分たちも大好きで、だからこそ私に食べられないように納屋にこっそり隠していたらしい乾燥果物をたっぷり詰め込んだ瓶を荷物と一緒に渡してくれた両親に私は口角を上げる。


「ありがとう、母さん」


 明るく送り出してくれようとしている父さんと母さんの赤くなった目に気が付かないふりをして私は渡された荷物を両腕に抱えると、神父様が乗ってきたとでっかい馬車に乗せられた。


 あ。なぜか馬車に乗る前に、いつもは鬼のような形相でカソチ村をとりしきる代官様が連れてきた数人の女の人によって井戸水で全身洗われ、見たこともない綺麗な服を着せてもらえたのは、恥ずかしかったけど嬉しかった。


「村の威厳が」とかなんとか言ってたけど正直解らない。ただあんまりにも綺麗な服だから、本当にお嫁に行くみたいだなぁって思った。


 そんなこんなで生まれて初めての馬車に乗り、テイコクへ向かうその道中。神父様は最初に旅でびっくりしないようにといろいろな話をしてくれた。


 初めて見た地図と言うでっかい絵が描かれた布切れを指さしてテイコクとカソチ村の場所を教えてくれその道のりを教えてくれた。私が生まれ育ったカソチ村は大陸の本当に隅のはじっこにあり、ここから帝国に行くためには高い山と深い谷を三つ超え、さらにそれらの真ん中にある運河というでっかい川と、それを渡るための巨大な船に乗る必要があるらしい。


 地図を見てもよくわからない。知れば知るほどおかしなことばかりの世界。


 だが聞いておいてよかったと思ったのはすぐの事。


 いざその場所にたどり着くと、私は驚くしかなかったけど、悲鳴を上げることはなかったから。


 いや、驚いたのなんのって。馬車の速さで大人の言っていた徒歩で二か月の意味を知り、運河というものがただの川ではなく本当に途方もなく見渡すばかりの水だらけのもので、そこを渡るには馬車も載っちゃう大きな船の乗るしか方法がないこと、高い山と低い谷があり、そこは気候も天気も変わりやすく、そのため、そういう場所で暮らす人たちは、住むおうちや服装、何ならお顔の作りも変わること


 そして疑問に思う。


 神父様は【祝福】の鑑定のためにわざわざ旅までする必要あるの?


 そもそもその村に十五歳の子どもが本当にいるかなんか、はるか遠いテイコクからではわからないのになんでわざわざでむくのか。それって無駄足にならないの? ときいてみた。


 すると神父様は、私が聖女になるのだから知らなければいけない知識として、神父様たちセイショクシャと言われる仕事の方々が集まるそのソウホンザン? とやらには、十五になる子がどこにいるかわかるように「女神様のコセキ」というものがあるらしい。


 コセキ? ナニソレオイシイノ?


 そう聞いたら、おいおい知っていけばいいと言われたけれど、ともかく、女神様はここに十五歳の子がいるから行ってらっしゃ~いと送り出すらしい。


 じゃあこのスキル持ってるよ、と教えてくれればいいのに、と言えば、バラまいているようなものだから誰に何を上げたかなんか女神様はわからないそうで(コセキはわかるのに?)


 じゃあ来年再来年も十五歳になる子がいるけど、そのたびにあんな大陸の隅っこにあるカソチ村まで派遣されるなんて、神父様は大変で可哀想ですね? テイコクまで徒歩二ヶ月はかかるんですよね? しかも途中、魔物とかも出ますよね? 大人がよく家畜が食べられた、旅人が襲われたと嘆いてましたとその大変さを心配すれば、神父様は笑って「意外とそうでもないのですよ」と教えてくれた。


 まず、彼らの旅は大きな馬車で行われる。それには、神父様と聖女様が見つかった場合に身の回りの世話をする傍仕えの神父見習いが男女一人ずつ、そして馬車を操る馭者が乗っているのだが、この馬車には女神様の祝福がかけられているらしい。


 おかげで道中はとても安全かつ穏やかに、病気や事故に悩むことも、野盗や魔物に襲われる心配も、馬が疲れて休憩なんてこともないらしい。不眠不休で移動すれば10日から15日程度でカソチ村には着くそうだが、そこは女神の祝福を鑑定するための巡礼中であるため、カソチ村だけでなく教会のない村や町に立ち寄らなければならない。


 それに神父様や従者の方、お馬さんもご加護があるとはいえただの生き物だ。無理な移動は絶対にしない。旅行日程はあらかじめ決められていて、途中で休憩や物資補給に立ち寄る街、宿泊する宿も決まっていて、その土地の文化を見聞という名目で美味しいものを食べたり観光することも旅の目的に含まれているらしい。そのため志願する神父様が大変に多いのだとか。


「ちなみに王都に残って子どものスキル検査をするのが一番人気がないんです」


「なんでですか? 移動しなくていいんですよね?」


「……多いんですよ! 人数が!!」


 神父様は涙目になって私に言います。


「王都は! そして教会があるような町は! 子どもが多いんです! いえ、子どもは宝。多いに越したことはありません。ですが! 来るんですよ! 次から次にひっきりなし! しかもそういう儀式があることを知らない子供もいるものですから、儀式に来ない子が必然的にいるわけで! そういう時はどうすると思います?」


「まぁ、いろんな事情がある子もいるでしょうから当然ですよね? どうするんですか?」


「探すのです、最後の一人が見つかるまで!」


 真っ青な顔の神父様は、天を仰いで悲鳴を上げます。


「一人も取りこぼすことは許されないのです! ですから女神様のお力を使いながら探すのです! えぇ、それはもう! 文字通り草の根をかき分けてね! 一日で終わると思います? 無理無理! そんなの無理に決まってます! なのにくじ引きで負けた時の絶望! どんなものかあなたにわかりますか? しかもなぜだか私は昨年まで七年もの間連続で王都係になってしまい、その苦労から毛根の加護が尽きてしまいました!」


「ソ、ソレハ大変デスネ……」


 血走る目をひん剥いて、天を仰いで捲し立てる神父様を可哀想な目で見てしまったのはしょうがないですが、神父様はさらに私に自問自答のような言葉を吐きながら迫ってきます。


「それに比べてどうです⁉ 辺境までの女神の巡業は! 特別仕様の快適な馬車で往復二か月の修行の旅とは建前! もう最高です! 女神様のご加護のおかげで馬は疲れ知らず。 そして子どもは多くても1人から5人程度。途中少し大きな町でも10人いるかいないかです。一時間もあればそれを終えることが出来ますから、あとは美味しいものを堪能したり、普段見られない絶景を見られます。さらに皆から注がれる憧れと尊敬のまなざし! そして今回は聖女を連れ帰る栄誉まで受けることになりました! これ、特別臨時賞与が出るんですよ⁉ もう、本当に最高です! 私はこれからも教会がない辺境の村の子どもを数日かけて見て回る旅を続けたい! あぁ、そうそう。大切なことを言い忘れましたが、来年の巡業までは私が聖女チェトナの教育係になります。ぜひ仲良くしましょう。まずは読み書きと、それから王都の美味しいもの巡りですね! 腕が鳴ります! チェトナ様は何がお好きですか? 甘いものは? 肉派ですか? 魚派ですか? いや、楽しみですね! あ! あなたの急務はまず、読み書きの勉強です! 大丈夫、読み書きができればいろいろ楽しいことも増えます! これはスパルタで教えますが、他はうんと甘やかして差し上げますので楽しんで頑張りましょう!」


 ものすごく早口でいろいろしゃべった神父様が、おでこの汗を拭きとった後、まるで本当に後光がさしちゃうようなものすごく優しい笑顔を浮かべて、私の両手を柔らかくてフワフワの手でぎゅっと握ってくださった。


「あぁ、ハイ、タノシミデス、ガンバリマス」


 神父様モ、両親二違ワズ、ズイブンゾクブツダナ~


 なんて思いながらにっこり笑った私は、馬車での移動中は読み書きの猛勉強を、街に入れば美味しいものを食べ、いろんなものを見、お風呂に入っては磨かれ(まず泡立たずにびっくりして、泡が灰色になったことにさらにびっくりして、それから、これまで赤茶色の髪だと思っていた自分の髪がキラキラのストロベリーブロンドで、浅黒いと思っていた肌が象牙色と言われる色だと知った時にはびっくりした。私ものすごく汚れてたんだ)寝る前には読み書きの復習をし、ほどほどの時間になれば、一人の部屋を与えられ、ふかふかのベッドで眠ると言うお姫様のような旅を続け。


 素敵な馬車の旅32日目。


 私は、帝国に入ったのだった。


 ***


「おぉ! 聖女チェトナよ、よく参った!」


 まっしろででっかい谷から見た山のような建物の中に馬車ごと入った私は、二つの門と言われる玄関をくぐり、真っ白な神殿と呼ばれる建物の前で馬車を降りた。


 そ個で一度神父様と別れた後、ずっと一緒にいてくれた神職見習いの女性に連れられて、見たこともない目が潰れんばかりの綺麗なお部屋に連れていかれ、お風呂に入れられ、とっても動きにくい服を着させられた。そして彼女の案内でものすごい広くて、あちこちからいろんな色の光がさんさんと降り注ぐ目にあまり優しくない部屋に連れていかれると、たくさんの人がいる中、一緒に帰ってきた神父様に連れられて高~いところに立つ偉そうなおじいちゃんの前に立たされた。


「ルイ様、誰あれ?」


 私をここに連れてきた神父様――ここにはたくさん神父様がいるから、これからはルイ様と呼ぶようにと言われた――に私が聞けば、ルイ様は困ったように眉毛を下げ、てかてかのおでこの汗を拭いた。


「こらこら、道中ちゃんと教えただろう? あの方がこの総本山、いや、この帝国で最も神に近いお方、エンヴェゾー教皇様だ」


「名前難しすぎて覚えられない……その点神父様はお名前覚えやすくてよかった! ルイ様」


「それはよかった。ほら、頭を下げて。ありがたいお言葉があるから」


「はぁい」


 何やらエン……何とか教皇様がありがたい経典のお話をされているのを頭を下げて聞くふりをしながらぼそぼそと会話していると、足音が聞こえ、教皇様が階段を下りてきた。


 いち、に、さん、し……じゅうよん、じゅうご、じゅうろく、じゅうなな……いや、多いな!?


 と思いながら足音を聞いていると、それがやみ、目の前に白に金に銀に青に赤にもう、色とりどりの石と意匠の凝らされた靴を履いた足が止まった。


「聖女チェトナ。確かにそなたは「聖女」のスキルを授かった。しかし我々は貴殿が真に聖女であると証明する必要がある。これより貴殿は聖女のみ入ることを許された女神様との謁見の間へ進んでほしい。女神様の声に耳を傾ける儀式に向かうのだ。さぁ、こちらへ」


 立ち上がって、教皇様の手を取って、一緒に進んで! と言われ、言われたように教皇様の手を取ってそのまま階段を上り(三十一段あった)、教皇様が座っていたとんでもなくでっかい椅子の後ろにある、たくさんの布に隠された先にある扉の前に立つ。中には一人で入ること、中に入ったらやることを教えられた私は、去っていく教皇様を見送ってから、一人で扉に手をかけ中に入った。


「うわ、まっしろ! せま!」


 そこは、実家の家よりちょっと広いくらいの小さな祭壇のみが置かれた部屋で、こんなでっかい建物なのになぁと思いながら、部屋に入る前にルイ様と教皇様に言われた通りに祭壇の前に膝をついて頭を下げて手を組んだ。


「え~っと……それから、聖女の祈りを暗唱、だっけ?」


 何回か噛みながらもルイ様に教わった通りの「聖女の祈り」を暗唱し終えると、私の目の前に誰かが立っているような気がして顔を上げた。


「はぁい、チェトナね!」


「は、はい……あの、どなたですか? あ、私以外の聖女様ですか?」


 目の前に立つのは、道中に見た美しい湖のような透き通ったエメラルドグリーンの瞳に空から降り注ぐ光を髪にしたような光輝く淡い金色の髪の同じ年頃の女の子で、綺麗だな~と思いながらそう言うと、彼女はコロコロと、私から見ても「わ! 可愛い!」と思えるくらい可愛い笑顔で首を横に振って私の手を取った。


「違う違う。聖女はたった一人貴方だけ。そしてわたくしは女神ベリーメアリよ」


「……へ?」


「うふふ、信じられないわよね? だけどね、本当なの」


「えぇ!? でも、女神像ってもっと大人の……」


「あぁ、それね。一生懸命頑張って変身したの。だって、この姿で現れても信じてもらえなかったんだもの。悲しいけど、やっぱり子供の姿って信用度が違うのよね」


「……そう、ですか??」


「そうみたいよ?」


 一瞬悲しいわ、という顔をした自称女神様に、私は首をかしげる。


「そ、それで、私はこれからどうしたらいいんですか? 女神様、何ですよね?」


「やだやだ、女神様って呼ばないで。メアリ、とか、ベリーちゃんとか呼んで?」


「え? それって駄目なんじゃ」


「二人っきりの時ならいいのよ。私、お兄様やお姉様はいっぱいいるけど、私と同じくらいの妹や弟、それにお友達もいないの! だからお友達になれるかなって、神託を受けるのを女の子にして、年も十五歳にしたの? ね、お願い。これまでの聖女にもそうお願いしたのよ?」


 女神様、ボッチか……それで聖女の年齢決めるとか必至だな、と思いながら頷く。


「えぇ……じゃぁ、はい、じゃあ、メアリ様……メアリちゃん? 私は、何をすればいいんですか? 教皇様には、女神……メアリちゃんの声を聴いて来いって言われたんですけど?」


 顔色をうかがって呼び直すと、今にも泣きだしそうな顔から一瞬にしてキラキラの笑顔になった女神様――メアリちゃんは、そうそう、それね、と嬉しそうに笑った。


「はい、チェトナ。これあげる」


「これ?」


 私の手を離した自称女神様は、どこかに手を突っ込むと、何かを取り出して私の両手の上に置いた。


 それは、ルイ様に読み書きを習う時に使った教会の経典と同じ硬い表紙に真っ白の髪がたくさん挟まった本のようなものと、ルイ様が買ってくれたものとは違う、つららのように透き通ったような軸の、明らかに高そうなペンだ。


「……え? え~っと……女神様、これは?」


 ただただ手の上に乗せられたものに困惑する私にご機嫌な女神様は言った。


「これは、女神の日記帳ね。今日からチェトナには、毎日日記を書いて私に捧げてもらいます!」


「……日記?」


「あ、日記知らない? 日記ってね、その日にあった出来事や感じたこと、考えたことなんかを書き留めておくノートのことね?」


「……えぇと、なぜそれを……?」


 日記を抱えたまま首をかしげるしかない私に、女神様改めメアリちゃんは、これでもか! って笑顔を向けてくる。


「あのね? 私ね? ず~っとず~っと。もうほんとうにむかしからず~~~~~っと仕事しているのね? お仕事ばっかり! それなのに神様の世界には楽しめることがないの。おもちゃも本も何にもないの、仕事ばかりの生活って本当に毎日つまらないの。」


「……は、はぁ……?」


「毎日毎日あなたたちに加護を与えるために祈ってはそれを一番偉い神様であるお父様に報告書を書いて提出する日々! 本当に飽き飽きしていたの。そんなときによ? そうね、いまから十五代前くらいの聖女が、あなたたちの国には物語とか、遊技盤とかあるって教えてくれて献上してくれたの。とっても楽しくて面白かったから全部ぜ~んぶ読んだし遊んだんだけど、最近はちょっとマンネリでね? 遊技盤も飽きちゃったし。そんな時、十一代前の聖女が新しい流行りものなんですって、随筆? 旅行記? そんなものを献上してくれてね。読んでみたらとっても楽しかったの。知らない土地に行ったり、おいしいものを食べたりする疑似体験? をした気持ちになれて、お仕事も頑張れたわ! でも私は天界からはなかなか降りられないし、降りてもいいのはここかあなたの部屋の礼拝堂のみって決められててね、実際に体験することはできない。でももっといろんな体験はしたい。で、考えたの。聖女たちが毎日感じてることを私に教えてくれたら楽しいんじゃないかって。だからチェトナにも日記を書いてほしいの」


「あ、あの……それは、でも私にはとても恥ずかしい話なのでは?」


「そうね。だからもちろんご褒美も考えてあるわ! もしチェトナが日記で私をすごく楽しませてくれたら、次の日の聖女パワーは倍! 逆に面白くなかったときには次の日の聖女パワーは半分。ね、これならうんと頑張れるでしょう??」


「……え? は? あの?」


「日記はもちろんこれに書いてね、私は朝が早いから、夜十時までには必ず書くのよ? 美味しいものを食べた時は、何が入っていたかどんな味だったかわかりやすくね! 次の日の朝の礼拝でその日の聖女パワーをどれだけ上げるか伝えるわ! い~い? 神たる私の力を貸してあげるのだから、聖女は私のお友達として、仕事でうんと頑張っている私を楽しませてくれなきゃダメなの。チェトナの日記、期待しているわ! じゃあ、よろしくね!」


「え? メアリちゃん⁉」


「頑張ってねぇ! あ、最高に面白いって思ったときは、特別ボーナスもあるからね!」


「……は? はぁ!?!?!?!? まって、まって! 私、文字覚えたばっかりなんですけど!」


「大丈夫大丈夫、最初は甘く判定するし、一番簡単な文字で書くだけでも平気だもの! 難しく考えなくて平気よ! じゃあね、チェトナ。期待しているわぁ~」


「え!? ええ!? ええぇぇぇぇ!!」


 ふわっと浮かび上がり、両手で手を振ってからふっと消えてしまったメアリちゃんに慌てて声をかけるが、そこにはもう何の痕跡もなく。だからと言ってあれは幻と疑うような気にならなかったのは、両手に手帳とペンが残ったままだったから。


 仕方がないのでそれを抱えたまま部屋を出た私を見た教皇様や神父様たちは、やはり聖女であったかと大変に喜んだのは言うまでもなく。こうして私の聖女としての日々は始まったのでした。


 のだけど、これがなかなか一筋縄ではいかなかったの!


 ***


「今日はどうですか? 聖女チェトナ」


 女神様への朝のお祈り、という名前の日記の採点と本日の聖女パワーの下賜を終え、私室の中に作られた礼拝の間を出た私を何とも言えぬ表情で迎えてくれたのは、朝ごはんを持ってきてくれたルイ様と神職見習いとして旅路を同行してくれ、そのまま私の身の回りのお世話をしてくれることになったクレアさん。


「……ごめんなさい、今日も50%です……」


「……Oh……」


 そんな二人に私が首を振ると、それぞれ額に目元にと手を当て天を仰ぐか俯くかしてため息を漏らす。


「本当にごめんなさい」


「あぁ、いいえ! 聖女チェトナが謝ることではないのですよ? 教皇様も仰っていましたが、どの文献を見ても聖女の力を100%もらえることの方が少なかったそうですから!」


「そうですわ! 二代前の聖女様など、0%の時もあったと言うではありませんか! 50%でも大したものです! 女神様からお力をいただけるのは聖女様だけなのですから! さぁさ、朝ごはんを食べましょう!」



 0%とはどういうことだと思いつつも、自分のたたき出した結果が非常に申し訳なくて深く頭を下げた私に、慌てて顔を上げ、頭を下げ、優しく私の事を慰めてくれ、持ってきたほかほかで暖かな朝ごはんの方に気を逸らしてくれる。


 女神様との対面から三週間。


 私は日記による女神様パワーの恩恵を受けるどころか毎日減らされていた。


 いや、最初の二週間は、女神様は100%の力がどれくらいか知ること、そして文章を書くことに慣れていない私に対してとても寛容に100%を下さっていたのだ。


 しかしそろそろ文章を書くことにも慣れてきただろうから、明日からは元気に通常モードで読ませてもらうわね! と言われてからというもの、毎日毎日「昨日の日記はつまらなかった」「これまでと同じ、ありきたりだったわ~」と50%の力しかもらえていないのだ。


 200%か 100%か 50%か。


 50%より減ることも、200%から増えることもなく、歴代の聖女様の文献を調べても200%をもらった人はわずかにしかいない、何なら50%の人がほとんどだったという事実に(いや、さっき0%って言ってたな、隠されてたのか? よほどつまらない日記だったのか?)、私も神父様たちも絶望したのが二週間前。


 ただしそれが「日記の内容」で決められていたとは誰も思っていなかったようで、なぜだろうと聞いたら、日記という私的な物を他者に見せるという事態が恥ずかしくて言えなかったのではないか、とのことだった。特に二代前の聖女様は帝国の公女様という存在だったから余計ではないか、とのことだ。


 そうだよね? 私、そもそも日記というもの自体知らなかったから、即行ルイ様に「日記って何書けばいいんですか⁉ それで聖女パワーが変わるらしいんです!」って相談したけど、知ってたら黙ってたと思う!


「聖女チェトナ。朝のお勤めが終わったら王立図書館に行ってみませんか?」


「図書館、ですか?」


 ルイ様の言葉に首をかしげると、紅茶を自らの手で注いでくださったルイ様は私に微笑んでくれる。


「えぇ。図書館とは数多くの本が収納されたいわば知識の泉のような場所。そこにある本を参考にしてみてはどうでしょうか?」


「な、なるほど! じゃあお願いします」


 それから、私は教会のすべての神職に携わる者が集まり行われる朝のお勤めである礼拝で女神様から賜った50%の女神の力をみなに分け与えると、教皇様に許可をいただいてルイ様、クレア様と共に図書館という場所に馬車で向かった。


「おおおぉぉぉ! 本が! いっぱい!」


 右を見ても左を見ても上を見ても本がぎっしり詰め込まれた図書館という場所にびっくりする私に、ルイ様はいつものように穏やかに笑う。


「聖女チェトナは読み書きを覚えたばかり。ですからまずは一番簡単な絵本を読んでみてはどうでしょうか? クレア、お願いしますよ? 私は司書殿に訊いて、よき文章の書き方なる本を探してまいります」


「かしこまりました、ルイ様。では聖女チェトナ様、あちらですのでまいりましょう?」


 クレア様に付き添ってもらって絵本? の場所に向かった私は、たくさんある薄くて絵がたくさん描かれている本を読んだ。


「こういう風に書けばいいのかな?」


「そうですね。絵本は言葉が少なくてもわかりやすく書かれていますから、真似てみるのはいいかもしれませんね」


「じゃあそうする」


 うんうんとうなずき、十冊ほど絵本を借りて帰ってそれを黒板に何度も書き写して勉強し、それから今日の日記を書く。


「う~ん、ここを、もっと倒置法を用いて印象深くするとよいようです。あぁ、それからこちらは比喩を使うと良いそうです」


「えぇと、こんな感じですか?」


「あぁ、いいですね。いいと思います。」


 ====


 □月 ▲日


 おどろきをきんじません! あんなにもおおくの本がこの世界にあるなんて!

 きょう、わたしはルイさま、クレアさまとともに としょかん というなの ちしきのいずみ をおとずれたのです。


 そこはまるで ひとが ありのぎょうれつのように、れつをなしいきかいしていて

 カソチむら では けしてみることのない、テイコクのエイガを しょうちょうする いちまいのかいがのようでした


 また、おひるは やたい というもので おいしいしょくじをいただきました。

 そらのしたでいただくしょくじは、まるで めがみさまからたまわったみぐみのあじだとおもわれ

 おなかもこころも、こうふく という ひかり で みたされました。


 ====


 三人で突き合わせた額が離れたのは、タイムリミットの夜10時まであと一時間というところ。


「あぁ、素晴らしい! これなら女神様もお喜びになられるのではないでしょうか!」


 私には到底読めない本を片手に満足そうなルイ様と。


「ほんとうに? クレア様もそう思う?」


「えぇ、はい! 女神様を称える言葉に知識の泉、などの知的な表現。お喜びになられると思いますわ!」


 絵本を一緒に読みながら、難しいと思った時には文字のつづりや相応しい? 言葉を考えてくれるクレア様。


「そっか……そっか! じゃあ夜のお祈りの時に捧げてみるね!」


 二人の満足げな顔に自信が付いた私は、ルイ様とクレア様にお礼を言うと、すっかり冷めてしまった夕食を食べ、ささっと湯あみを済ませていつものように礼拝室で日記を祭壇に置き祈りを捧げた。



 ***


「今日もダメでしたか……」


 ルイ様の顔は落胆の色が隠せていない。


「あれだけ頑張られたのに、女神様はもしかして……いえ、申し訳ございません」


 私ももしかしたら……と思っている疑念を押しとどめて頭を下げてくれたクレア様のお顔は陰りが見える。


 二人は、私のお世話の外にも仕事があって忙しいことを最近知った。けれどそれでも出来る限り私の傍にいてくれ、物覚えも悪く何度も同じことを聞いてしまう私の傍で決して私を責めることなく一緒に考え、悩んでくださるのに本当に申し訳ない限りなのだが。


 帝国に来てからはや一ヶ月。


 ここでの生活にも慣れてきて、いちいち驚いていたものも目新しくなくなり、申し訳なさから食事の味も最近ではあまりおいしく感じないと感じる日々。


 そんな中、午前午後2時間ずつの自由時間以外は、毎日決まった時間に三度礼拝をし、掃除などの奉仕作業を行い、聖女しかできない仕事の一つである帝国を魔物から守るための結界を強化するお祈りと、同じことを繰り返す代わり映えのしない生活の中で、次第に私も書くこともなくなってきていた。


 自分の力不足に落胆しつつ、今日もいつもの通り朝の礼拝を終えて部屋に戻るところで、ひそひそと聞こえる声に足を止めると、柱の陰で若い神職の方がひそひそと話をしているのが聞こえ、私はとっさに姿を隠した。


「聖女チェトナはだめだな」


「おい、こんなところでそんなこと言うなよ」


「いや、大丈夫だよ。みんなそう思ってるだろ? あんな世界の果てから来たような田舎娘が聖女だってのもおかしいんだ。読み書きも出来ない癖に日記で聖女の加護が変わるとか嘘言って、皆の気を引きたいんだろうけどさ、加護を増やしてもらえないなら役立たずも同然だろう? 世話係を任されたルイ神父もクレア嬢も迷惑だろうよ。あの二人はもともとは貴族の出だってのに、あんな文字の読み書きも出来なかった田舎娘に付き添って文字の勉強からしてやってるんだからさ。あ~あ、なんで聖女は時代に一人なのかねぇ。何人かいれば、役立たずは追い出せるのに」


「おい! 言いすぎだぞ。そもそも女神の加護を受けられるのは聖女様だけ、その力をお借りして俺たちは奇跡を起こせているんだぞ?」


「でも50%じゃねぇ~。女神様も田舎娘にはこれくらいでいいだろう、くらいにしか思っていないんじゃないか? 聖女には何で引退制度がないんだろうねぇ」


 その内容に、涙が溢れる。


 どうやら私は役立たずだと皆に思われているのだと知って。


 ここにいてはいけない人間だと知って。


「聖女チェトナ! 大丈夫でございますか!」


 それ以上何も聞きたくなくて、けれど逃げることも出来なくて、耳をふさぎ、しゃがみこんでしまった私の肩に温かいものが触れた次の瞬間、ここにきてずっと聞いていたとても優しい人の、効いたこともないような厳しい声が建物の中に、まるで雷のように轟いた。


「今の言葉を聞いたぞ! 聖女様に向かって不敬だ!」


「やべぇ! ルイ神父だ! 聖女もいたのか!」


「見、見逃してください、みんな思っていることでは……」


「みんなとは誰だ! 言ってみろ! そして見逃すはずがない! これだけの人間が聞いていたのだ! 今の言葉撤回は出来ぬ! 聖女チェトナはその勤めをちゃんと果たしている、歴代の聖女と変わりはない! このことは教皇閣下にご報告申し上げる!」


「ひ、ひぃぃぃ!」


「クレア嬢、聖女チェトナを頼むよ。私は教皇様に面会を申し出る」


「かしこまりました。さ、チェトナ様。お部屋に戻りましょう?」


 耳の奥で恐ろしい言葉が繰り返され、優しく私を支えてくれる人の声も酷く遠く聞こえる。聞きたくない、けれど私はそれを聞かずにはおれなかった。


「クレア様。私はここにいてはいけないの? 私は駄目な聖女なの?」


「いいえ! いいえそんなことはありません! チェトナ様は立派に聖女の務めを果たしていらっしゃいます! 先ほどの愚かな言葉など聞く必要はございません! さ、お部屋に戻りましょう。今日は礼拝以外はお休みなさってください。すぐに暖かい飲み物をご用意いたします」


 クレアに連れられて部屋に戻る間にも、先ほどの言葉がうわんうわんと頭の中でこだまする。


 震える私に温かい飲み物を用意してくれたクレア様はずっとそばにいてくださったが、ルイ様に呼ばれて出て行ってしまい、私は部屋に一人になった。


「私は、聖女じゃないの? だから、ずっと、ずっと50%しか力をもらえないの……私が駄目な聖女だから?」


 思い返せば、涙はぼろぼろと溢れて止まらない。


 聖女でないのであれば、ここを出なくてはならない。


 けれど、もうカソチ村には帰れない。


 カソチ村はあの後すぐに【聖女生誕の地】として観光業を始め、すぐに観光客というものが押し寄せ、収入が増えて村の皆の生活は上向いていると聞いている。


 そんなところに聖女でなくなった私が帰れば、村にはお金が入らなくなり、生活はまた貧しくなってしまう。


 そんなことをすれば、責められるのはきっと父さんと母さんだ。ゾクブツだと思うようにしていた両親。けれど本当はちゃんとわかってる。聖女とわかる直前まで、私の事を宝物だと抱きしめてくれた大切な両親。お嫁に出すようだと泣くのをこらえて言ってくれた父さんと母さん。あの場ではあぁするしかなかったのだ。


 本当は、毎晩夜になると会いたいと思っていた。


 しかし会いに行けば聖女帰還と騒ぎになり、聖女を辞めれば席底内の聖女の親だとさらに責められることになり迷惑がかかる。どちらにしても、もう二度と会えない、迷惑をかけられない。


 ですが、出来損ないの聖女と言われた以上ここにいることも苦しい。


 けれどいなくなれば、聖女がいなくなり次の聖女が生まれるまで女神の加護が受けられなくなり皆に迷惑がかかる。


 それに。


 ここに聖女チェトナがいてくれれば、見つけた私は教育係として仕事も楽が出来るし美味しいものも食べ放題! これは役得ですよ! と笑いながら、いろんなことを教えてくれ、いろんな場所に連れて行ってくれたルイ様や、一か月の旅の中で私が一人寂しくないようにといつもそばにいてくれ、ここに来てからもそれは変わらず、さらに日記を書く以上に必要だったマナーや偉い人に対する言葉遣いを教えてくれ、日々を支えてくれたクレア様。優しい二人に迷惑がかかってしまうのだ。


 どうしよう?


 どうすればいい?


 良い考えが浮かばぬまま、ふらふらと立ち上がった私は、これ以上二人に迷惑が掛からないよう、扉の鍵を閉めた。


 しばらくして戻ってきた二人から、扉を開けてほしい、聖女チェトナは何も悪くないと何度も声をかけられましたが、少しだけ一人にしてほしいと伝えると、二人とも待っているからと言って静かに了承してくれた。


 静かになった部屋の中。


 日暮れと共に暗くなる部屋の中。


 たくさん考えた。


 たくさんたくさん、聖女としての自分と、その籠を受けることについて考えた。


 気が付けば約束の十時を過ぎてしまい、慌てて日記を開いたけれど、ただの一文字も書けずペンを置いた。


 どうしたらいいだろう。


 ため息をついた私は、なぜだか日記を一度閉じると、改めて表紙を開いていた。


 どうしてそうしたのかわからないけれど、私は自分の書いた日記を読み直していた。


 日記にはたくさんの言葉が書いてあって。


 ルイ様とクレア様、三人で額を突き合わせながら、いろいろなものを食べ、いろいろなものを見、また額を突き合わせて日記を書いた。そんなことを思い出す。


 一枚一枚、丁寧に、聖女としてここにやってきた一か月を、そしてその前に逢った両親との生活を振り返りながら。


 それでも。何の解決方法を見いだせないまま顔を上げた私は、窓の外に朝日が昇り始めたことに気が付いた。


 思わず日記を放り出し、赤く染まった窓辺に立つ。


「……綺麗」


 王都の街並みを照らしているはずの朝焼けは、父母が暮らすあの辺境と同じ朝日と同じで。


 あまりにも綺麗で、悲しくて、寂しくて、けれど同じように明るくて暖かくて。


 窓辺から離れた私は、テーブルの上に置かれたままのクレア様の入れてくれたのに冷たくなった飲み物を飲み干すと、放り出した日記帳を開くとペンを取って走らせた。


 書いている最中は、なぜだかたくさん涙が溢れてしまい、書いた傍からインクは滲んでしまったけれど、一晩中考えたこと、朝日をみて思ったことをちゃんと書ききることが出来た。


「うん、よし」


 それを抱きしめて礼拝の間に入る。


「メアリちゃん、昨日の日記を届けに来ました」


 そう言った後、眠気と空腹でそのまま床に倒れてしまった。指一本動かなかったけれど、耳元で聞こえた大きな声に、私はほっとして目を閉じた。



「ん……うぅ……うえぇぇぇえん! 合格! 合格よ! こんなの、今まで感じたことがないわ! チェトナ、あなたは天才よ! 女神を泣かせるなんて本当に……今日は200%満点! もう、さらにご褒美まであげちゃうんだからぁ!」






 ***


「今日の日記も百点満点! 張り切って200%の聖女パワーを授けちゃうわ! よ~し、誰にも文句を言わせないように、聖女のお仕事頑張ってきなさい!」


「え? ほんとうに?? どこが? どこがよかった??」


「そうね。人は沈むのに、なぜ船は浮くのかって考えたんでしょう? 私の加護の力じゃないかとか? その視点は面白いわ!」


「だって本当に不思議だったんだよ? 人のまま、馬車のままでは沈むのに、船に乗ると運河を渡れるっておかしくない? 女神パワーで浮いてるんでしょ?」


「そんなわけないじゃない。 それは人の努力と研鑽のけっかなのよ。さ、もう時間よ。今晩も楽しみにしているわ!」


「うん! 今日はね、カソチ村から父さんと母さんが会いに来てくれるから、ルイ様とクレア様と五人で王都の食い倒れツアーに行くから大作になるよ!」


「それはいいわね! 楽しみにしてるわ!」


「うん、わかった! じゃあ、また明日ね!」


「えぇ、また明日ね!」



 そんなやりとりの後、私はルイ様、クレアさんと三人で大きな馬車に乗って宿屋に泊まっている父さんと母さんに会いに行った。


 そして、父さんと母さんが王都で仕事を得て暮らすことになったと知らされて悲鳴を上げることになる。


 そしてそれが実は、わたしを見送りながらほくそ笑んでいる女神様からのご褒美だったなんて全く知らずに。






 ====

 ▲月 〇日


 メアリちゃんへ


 きのうはにっきをかけなくてごめんなさい。


 わたしは、ここにいてはいけないにんげんなのかもしれないと、たくさんなやんでしまいました。


 けれど、わたしがいることで、めいわくをかけるひとがたくさんいるのです。


 わたしがメアリちゃんの かご をうけられないことで、めいわくをかけるひともいるのです。


 きっとわたしはできそこないです。


 でも、とうさんとかあさんは、わたしをたいせつにしてくれました。


 めいわくはかけたくありません。


 ルイしんぷさま と クレアさま は、わたしをいつもたいせつにしてくれています。


 いなくなったらごめいわくをかけてしまいますが、いまのままでもめいわくをかけています。


 れいじょう、めいわくをかけたくありません。


 いっぱいなやみました。


 いっぱい、じぶんがわるいのではないかとかんがえました。


 けれど、にっきをよみかえしておもいだしました。


 とうさんもかあさんも、なきたいのをがまんしておくりだしてくれました。


 ルイしんぷさまとクレアさんは、いつもわたしをまもってくれて、はげましてくれて、やさしくしてくれました。


 それをおもい出せたのは、あさひをみたときです。


 カソチむらとおんなじいろでした。おんなじきれいさでした。


 そしてそれは、とうさんやかあさん、ルイしんぷさまとくれあさん、よにんとおなじあたたかさでした。


 もうちょっとがんばろうって、おもえました。


 だからメアリちゃん。おねがいです。


 ちからをかしてください。みんながしあわせになれるように、ちからをかしてください。


 そのかわり、にっき、もっとちゃんとかけるようにがんばります。


 いっぱいべんきょうして、おもしろいねっていってもらえるようにがんばるので


 ちからをかしてください。


 チェトナより


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