6話 ファラウル潜入
墓作りが終わったのは、日が沈んですぐだった。仲間たちの遺体を炎で包み、灰にした。
火葬の熱が、俺の服を少し焦がしたけど、痛みは感じなかった。
ただ、胸の奥がずっと熱かった。ガルヴァが俺の横に座る。
「バーザール様……みんな、苦しみながら死にました」
「……そうだな」
俺は人間姿に戻る。遺灰を空から大地にまく。
作業が終わるとガルヴァの頭を撫でる。
「次は……ファラウルの王だ。あいつが命令を出した。そのせいで……」
ガルヴァの目が、少し揺れる。
「……わかりました。俺も、一緒に」
俺は頷く。
「まずは、近くのやつらの都市へ向かおう。人間とは言え、さっきの部隊よりは強いだろうからな。無闇に入らずにまずは潜入し、情報を取る」
遠くで、虫の声が鳴り響く。俺たちは、再び歩き出す。
まずは、ファラウルへの道を知りたい。どういけばいいんだ…?
〈軍の所持品の中には、必ず医類や食糧、そして地図が入っています。〉
ナイスだ、全知王。ということは、俺が昼に倒した前線基地の残留物の中にあるということか。
だが、俺は昼に火で全体を燃やしてしまったんだよな…残っているか心配だ。
〈軍は、貴重品を防御チェストにしまうことになってるようです。イージスボックスは、腐食以外の状態異常を無効にします。〉
そんな技術がこの世界にはあるのか。これは先が怖い。
〈その上、パスワードもあるため強奪は困難です。〉
でも取りに行かせているっていうことは何とかなるっていうことでいいか?
〈はい、私は解除可能です。〉
やはり心配はいらなかった。どうやら、基地の真ん中にあるダンボールのようなものがそれだったみたいだ。
俺はヘルメスに開けてもらい手に入れた地図を使い、歩いていく。
ファラウルの街は、北の森の向こうにあった。
俺は魔気の漏れを極力減らして人間の姿で街に入る。ガルヴァは外周の森で待機だ。これでもあいつは魔族だ。一緒に歩いていると俺まで疑われかねない。
街は活気がある。市場では商人たちが声を張り上げ、子供たちが走り回る。
でも、どこか空気が重い。
戦争をするかもしれないという不安が、みんなの顔に出ている。
俺はまず街の人に聞いて宿を取り、よくある酒場に入る。お酒は生前ですら飲めていなかったからな。楽しみだ。
薄暗い店内。
カウンターに座り、ビールを注文する。隣に、若い男が座る。
兵の制服であることは一目見てわかった。
20歳くらいだろうか。顔は疲れているが、目はまだ純粋だ。
「この街、初めてか?」
飲み始めて少しすると、男が話しかけてきた。
「ああ」
「観光? それとも仕事か?」
「どっちでもない」
「今どき珍しいな。俺はレオン。志願兵をやっている」
俺は短く答える。
「……バーザールだ」
レオンがビールを一口。
「この街、今ピリピリしているだろ。戦争の噂でみんな緊張しているのさ」
俺は黙って頷く。レオンが続ける。
「俺も入隊したばっかりで、『敵国』に対しての予想訓練ばっかりだよ」
俺はビールを飲みながら、軽く返す。
「大変そうだな」
レオンが肩をすくめる。
「まあ、志願したのは俺だからな。北のやつらが攻めてきたら、俺が守ろうって思って。自分のものは自分で守らないと」
俺は心の中で思う。
(志願兵か。この世界にはこんな正義感に駆られた奴もいるんだな……)
レオンが少し笑い、酔いながら長々と世間話をする。
「バーザールといると気が楽だな!いくらでも愚痴いえるぜ〜」
俺は聞いているだけでいいしあながち間違っていない。
俺はビールを一気に飲み干す。
「そうか?」俺は立ち上がる。
「それじゃあ、今日はこれで」
俺が帰ろうとすると、レオンが慌てて言う。
「待ってくれ!バーザールはまたここに来るか?」
俺は振り返らずに言う。
「さあ…?もしかしたら、来るかもな」
酒場の扉を通り、道へ出る。外はもう夜だ。ガルヴァの脳対話が届く。
「バーザール様、あの人間、使えそうですか?使えなさそうであれば早めに殺しておいたほ…」
「いや、あれは使えるかもしれない。まだ取っておこう」
俺は空を見上げ、ゆっくり宿へ歩き出す。嵐の前の何とやら、街は静かに眠っていた。




