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5話 復讐の初まり

 あれから2日がたった。ガルヴァは回復して、走り回れるくらいになった。


 さすが魔族だ。再生が早い。




 一昨日の襲撃から俺はドラゴンの姿になっていない。


 人間の姿のまま、森の奥深くで息を潜めている。


 ガルヴァも同じく、毛並みを低く伏せて影のように俺の隣を歩く。


 言葉はほとんど交わさない。


 ただ、時折、ガルヴァが俺の袖を軽く噛んで「大丈夫か?」と確認するだけだ。


 俺は足を止める。


「ガルヴァ」


「ええ、バーザール様。匂いが……」


 ガルヴァの鼻が、風上を向く。


 俺も、鼻を使って辺りの匂いを探る。


 焦げ臭い空気が薄れ、代わりに煙草と油の匂いが混じってくる。


 人間の生活臭だ。


「前線基地……近いですね」


「そうだな」


 俺たちはさらに慎重に進む。木々の間を抜けると、視界が開けた。


 丘の向こうに、敵の前線基地が広がっている。


 木と布で作られた簡素な基地。


 煙突から煙が上がり、兵士たちが行き交う。


 遠くに、魔法銃の訓練音が響く。


「ここから……潜りますか?」


 ガルヴァの目が、俺を見る。


「いや、何もわざわざそこまでする必要はない。今回の目的は2つ。一つは村のみんなの墓を作る。そしてもう一つが…」


「敵討ちとドラゴン復活を世に知らせること」


「そうだ。そのためにはドラゴンの姿の方がいいが…まあ、人の姿でいいだろう」


 そういうと、俺は背中と体の表面の偽装(ディスガイズ)だけを解除する。

 背中からドラゴンの羽が生え、服の下は全て鱗に覆われた。


 これで俺は空を飛べるようになった。これからは人間に変身した状態で過ごすから、少しでも慣れておかないとな。


 俺は羽を軽く羽ばたかせて浮上する。人間の体にドラゴンの翼が生えた姿は、奇妙だが便利だ。


 ガルヴァは地面から俺を見上げ、影のように丘を駆けぬける。基地はもう目の前だ。


 門番の兵士が俺たちを気づき、銃を構える。


「止まれ! 何者だ!」


 俺は無視して、羽を広げて基地の上空へ舞い上がる。


 人間の声で問いかける。


「見えただろうな。あの火柱が」


 兵士たちが一斉に俺を見上げる。その目には、少し前に見た火柱の光景が刻まれていた。


 迷彩服の男たちが慌てて魔法銃を構え、連射が始まる。対魔弾が俺の周りを飛び交う。


 人間姿の俺には当たるが、鱗で体が強化されているおかげで痛くない。


「何だあいつは…!魔銃を撃たれていても平然と飛ぶだと?!」


 基地全体がざわめく。


 兵士たちが門から飛び出し、陣形を組む。俺は手に火弾(ファイヤーボール)を形成し、あちこちに落としていく。


 ついでに中心には一際大きいものを落とす。


 次の瞬間、基地が赤い炎に包まれる。


 補給倉庫が爆発し、火が燃え盛る。


「撃て! 撃てぇ!」


 ファイヤーボールを回避した兵の連射が俺を狙う。


 俺は羽を翻して回避し、ディスガイズで手もドラゴンに変える。


 そして手を一振り。


 一閃で前線の兵士たちを薙ぎ払う。悲鳴が上がる。


 人間の体でドラゴンの力を使うのは奇妙だが、効果的だ。


 ガルヴァが基地の側面から突っ込み、影のように兵士の喉を裂く。


「ガルヴァ、あまり入り込むな!俺がやる」


 ガルヴァは低く唸って後退する。


 俺は人間の姿のまま、基地の中心へ降り立つ。


 周囲の兵士たちが銃を構える。


「貴様……ドラゴンか!?」


 リーダーが剣を抜く。俺は笑う。


「いいことを思いついた。立場がわからない馬鹿には一つアドバイスをやろう」


 俺は威圧を与えながら言う。


「言動、行動に気をつけろ」


 羽を広げ、空へ飛び立つ。ディスガイズを止め、ドラゴンへと戻る。


 たちまち、炎のブレスを放射状に吐く。基地全体が火の渦に包まれる。


 兵士たちが悲鳴を上げて逃げ惑うが、俺の翼の風で逃げ道を塞ぐ。


 魔法銃の弾が俺に集中する。その隙にガルヴァが猛攻を仕掛ける。尻尾で残りの兵士を吹き飛ばす。


「もっと援軍を呼べ! ドラゴンが……!」


 一人の兵が無線を握るが、ガルヴァが影から飛び出し、無線を噛み砕く。


「もう遅い」


 俺は最後のブレスを吐き、リーダーを焼き払う。


 基地は炎に包まれ、兵士たちは全員消え去った。


 1万人の兵に、生き残りはいない。


 全滅だ。俺は空に舞い上がり、勝利の雄叫びを上げる。


 ガルヴァが俺の後を追う。


「これで……敵討ちは終わったな」


 ガルヴァが低く唸る。


「でも……」


「そうだな。次は……星の国の王子様、だろ?」


 基地の煙が、空を黒く染め始める。国旗に星のマークが入っている国は、一つしかなかった。俺は、村の跡地へと飛び始めた。





 人間が、この日から3年間を後に「史上最悪の3年」と呼ぶとは知らずに。

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