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3-6

 あっという間に一週間が経った。


「今日で戦闘を断って七日目です」


 朝の集団療法(ミーティング)で俺は言った。


「昨日瓦礫の中から剃刀を見つけたときはヤバかったですけど、踏みとどまれました」


 いつものメンバーが真剣な眼差しで俺の話を聞いていた。


 マルゴ、パイロン、クレープ。ここに居るみんなは俺よりもっとずっと長い間、依存対象を断って頑張っていた。たった一週間しか耐えられてない俺なんてまだまだだ、そう思った。


 そして、


「ここで大暴れしたら面白いぞ」


 まさにこういうときに、アスタチンは話しかけてくるのだった。


 けれど俺は、それをかなり無視できるようになっていた。ちょっとずつだけど、自分で自分の病気が理解できるようになってきていて、俺は嬉しくなった。


「戦いたくなっても、筋トレや文字の練習をしてると落ち着くんです。マルゴやレイル先生の名前も書けるようになりました」


 戦闘力だけが強さじゃない。


 そう先生は言っていたし、たぶん、そうなんだと思う。鍛えれば鍛えるほど強くなるみたいに、文字を覚えれば覚えるほど、少しずつ頭が冴えていく気がした。


 アルファベットは全部覚えたし、最近は単語も少しずつ増えてきている。先生が言う「自己肯定感」ってやつも、正直まだよくわからない。でも、戦わずに一日を終えられたとき、胸の奥が少しだけ軽くなるのは確かだった。


 だから、俺は言う。「今日も一日戦いを避けようと思います」


 拍手が起こる。俺が座ると、今度はマルゴが手をあげる。


 先生に促されると、彼女は車椅子を押して前に出る。


「ボクは今日で百五十六日目です」


 今日のマルゴは灰色のワンピースに緑のリボンを身に着けていた。俺がサルベージし、洗濯した服だ。リボンを結ぶのも手伝ってやった。別に意識したわけじゃないけど、肩に乗ったガーモの色合いによくマッチしているように俺は思う。


「キミが言うことはボクにもよくわかる」

 マルゴは俺を向いて話し始める。

「ボクも、見るものすべてをギャンブルに結びつけてしまう癖があるんだ」


 彼女の紫色の瞳、紫色の髪に俺はドキリとする。


「選択肢が二つ以上あれば賭けたくなる、馬を見れば毛ヅヤを確認してしまう。あらゆる線が相場のロウソク足に見えてくる。だけど人と話している間はそうじゃない。意識がギャンブルに向かわないんだ」


 そうだ。


 と、俺は手のひらに小さく指でM・A・R・G・Oと綴る。俺だって、文字を習っている間は戦いのことを忘れていられた。ひとりでいるとどうしても要らぬことを考えてしまうけど、ふたりなら、みんなとなら、全然そんなことはなかった。


 マルゴが話し終えると、キュッ、と椅子を引く音がした。


「みんなありがとう」

 そう言って、レイル先生が立ち上がった。

「今日は頑張っているタンタルくんにお祝いがあります」


 先生は白衣のポケットから何かを取り出すと、つかつかと俺の前に歩いてくる。


「え? なんですか?」


 答えのかわりに、先生は椅子に座る俺の前にかがみこんだ。


 次の瞬間、首輪の上に、首輪じゃない何かの重みを感じた。


 先生が一歩離れると、


 俺の胸元で、木製のメダルが揺れていた。表面に動物のような絵が彫られているが、ざっくりしすぎてよくわからなくて、明らかに手作りだと思われた。


「これは一週間戦わなかった記念だよ」

 と、先生が言った。

「おめでとう!」


 皆が同時に拍手する。


「これからも一日一日を大切にね」


 そう言う先生のメガネの奥、金の瞳が潤んでいて、俺も泣きそうになった。ふわふわと宙に浮かぶような、胸のつかえが取れたような、晴れやかな気持ちでいっぱいになった。


 拍手はいつまでも鳴り止まなかった。


 この感じを壊したくない。一分一秒でも長引かせたい。


「ありがとうございます!」


 俺は言った。声が裏返り、ガーモの鳴き声みたくなっていた。


「これからも頑張ります!!」

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