92 オーランドサイド
★オーランドサイド
アリーナの部屋を出て、ティーワゴンを取りに行く。と言っても途中までは使用人が厨房から運んでくるので自分が押すのは少しの距離だが。
(やはり俺も出ていたのか……)
オーランドはアリーヤとの悪夢のやり取りを思い出す。アリーヤは上手く隠していたつもりだろうが、体がはねたり、震える声で聞いてきたり、どう見ても自分も自死の一因を担っているのは分ってしまった。
『お兄様は何も悪い事はなさっていませんでした』
それはアリーヤだから言えるセリフで、自分からしたらアリーヤが傷付いた時点で「悪い事」なのだ。とは言え何が出来るでも無い。償いたいがアリーヤには隠されてしまった以上知らぬ振りをするしかない。
(謝罪も償いも出来ないのが、ある意味償いなのかもな……)
オーランドはちょうど来たティーワゴン受け取り、アリーヤの部屋へと再度入っていき、茶葉を蒸らしていく。
「お兄様の紅茶って悔しいですが、一番美味しいのですよね」
「当然だ。『社交界一の美丈夫』の私は淑女の奴隷なのでね。この位は簡単に出来ねばな」
勿論、オーランドは女好きの仮面を被っていくうちに、他の男達よりは女性を優しく扱うようになり、女性を喜ばせる技術も多岐に渡って習得している。が、その一番の理由がアリーヤだと知ったら彼女はどう思うだろうか。
何より、アリーヤへの茶葉はいつでも自分の魔力を流しその時アリーヤが求めるであろう茶葉にできるだけ寄せている。
「お兄様ってなんだかいつも楽しそうですわ」
アリーヤの呆れたため息が聞こえる。普通なら自分に向けてため息を吐かれらば傷つくのかも知れないが、オーランドはその溜め息を聞く度自分の仮面が外れていないと分かり安心する。
「ふむ。その見方は甘いな、浅慮なアリーヤよ。なぜ私が『社交界一の美丈夫』と謳われているか知っているか?その裏に見える憂いを含んだ影のある物憂げな美しさを皆が感じているからなのだよ」
「お兄様以外、社交界一の美丈夫は誰も謳っていません。それにお兄様で影があるならレオナルド殿下でもある事になりますわ」
「おや、その悪口は私の硝子の心が千々に砕けるぞ。私はあの童貞王太子より能天気でも能無しでもないと自負しているが?」
「……誰も能無しとは言ってませんし、『レオナルド殿下』も悪口では無いのですが……」
オーランドはそう言っては静かに紅茶を差し出す。オーランドはアリーヤが死んでいたら、こんな下らない会話すら出来ないと思うとこの会話すら愛おしいと感じると共に自分が一因になっている事に胸が苦しくなった。




