88 オーランドサイド
★オーランドサイド
ああ、その通りだ。阿婆擦れには嘘でも褒め言葉など言えない。今はまだリリアーナから情報が欲しいオーランドは勘違いしてもらわないと困るのだが、今までの会話の何処にも褒めたところなどない。
待つ姿が絵になると言ったのは「待っている姿が滑稽」だと言う事。空間が目に焼き付き感情が抑えきれないと言ったのは「不快な光景に苛立ちで感情が抑えきれない」眩くて目が眩むは「派手で目眩がする」という意味。
(本当に学がないとこんなにも喜べるとは。笑いを通り越して哀れに思うな)
「しかし、そのピンクの指輪はご令嬢のように煌びやかだ。とても似合っていますね」
オーランドはミリーが持っていたのと同じ石の指輪を見ては「気持ち悪くて派手だな」と遠回しに言う。リリアーナは相変わらず嬉しそうに「お義父様がくれたの!」と答える。
(やはり伯爵か……)
「ドーソン伯爵ですか。私の父は公爵ですが『公爵家』でもこのような珍しい石は手に入らないのです。それなのに、こんなに見事な物を……伯爵はご令嬢を余程溺愛しているとお見受けする」
「ん~~お義父様は私の事溺愛はしてないけど、ネックレスに指輪に後、こっちの指輪も。これを毎日付けて殿下と話せば、お父様は好きな物なんでも買ってくれるの!」
オーランドはそのセリフに体が一瞬反応しそうになるのを抑える。つまり「この石を着けて童貞王太子と話す事」が伯爵には重要なのだろう。ミリーの時のように何かトリガーがあるのだろうか。
「殿下の話し相手が勤められるとは、ご令嬢は流石ですね。私のような者には殿下のお考えは計りかねてしまい、まともに勤まりません。何かコツがあるのですか?」
本当にあの童貞王太子と話が釣り合うなど、まともな人間には無理だ。そう言う点ではリリアーナを話し相手に紹介したドーソン伯爵は人格者かもしれない。でなければ別の人物が「被害」を受けていた。
「特には無いかなぁ。ただ、こうすると殿下は喜ぶってお義父様が言ってたの!」
そう言ってリリアーナがオーランドの腕に自分の腕を絡め胸を押し付けようとしてくる。間一髪でリリアーナの奇行は避けられたが、オーランドは捕まっていたらと思うと身の毛がよだつ。
「特別なご令嬢に触れられては私の心臓が止まってしまう」と本音を言えば、女好きで通している自分が言えば訝しがられるかと思ったが、都合良く解釈してくれたらしくそれ以降の「攻撃」は無かった。アリーヤへの2回の暗殺を除けば生きてきた中で1番の恐怖だった。
だが、伯爵自ら婚約者のいる男にこの様な事をけしかけるように言っていたとは驚きだ。毎回レオナルドと会う度リリアーナが腕を絡めていたが、あれがトリガーだったのか。
レオナルドに何をしているのかは不明だがこれ以上付き合うことも無い。なにより、自分の精神衛生上とても宜しくない。オーランドは上手いことリリアーナを言いくるめ屋敷へと帰る。
「早くアリーヤで癒されたい……」
馬車の中で恐怖を取り除くようにオーランドは深呼吸をした。




