表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/94

86 オーランドサイド


★オーランドサイド

 

あの阿婆擦れのせいで折角の雰囲気がダメになった。別にアリーヤと、どうなりたいとかは無い。ただ、ほんの少しくらい自分にも褒美が欲しかった、と言うのは建前で。まぁ、要はデートに誘えるなら誘ってみたかった。


向こうはデートとは思っていないだろう。勿論そう思われると自分がどうしていいか分からないのでそれで良いのだが。優しいアリーヤが断らない事は初めから分かっていた。分かっていた上で誘う自分は


(悪い男だろうか)   


オーランドはアリーヤを家に送ると、王宮へとまた馬車を向かわせる。


(童貞王太子に阿婆擦れ……2人とも宝石が増えていた) 


緑とピンクは勿論他にも幾つか宝石を着けていたが、どれがあの石なのだろう。緑だけなら判別しやすかったのに、ピンクが出てきた事で他の色の石もある可能性が出できてしまった。となれば、王宮にどれだけの人間がそれをつけているのか。


(それを知る為にも阿婆擦れと茶会をする訳だが……)

 

はぁ、とオーランドは静かなため息を漏らしては車窓から外を眺める。その姿はまるで1枚の絵画のようで、もしここにアリーヤがいたのならその頬を染めていただろう。


伯爵の目的は未だ不明だ。あの石で何をするつもりなのか。王宮を支配したいのならアリーヤを狙う必要は無い。阿婆擦れ(むすめ)を王太子妃にしたいのなら、今の王太子なら唆せば一瞬で破棄するだろう。   


アリーヤが邪魔ならば王宮を狙う意味が分からない。横領をしたいがアリーヤの真面目すぎる仕事ぶりのせいで邪魔をしたいのか。そんな下らない事に犯罪者とはいえ何人もの命を使った石を作るだろうか。


(流石にそれは見返りが少なすぎる――)


人格者としての地位を守ってきたのに横領の為だけに人殺しをしていたら、結局絞首台行きで財産は全て奪われる。伯爵はそこまで馬鹿では無いと信じたい。娘の馬鹿さには呆れてものも言えない。


いつからアリーヤを「さん付け」で呼べる立場になったのか。王太子から寵愛を受けようと所詮は元孤児の伯爵令嬢。生まれた時から公爵令嬢とは立場が違う。いや、あの阿婆擦れが元からの公爵令嬢だとしてもアリーヤとでは雲泥の差だ。


それでは比べられるアリーヤにも喩えられる泥にも謝っても謝り切れないが。やはり、あの阿婆擦れをドーソン伯爵本当に『人格者』なら連れてはこない。


(そう言えば、アリーヤは阿婆擦れを見て急に体調を崩したが、何があった?)


自分も阿婆擦れを見ると吐き気をするから気持ちは分かるが、アリーヤのあれは違う。何かを恐怖していた。自分の知らない所で心無い事を言われていたのか?


あの阿婆擦れなら有り得ない話ではないが、少なくとも自分が初めて執務室を訪れた日、アリーヤは冷めた目で窓から眺めているだけで何の感情もなかった。自分が執務を手伝うようになってからも阿婆擦れとアリーヤが2人で話す機会など殆どない。


(では夢の中で――?)


1番考えられるのはそれだ。自分が夢に入った時にはアリーヤは既に1人暗いところにいた。勿論、アリーヤに辛い思いなど少しもさせたくなくて、悪夢の内容も聞いてはいない。


正直を言えば知りたいのが本音だ。それが何かの手がかりになるかも知れない。だが聞けない。仮にあの阿婆擦れが身の程を弁えずアリーヤの夢に出てきたとしよう、だとして何がアリーヤをあそこまでさせる?


阿婆擦れが出てきた時点でトラウマになってもおかしくないが、そんな風には見えなかった。もっと恐ろしい何かだ。ふと


『触らないで!』


と悪夢から冷めたアリーヤの自分への声が過ぎる。その前にもアリーヤは悪夢から起きた時、無意識に自分へと震えるように涙を流しながら手を伸ばした事を思い出す。

 

(俺も、いたのか?) 


悪夢なのだ、勿論自分もアリーヤを傷つけたのだろう。夢とはいえ、自分がアリーヤを傷つけた事が許せない。


(俺もアリーヤの死に加担していた……?)


勿論夢だ。どうにか出来る訳ではない。けれどオーランドはその考えに至った時ゾッとした。せめてもっと魔法を早く使っていたら。無自覚に死に追いやっていたのはミリーだけじゃない。自分もだ。   



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ