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★アリーヤサイド


「さて、面倒だが書類を返しに行ってこよう」


オーランドは山のようにあった書類を漸く仕分け終え、 アリーヤに関係のない書類を返しに行こうとドアへと歩いていく。


「返しに行くのですか?」


ふと、そんな言葉が口から漏れる。当たり前だ。返しに行かなければ自分達の仕事が増えるのだ。なのに


「王宮は広くあちこち歩き回るのは大変です。お兄様もいるのですから私達でやれば良いのでは?」


出てくる言葉は真逆だ。オーランドは訝しげにアリーヤを見る。悪夢のように誰かに言わされている訳ではない。ただ、返した方が良いに決まってると理性では分かっているのに 


(なんだか、行って欲しくないんだもの――)  


アリーヤはこちらを伺うように見つめる2つのパライバトルマリンのから逃げるように下を向く。    

 

「……ふむ。なんとも可愛げのないお願いだが、麗しい女性の願いを聞くのが『社交界一の美丈夫』な私の義務であり、使命だからな。お前の趣味に付き合ってやろう」


オーランドはその長い足で机に向かって歩き、レオナルドが出ていった時とは違い、優雅に着席し、顎に手を置きアリーヤの方を見つめる。

 

「ただし、流石にこの願いは少々骨が折れる。私の願いも聞いてくれるか?」

「な、なんでしょうか?」


席に戻ってくれた嬉しさと、どんな願いを言われるのかと緊張と恥ずかしさで心臓がうるさい。王太子妃教育で「どんな時でも表情を変えない事」を今ほど身につけていて良かったと思った事はない。厳しい教育に耐えた思い出が頭を過ぎる。すると普段と違う少し優しい声で


「なんて事は無い。次の休みに私と街に付き合え」

「ま、街!?お兄様と!?」

「快気祝いの用意を私だけ忘れてしまったからな。『社交界一の美丈夫』としては流石に格好が付かない。しかし恥ずかしい事にお前の好みはあまり分からなくてな。嫌か?」     


オーランドは肘をつき手にその美しい顔を乗せながら少しだけ顔を傾ける。「社交界一の美丈夫」なんてオーランドの口癖で何度も聞いたはずなのに、少し口調と声色が違うだけで、また心臓がうるさく鳴る。


「い、嫌ではありませんが……それでは私が貰ってばかりでは……」 


少し吃ってしまったが許容範囲だろう。今のこの兄に緊張しているとバレたらなんだか凄く恥ずかしさを覚える。この理由は知ってはいけない気がする。


「構わない。『麗しい女性の奴隷』の私の見栄、いや、名誉挽回だと思ってくれれば良い。それを叶えてくれるのなら、私も喜んでこの書類の山と付き合おう」

「……わ、分かりました」


アリーヤが静かに頷くと、オーランドはあの調理場で会った時のような顔で微笑むので、急いで書類に視線を走らせた。露骨かと思ったがオーランドも何も言わず、静寂の中ペンが走る音が聞こえて来た。何となく居心地が悪いのに、アリーヤはその居心地の悪さが、ふわふわとどこか心地良かった。



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