75 オーランドサイド
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★オーランドサイド
「そんなに暗い顔をしないで下さい。折角俺が、朝から『世界一の美丈夫な私』として完璧な挨拶をしたと言うのに、喜ぶどころか更に沈むなど『昨夜の俺より冷酷』なのでは?これでは飯が不味くてかないませんよ」
オーランドは敢えて皆の前で「昨夜の俺より冷酷」と皆が言い難い事を口にする。アルバートがやれやれというようにため息をついた。アレンも苦笑している。
「君ねぇ……僕達は君のように心臓が鋼で出来ている訳でも心臓に鋼の毛が生えている訳でもないんだよ」
「なるほど。アレンの心臓は鋼ではなくダイヤモンド出てきているという事か。なら問題ないだろ?父上と母上の心臓はオリハルコン級だと思っている。つまり俺が一番繊細だ」
アルバートとアレンがさらに思い切り溜息をつき、オリヴィエがくすくすと笑う。
「ああ、もうどうでも良いや。君とどう接しようか公爵夫妻と話し合っていたのにさ」
「俺抜きでか?それでは話が進まないだろう?それとも話し合った結果が『無視』という事か?」
「残念ながら結論を出す前にナルシストな君が来たよ。落ち込んでいたらなんて励まそうか悩んだ僕がバカみたいだ」
「なるほど。それは悪い事をしたな。入ってくる所からやり直そう。次は落ち込んでやるから思う存分慰めてくれて良いぞ?」
「……やり直したら罵倒しか出てこないよ」
オーランドは何でもないように装いながら、内心は大きく心臓がなっていた。正直「無視」という結論に至っても、それはそれで仕方ないと思っていた。それ程に昨日の自分は本物の「化け物」のように恐ろしかった。なのに公爵夫妻もアレンも「慰めの言葉を考えていた」など想像もしなかった。
「大体、俺が性格も口を悪いのはアレンは勿論、父上も母上もご存知だろう?今更だ。慣れてくれないと困る」
オーランドは堂々と言い放ち、朝食のパンに手を伸ばす。彼の口調は尊大だが、その瞳の奥には、どこか彼らへの「謝罪の意が込められた感情」が揺らいでいる。アルバートがカチャリとカトラリーを皿に置く。
「残念ながら私もオリヴィエもアレン卿もノミの心臓でね。慣れるにはあと100年はかかる。」
「その割には、俺を諌め、ミリーを庇った時の父上の凄みは夢に出てきそうでしたよ。あの凄みに慣れるには俺はあと200年はかかりますね。ああ、因みに母上の懇願には一生慣れません。『私』も『俺』も『基本的』には女性には弱いのでね」
オーランドはわざとらしくアルバートを褒め殺しにかかる。
「……お前も、だいぶ肝が据わったものだ。」
アルバートがそう返すも、その声には疲労と同時に、自身が介入できなかったことへの無力感、そしてオーランドに『悪役』をさせてしまったことへの痛みが込められている。
「当然の事です。俺はどこかの『無能な親バカ』に育てられた『童貞王太子』では無いんです。子は親の背中を見て育つと言うでしょう?つまり、俺が『社交界一の美丈夫かつ優秀で有能で口と性格が悪い』のは、そう言う事です」
「まぁ。少なくとも私は口と性格は悪くないもの」
「ご冗談を。毒花と称されるすずらんを冠した『金のすずらん』の母上の性格は十分知っています。口の悪さは父上譲りですけどね」
「『無能な親バカ』って……」
オーランドはアレンの突っ込みに「どこの国王とは言ってないが?」と肩を竦めて軽口を返しているが、心臓は未だ鳴り止まないどころかさらに大きく鳴っている。
これは夢なのだろうか?こんな自分が受け入れられていいはずが無い。なのに自分を本性を見ても受け入れている彼らに、幸せと嬉しさで涙が出そうになる。こんなに優しい皆にこれ以上迷惑はかけたくない。
「まぁ、父上も母上もアレンも昨日の俺に思う所はあるでしょう。気を遣わせた事に心からの謝辞を申し上げる。それと。私はどうやらアリーヤ至上主義らしい。アリーヤが好きなものは人であろうと物であろうと宝物のように大切に扱い守ります。アリーヤが悲しむのでね。アレン、お前もだ。心優しいアリーヤは私の友人と言うだけで顔を知らずとも気に入るだろうからな」
オーランドはそう言って、完璧な笑顔を浮かべた。その言葉の裏には、迷惑はかけさせない。汚れた自分の隣に、彼らを置いてはいけないのだからという固い決意が隠されいる。
「……有り難いけど僕は遠慮しとくよ」
そう言ったアレンが、内心、いちいち独りになろうと格好をつけそれが様になっているオーランドに苛つき、いつか泣きついて自分に頼るように言わせてやろうと思っているなど、オーランドは知るよしも無く独り固く決心した。
(もし、今後俺が嫌われたとしても……この3人だけは絶対に守って見せよう)




