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70 アレンサイド


★アレンサイド



アレンは公爵家の一番良い客室で一人ゆったりとしたソファに座りワインを飲んでいる。いくら「ルーク」と言うミドルネームを持っていようと自分は子爵家の子息だ。こんなに良い部屋に案内しなくとも良いのにと真面目な夫妻に少しだけ笑ってしまう。


『アレン聞こえるか?お前の魔法を解いた。だが、もうその姿で歩いて問題ない。もうすぐ使用人が来てお前を父上の執務室に案内させるから一緒に来てくれ』 


あの時は驚いた。急に頭の中にオーランドの声が聞こえたのだから。一体何事かと内心慌てふためいてると


『念話だ。気にするな』 


気にする。凄く気にする。心がなぜ読めたのかとか、念話は高等魔法では無いが、基本の魔法でもない。何故そんな魔法が使えるのかとか。それが使えるなら、いつも屋敷に来る前に手紙ではなく念話で連絡して欲しかったとか。

 

『申し訳ございません……ですが、アリーヤは一刻を争う状態でした。こうする他は無かったのです』

『いや。私達を無視してまでお前が『そう判断した』ならばそれが正しいのだろう』 


公爵とのあのやり取りに関係しているのだろうか。良く分からないが、アリーヤが自死しそうになった故に起きた事だけは分かった。 

  

アレンからするとオーランドのイメージは女好きと言うより「極度のシスコン」だ。彼女の為なら文字通り何でもする。例えそれがアリーヤが大切にしている侍女だろうと、アリーヤに害があると思われた瞬間オーランドは敵になる。それは自分はもとよりきっと公爵夫妻もだ。


アリーヤは何故狙われたのだろう。自死するように仕向けられたがあれは立派な暗殺だ。あんな王太子でもその婚約者だからか?リリアーナと結婚させたいのだろうか。


だとしたら、王宮にまであの気味の悪い宝石が広まっている理由が分からない。


ピンクの宝石は今日初めて見たが、緑の宝石をしている人物は王宮で何人も見かけた。あの後も隣国の採掘場である場所には影を忍ばせておいたが、坑道に入っていく鉱夫らしき「元犯罪者」達は何人も居たが帰ってきた者はいないらしい。


犯罪者の「(なにか)」を使って作られた代物なのは間違いない。知らなければ自分にはただの美しい宝石にしか見えないが。


(一番簡単に思いつくのは王宮を牛耳る事だけど……)


いまいちピンと来ない。アリーヤの暗殺に手が込みすぎて居るからかも知れない。まぁ、それも基本の弱い魔法を巧みに操る規格外なオーランドが隣に居るから難しいと言われたらそれまでだが。


……いや、オーランドが霧と水で簡単に姿と音を消したり、茶葉の一枚一枚に繊細に魔力を的確に流して最高の紅茶を作ったり、そんな超絶技巧な魔法を出来ると知っている人が居るのだろうか。


知るはずがない。オーランドはあくまで基本の魔法を基本通りに使うくらいしか表では見せていない。オーランドはきちんと嫌味で女好きで適当なナルシストを演じている。となれば尚更アリーヤの暗殺の仕方が不可解だ。   

  

不可解と言えば、オーランドと自分の屋敷の図書室で本を読み漁っていた時、当時財政難だったドーソン伯爵領の本を見つけた。

 

あの時は「(まこと)の盟約」なんておとぎ話だとオーランドに一蹴されたが、緩やかに傾きつつある自領の立て直しの参考になればと、あの後伯爵家の本を数冊読んだが「特に何が起きた訳ではなく、急に回復」した。


そんな立て直しがあるだろうか。 


(幾ら何でもそんな事、奇跡としか言いようがない)   

  

代々人格者と謳われるドーソン伯爵家には、何か大きな秘密がありそうだ。


『安心しろ。俺は巻き込まないが、お前が勝手に巻き込まれる』  

 

ふとオーランドの言葉が蘇る。今までのように過ごしたいならこれ以上深入りするべきじゃない。自分の頭の中で警鐘がなる。気味の悪い宝石作りに犯罪者の『(あれ)』が使われて、マーチンの出自も分かり、理由は不明だが、その宝石を媒介にミリーを通してアリーヤが狙われたのも分かった。


(もう充分だろ……) 


アリーヤが何か裏がある伯爵家に狙われていると言う事は、きっとリュクソン公爵家にも「何か(ひみつ)」がある。だが、知ったところで何が出来る訳でもなさそうだ。


知るだけ損だ。知らなくてもこれから先もリュクソン家とは仲良くやっていける。寧ろ、知ってしまった事により距離を置く羽目になるかも知れない。現状維持が一番だ。


頭ではそう分かっている。自領を立て直すにも他の事になど関わっている暇は無い。分かっているが、悪役気取って独りで格好をつけているオーランドは


「面白くないな」


いつか「あの時の君の悪役ぷりは、子供の演技が名俳優に見えるくらいに笑える演技だったよ」と揶揄ってやろう。自分を友人にした事を後悔するが良い。独りなどさせてやらない。 


   

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