68 オーランドサイド
★オーランドサイド
「待って、オーランド!」
その時、オリヴィエが叫ぶように口を開く。
「ミリーは利用されただけに過ぎないわ!お母様から受け継いだ温かい習慣が、こんな卑劣な事に悪用されるなど誰も予想できないわ。ミリーの忠誠心は本物よ!?」
「オリヴィエの言う通りだ。アリーヤを思うミリーの気持ちに疑いはない。」
「奥様……旦那様……」
オーランドは、3人のやり取りに内心ほくそ笑む。公爵家として厳しくも慈悲深い二人なら必ずミリーを庇うと信じていた。
「ははっ。公爵夫妻、それはあまりに甘いお言葉だ。女性に愛を囁く『私』ですらその甘さに舌を巻きますよ。『これ』は公爵令嬢を……貴方がたの愛娘を自死寸前まで追い込んだのです。知らなかったでは済まされません。奴らの責任は重大では?社交界では、その甘さが命取りになることもご存じでしょう?」
オーランドは、敢えて煽るような口調でオリヴィエとアルバートを糾弾した。
「だが『リュクソン公爵家当主』はこの私『アルバート・リュクソン』だ。罰を決めるのも私だ。ミリーは死罪になどしない。公爵令息如きが口を挟めると思うな」
「なるほど。何のメリットもない、いずれは平民になる子爵令嬢を庇うとは。いやはや、当代のご当主の優しさには恐れ入る。その甘さに足を掬われ没落するリュクソン家。行き場を無くす領民を思うと涙を禁じ得ませんね。」
「いい加減、口を慎め。たとえ息子だろうと、これ以上私を、リュクソン家を侮辱するのは看過できん」
「おっと。それは恐ろしい。さすがに俺もリュクソン公爵を敵に回す程愚かではありません。公爵のご意思に従いましょう。ですが、俺が公爵家を継いだ暁には貴方がたを反面教師と致しましょう」
オーランドは大袈裟に肩を竦めるて嘲笑する。その視線は、ミリーの反応を微かに探る。ミリーの瞳には、オーランドへの明確な憎悪が浮かんでいた。成功だ。
(計算通りだ。これで、ミリーの憎悪は俺に集中し、ミリーを庇った公爵家への忠誠は揺るがぬだろう)
アレンは兎も角ミリーには言えない。彼女はただの「童貞王太子の婚約者の筆頭公爵令嬢」に手を出したのではない。自分の推測が正しければアリーヤは建国物語に関わる人間で、国王のように首をすげ替えれば終わりでは無い、正真正銘の唯一の存在だ。
この国の、いや、世界の理にとって、彼女の存在はあまりにも大きいはずだ。実際、死罪になってもおかしくない。
だがきっと、夫妻とアリーヤはそれを望んでいない。だからこそこの場で、自分は話題を逸らし公爵夫妻を煽り激怒させ、自分が公爵を侮辱した罪として「死を望んでいた自分の当てつけにミリーを許す」と言わせた。
勿論それだけではミリーの罪には釣り合わないので「自分に必ず公爵家を継がせる」という条件も入れて。
アルバートとアレンは、公爵家とアリーヤを守るためならば、自らが悪鬼となっても構わないという深い決意で、アルバートがミリーを許す口実をオーランドが作っていた事に気付いていた。そしてそれがこの流れでは一番だと言う事も。
オーランドのその瞳の奥に、いつもとは異なる「本気」の光を見た。それは、アリーヤへの絶対的な忠誠と、彼女を傷つけた者への一切の容赦ない怒り。
しかし、彼らは口に出来ない。それはオーランドが、その孤独な役割を自分一人で背負うことを覚悟しているからだ。
アルバートは自分達の望みの為には、オーランドが悪役になり口実を作らせることしか出来ない、そんな自分の不甲斐なさに内心自分への怒りでどうにかなりそうだった。




